【ヘンな食べ物】(37) “絶倫食材”は体内で蠢く

世界にはどこでも、“滋養強壮に効く”という食材が存在する。私も、ミャンマー北部のジャングルを反政府ゲリラの兵士たちと一緒に旅していた時、途中の村で“テナガザルの脳味噌の燻製を漬けた酒”を飲んだことがある。真っ黒焦げのサルの頭が半分割られて、オレンジ色の脳味噌が覗いている。これを米の焼酎に漬けたものだが、あまりのグロさに兵士たちも辟易し、飲んだのは私だけだった。煙臭くて美味くはなかったし、特に精力がついた感じもしなかった。今回はどうだろうか。ここ新宿の『上海小吃』では、既に普通の人の一生分くらいの“絶倫食材”を腹に詰め込んでいた。別に若い愛人がいる訳でもないのに、私と担当編集者のYさんは、何かに取り憑かれたかのように更なる精力剤に挑んだ。“牛のペニスと牛すじの煮込み”。調理前のものを見せてもらうと、警察官の持つ警棒のような形状だが、軽くてプラスチックのよう。白い玉袋が付いているので辛うじて一物だとわかる。これを油で8時間も煮て柔らかくするという。食べてみると、牛すじとタマネギと一緒に醤油で煮込まれているせいだろう、牛丼によく似た味だ。ペニス自体は軟骨より柔らかく、でも脂身よりはコリコリした食感。普通に美味しい。更に更に、勢い余って女性向けの“効く料理”も試した。何と“カエルの子宮”。これはデザートだった。ナタデココにも似た透明で、ぷるぷるした物質が甘いミルクの中に浮いている。上海風寒天のスイーツとでも説明したら納得してしまうような味わい。これがカエルの子宮なのか? 「一体、何匹のカエルを使っているんだろう…」と考えてしまう。

「これを食べると生理が長くなる(閉経が遅くなる)」と美人店長。「私、毎日、1口ずつ食べてる。54歳だけど未だ効いてるよ!」。説得力がある。とてもその年には見えないし、女性ホルモンを誘発する作用があるのかもしれない。性の力がアップするという意味では、これも“女性用絶倫食材”と呼べる。扨て扨て、この日、私たちは一体どれくらい“絶倫食材”を食べたのだろうか? 間違えて食べた生のバッタとセミの幼虫、それに揚げた巨大ムカデ・サソリ・タランチュラ・ヘビ・牛ペニス・カエルの子宮。質量共に凄まじい。後で編集のYさん(40)に訊いたら、「その晩は下半身が20代のようになっていました!」とのこと。「えっ、本当に効いたのか?」とびっくり。私は、下半身に特に異常は感じられなかった。でも、実はもっと異常なことが起きていた。翌朝、目が覚めて台所へ行くと、大鍋1杯ものカレーを発見したのだ。「何だこれ?」と目を瞠った。記憶に無いのだ。でも、よく考えると、「昨晩、俺、何か作っていたな…」とぼんやり思い出した。そうだ、帰宅するなり急にカレーが食べたくなったのだ。その衝動にまかせてシャカリキに野菜や肉を切ったり炒めたり煮たりした。何故、そんなことになったかわからない。これまで私は、外で飲み食いした後で料理など一度もしたことがない。しかも、あれだけ飲み食いして空腹の訳がない。なのに、その晩は体が闇雲に動いて止まらなかったのだ。恰も何かヤクでもやっているかのように。そして、1時間くらいかけて作り終えると、突然、電池が切れたかのように眠くなり、1口も食べずに寝てしまった。こんなことは人生初の体験だ。ムカデかヘビか牛ペニスかが、脳内か体内で蠢いていたのだろうか。でも何故、精力増進じゃなくてカレー製作なんだろうか? 首を捻るばかりの私だった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年5月18日号掲載
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