【オトナの形を語ろう】(25) 喧嘩に常勝はあり得ない…“後始末”を忘れてはならない

どんな事柄でも、大人の男が何事かをなせば、大抵のものは“始末”が伴う。喧嘩も然りである。いや、喧嘩は、男のなしたことの中でも“始末”が大切なものの1つだ。相手が、その時に初めて逢った相手であっても、例えば大小は別にして、傷付けていた時は余計である。喧嘩の後始末は、基本は謝ることである。勝ったように見えた喧嘩なら尚更である。「えっ? 相手が明らかに悪かったんだし、こっちが勝っていても謝るんですか?」「そう、勝ったと他人が見做していれば、相手に謝ることは、始末としては上等である」。謝って無駄なことは何ひとつないのが、世間というものである。大切なのは、普通に生きたいのなら、必要外に、人に恨みを持たれないことである。違う稼業なら、それは稼業が持つ運命だから仕方がない。己の血・他人の血を日常として流さなくてはならない仕事なら、これは論外で、彼らは自分たちが成仏できるとは思っていないし、そういう人間らしい生き方を拒絶したところから人生が始まっているからである。「他人の恨みを買うな」というのは、別に喧嘩でなくともそうである。仕事でも然りで、“後腐れ”を残して上へ昇って行く奴を見ていると、「何れやられるだろう」と思ってしまう。

それでも案外と無事に昇る輩がいると思っていたり、そういうケースを見ている人もいようが、生きることの、人生の決着というものは、そう容易くはいかない。一方で、悪党ほどよく眠り、悪党ほどのさばっているのが世の中の道理であることも事実だ。だから世間は面白いのである。“不始末”を覚えておくことである。“後腐れ”を胸のどこかに忘れずに置いておくことである。そうでなければ、ある日突然、不意打ちを食らう。訳もわからずに死ぬのは誰でも嫌であろう。「いや、おふたりは仲がよろしいですね。一体、いつからの仲なんですか? 最初の出逢いは何だったんですか?」と聞かれて、2人が苦笑し、こう口にするケースがある。「最初はバカなことだが、殴り合いになってね…」。これは喧嘩の始末が良かった好例である。扨て前回、「喧嘩はどちらかが敗れたと思うまで終わらない」と話したが、“敗れた”と自分が納得するのも喧嘩の始末の1つなのである。腕に自信があり、度胸も人一倍ある男でも、喧嘩において常勝ということはあり得ない。後始末が悪ければ平然と敗れるし、殺られてしまう。勝ち誇れば勝ち誇るほど、その男の身の危険は増す。勝った者でさえそうなのだから、敗れたと見做されたほうは、どこかで“敗れた”と自覚し、「敵わなんだ…」と敗れたことを認めるのも、喧嘩の後始末の1つである。

そう認めてしまうと、これが思っている以上に気持ちが晴れる場合が多々ある。同時に、そう認めることは、その喧嘩と離別できる長所がある。離別とは、忘れることでもある。いつまでもくよくよしないで、「敗れたものは敗れたんだから…」という考えを持てれば、それ以降の見込みは大いにある。次に、喧嘩を物で始末することもある。仕事上の喧嘩等はそのイイ例で、どちらかが痛む結果になっていれば、その痛みを和らげる為、痛みの分の量を物で解決することは、昔からよくなされたことである。肉体として傷等があれば、痛みの量を金で解決することはおかしいことではない。金については何れその章で話すが、金は万能ではないが、万能に値するものを持っている。金で解決することは、案外と始末としては良策である場合が、これも多々ある。喧嘩の後始末のことで色々話したが、最初に話したことを思い出してほしい。それは、“喧嘩は1人でやる”ということである。だから当然、今週話したことは全て1人で始末をつけるということなのである。しかし、喧嘩の始末に1つ、面白いものがある。仲裁である。仲立ち人が入るケースがある。これは昔から、そういう役柄を引き受けてくれる人がいて、その存在は、世間で言う“生きる術”の為にある。仲に立つ人がいて、相手の人柄・性根をよく見て、適うとなれば全て任せるのが宜しい。一旦任せたら、結果は言わず、受け入れるのが宜しい。


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺』(集英社)。


キャプチャ  2017年5月29日号掲載

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