【点検トランプ政権100日】(06) 対テロ、大統領令に固執

20170523 03
イラク北部のアルビル。クルド自治政府治安部隊の司令官室に、1畳ほどの大きさの“戦略図”が掲げられていた。無数の矢印が示すのは、イスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』が居座る拠点都市・モスルの中心市街地だ。矢印は、各部隊の進軍状況を意味するという。「ISは包囲された。もう逃げ場は無い」。同部隊のオメル作戦部長は、司令官室で表情を引き締めた。ISは、イラクで略奪・虐殺・遺跡の破壊等、暴挙を繰り返している。アメリカ軍主導の有志連合によるIS掃討作戦が始まって約3年。約20万の兵力を有するクルド人部隊は、イラク政府軍のモスル奪還作戦を支えてきた。アメリカ国務省によると、ISは最盛期に比べ、イラクで支配地域の61%を失った。要衝であるモスルの“解放”は、あと一歩のところまで来ている。「ISの支配地域の縮小は、短中期的には世界中でテロ攻撃の増加に繋がる恐れがある」。軍事研究で定評がある『ランド研究所』は先月、こんな報告書を公表した。「支配地域を追われた過激派が、世界各地に離散して、破れかぶれの自爆テロに走る」。そうした懸念を指摘したものだ。ドナルド・トランプは「テロリストが難民や移住者に紛れて押し寄せてくる」として、就任直後、イスラム圏7ヵ国からアメリカへの入国を制限する大統領令に署名した。ただ、これはテロ防止には逆効果との見方が強い。『ワシントンポスト』は社説で、「テロ防止効果は皆無同然。寧ろ、ISの宣伝活動に利用される」と警鐘を鳴らした。

大統領令は結局、「“信教の自由”の侵害にあたる可能性がある」として、裁判所に執行を差し止められた。テロ対策を巡る迷走は、政権交代後、政治任用の政府高官人事が野党の反対等で遅れていることも一因とされる。トランプは大統領令の効力復活に執念を見せるばかりで、アプローチを変える様子はない。2001年9月11日の同時多発テロ後、綿密な計画と準備を必要とする大規模テロは、アメリカ本土では起きていない。しかし、アメリカ人を狙ったテロは今も起きている。今月3日、アフガニスタンの首都・カブールで、『北大西洋条約機構(NATO)』軍の車列を狙ったとみられる爆弾テロが発生した。アフガニスタン内務省等によると、アフガニスタン人8人が死亡し、20人以上の負傷者にアメリカ兵3人が含まれるという。これに対しISは、「アメリカ人8人を殺した」とする犯行声明を発表。当局発表と事実は異なるが、アメリカ人を標的とする犯行だったことは明らかだ。アフガニスタンでは2014年末以降、ISが急速に勢力を伸ばした。アメリカ主導のNATO軍が戦闘任務をアフガニスタン軍に任せ、後方支援に移行した後のことだ。トランプが“テロ対策”で活路を見い出そうとしたロシアとの共闘も進んでいない。決定的だったのは、シリア軍によるとみられる化学兵器を使った空爆だ。トランプは対抗措置として、巡航ミサイル59発をシリア中部のホムス南東にあるシャイラト空軍基地に撃ち込んだ。ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは、「主権国家への侵略的行為は許し難い」とトランプの判断を詰った。シリア攻撃後初めて行われた今月2日の両首脳による電話会談では、シリア問題で協力の道を探ることで一致したとされる。とはいえ、トランプ自身が「過去最悪かもしれない」と語る米露関係の修復は容易ではない。国務長官のレックス・ティラーソンは今月3日、国務省職員を前にこう演説した。「シリアとイラクでISを打ち負かしつつあるが、ISがその範囲を超えて存在することもわかっている」。言葉の端々に、一朝一夕ではいかないテロ対策の難しさが滲んだ。 《敬称略》 (アメリカ総局 尾関航也・テヘラン支局 中西賢司・ニューデリー支局 田尾茂樹)


⦿読売新聞 2017年5月5日付掲載⦿
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