【ナゾノミクス】(04) 働き方、長時間労働なぜダメ?

20170519 04
香川県の不動産会社で戸建て住宅の営業を担当する田中純一さん(仮名・29)は忙しい。物件の下見に資料作成等を終え、帰宅するのは22時頃。顧客にとって“一生の買い物”の住宅を売ることにやり甲斐は感じるが、最近は少し疲れてきた。今、日本では多くの企業が働き方の見直しを進めている。「早朝勤務に残業も厭わず、会社の為に働いてきたビジネスパーソンたちを変えなければ、国も企業も成長しない」と言われている為だ。しかし、頑張っても成長に繋がらないのは何故なのか? 働き方で先ず問題になるのが、長時間労働だ。『経済協力開発機構(OECD)』によると、日本人の1週間当たりの平均労働時間(※短時間労働者を含む)は33時間29分と、フランス人の2倍。先進国が集まるOECD加盟国で最も長い。抑々、日本人はいつから“働き過ぎ”なのか? 古くは江戸時代に、武士の家に住み込んで働いた奉公人の習慣が起源との説もあるようだ。企業でも、時間を忘れて“滅私奉公”する部下を上司が褒めることがある。これが効率の良い働き方かどうかは別問題だ。

同じOECDのデータで、労働者が1人当たりどれだけの付加価値を生み出しているかを示す“労働生産性”を見ると、日本はアメリカの6割に留まる。日本人は、働く時間が短い海外の人に、成果で見ると負けている。効率が悪い原因の1つが、日本は個人の仕事の範囲が曖昧であることだ。欧米の企業で働く人は、仕事の範囲を定めた“職務記述書”を入社時に示されることが多い。しかし、日本では自分と同僚の仕事にはっきりとした境目が無い。この為、「『自分だけ帰るのが忍びない』という気持ちになり易い」(作家・人事コンサルタントの城繁幸氏)。長時間労働の弊害は多い。早稲田大学の黒田祥子教授によると、「1週間当たりの労働時間が50時間を超える人は、所定内時間で働く人に比べてメンタルヘルスが悪化する傾向がある」。疲れて働く意味を見失うと、仕事の効率は下がる。健康を損なえば働けなくなる。この為、政府は働き方改革の第一歩として、残業の上限を月45時間にすることを決めた。従業員が気持ちよく働き、十分な成果を出せば、企業は業績が良くなる。黒田氏は、「働き方の見直しをすることで優秀な人材が集まる企業は、生産性が高まる可能性がある」と見る。今後は、年老いた両親を介護する人も増えてくる。長時間労働をしていては、家族に目配りできないことは言うまでもない。従業員の頑張りを長時間労働ではなく、効率よく成果に繋げる環境を作ることが、日本の経営者の課題であり、日本経済の課題となる。 (古賀雄大)


⦿日本経済新聞 2017年5月5日付掲載⦿
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