【Global Economy】(37) ニューヨーク5番街、消えた旗艦店…インターネット通販拡大、閉店ドミノ

アメリカの小売業界で、過去に例のない規模の閉店ラッシュが起きている。インターネット通信販売に押されている為だ。日本にとっても他人事ではない。 (本紙ニューヨーク支局 有光裕)

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世界の高級ブランドが軒を連ねるニューヨークの5番街。先月14日、アメリカを代表するファッションブランド『ラルフローレン』の旗艦店は、大勢の客で賑わっていた。翌15日の閉店を前に駆けつけたファンたちだ。嘗てニューヨークで暮らし、この日はフロリダ州から来たという主婦のソニア・シャルマンさん(58)は、「ラルフローレンは欲しい服ばかりで、時間をかけて本当に好きな服を選んできた。閉店前に感謝の気持ちをどうしても伝えたかった」と涙を浮かべた。1960年代に自らの名に因んだブランドを生み出したラルフ・ローレン氏は、2014年9月にこの店を開いた。「洋服だけでなく、食事でも客を包み込みたい」と、店内にコーヒーショップ、近くにはレストランもオープンした。しかし、3年足らずで撤退を余儀なくされた。誤算の背景には、インターネット販売の普及がある。ラルフローレンは先月4日、「会社の持続性と収益改善、ブランド発展の為、価格競争力が高く柔軟性もあるインターネット販売を強化する」と発表した。アメリカの小売業界で、大規模な閉店が相次ぐ。大手百貨店の『メイシーズ』は昨年8月、全米で展開する約720店の1割以上に当たる100店を閉鎖する方針を打ち出した。小売り大手の『シアーズホールディングス』も今年1月、全体の約1割に当たる150店の閉鎖を発表。樹脂製のサンダルが日本でも人気の靴製造・販売『クロックス』は、アメリカ国内の約160店を閉める計画だ。「アメリカの小売企業が今年閉鎖する店舗数は8600を超える」との予測もある。世界の流通業が経験したことのない構造変化だ。インターネット通販は、アメリカの小売り販売額の約1割を占めるまでに成長した。主役は『Amazon.com』だ。Amazonは今年、アメリカの衣料品販売額でメイシーズを抜いて最大手になる見通しだ。Amazonも顧客を引きつける為、工夫を凝らす。2013年にはニューヨークに、2015年にはロンドンに巨大な写真スタジオを開いた。そこで撮影した写真や動画を使い、洋服の着こなし方等を消費者のスマートフォンに発信し、購入を促す。従来のファッションショーに対抗するかのようだ。

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インターネット販売の拡大は、アメリカ社会に新たな課題も突き付けている。都市部では、配送トラックの増加による交通事情の悪化が問題になりつつある。『アメリカ郵政公社』が運んだ荷物は、2011年の約33億個から2016年には約52億個と、5年で50%以上増えた。宅配業界への新規参入も相次ぐ。ジョージ・ワシントン大学のクリストファー・ラインバガー教授は、「ニューヨーク市内の駐車違反の罰金だけで、膨大な負担を強いられている運送業者もある」と話す。道路の整備やマンションの駐車スペース確保等も急務となっている。スーパーマーケット等の減少で、日常の買い物が不便になる“買い物弱者”の増加を懸念する声もある。ニューヨーク市立大学シティカレッジのアリソン・コンウェイ准教授は、「インターネット販売はクレジットカードの利用が前提だ。店舗が減ると、低収入等でカードを持てない人が取り残される恐れがある」と指摘する。雇用の行方も気がかりだ。アメリカ労働省によると、アメリカの百貨店で働く人の数は、先月時点で約127万7000人。ピークだった2001年の約178万2000人に比べ、30%近く減った。同じ期間の雇用の減少幅は、ドナルド・トランプ大統領が復活を目指す製造業(※約25%減)を上回る。アメリカの小売店で働く人は、女性やマイノリティー(人種的少数派)の割合が高い。白人男性の比率が高い製造業に比べて政治の関心が向き難く、対策が遅れかねない。ただ、アメリカは日本に比べて従業員が解雇され易いものの、次の職に移り易い面はある。アメリカの小売りの雇用減について、専門家の間では「業界がシャッフル(入れ替え)の時期を迎えている」として、「新たな成長企業が雇用の受け皿になる」と言われる。実際、Amazonは来年半ばまでに正社員を約10万人増やす方針だ。衰退産業から成長産業に転職し易い社会作りは、アメリカと同様にインターネット通販が広がる日本が見習うべき点でもある。

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■IT活用、生き残りのカギ
アメリカでインターネット通販が勢いを増す中、収益を伸ばす流通大手もある。成功の秘訣はITの活用だ。小売り最大手の『ウォルマート』は、昨年11月~今年1月、アメリカ国内の既存店売上高が前年同期比1.8%増えた。四半期としては約4年半ぶりの高い伸びだ。2014年秋から2年半に亘り、増収が続く。ウォルマートが開発した“スキャンアンドゴー”と呼ぶサービスは、客が店内で商品のバーコードにスマホを翳すだけで、支払いはクレジットカードで決済される。客はレジに並ばずに買い物を済ますことができる。ホームセンター大手『ホームデポ』の今年1月期連結決算は、売上高が前期比約7%増の約945億ドル(約10兆円)だった。アメリカ国内の店舗数は1977店(※今年1月時点)で、5年前に比ベ3店多いだけだが、この間の売り上げは3割以上も増えた。ホームデポは、客がインターネット上で注文した商品を店で受け取るサービスを展開する。アメリカの宅配は通常、配達時間を指定したり、人口密度の低い地域に配送したりする際に追加料金がかかる為、店に取りに行くやり方が喜ばれる。商品を取りに来た4人に1人が、別の商品も買って帰るという。コンサルタントのロナルド・フリードマン氏によると、「ファッションビジネスを始めるのに、10年前は30万~50万ドル(約3300万~約5500万円)あればよかったが、今は100万ドル(約1億1000万円)近くかかる」という。販売や広告等で、IT投資が格段に重要になっているからだ。『日本貿易振興機構(JETRO)』ニューヨーク駐在の八山幸司氏は、「小売業者が生き延びるには、リアル(店舗)とインターネットを融合したオムニチャネルの確立が不可欠」と指摘する。日本の小売業界にも大きな課題となる。


⦿読売新聞 2017年5月19日付掲載⦿




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テーマ : 経済
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