自動運転が変える産業秩序、自動車業界の新支配者は――まるで人間のようなクルマ、『インテル』は『BMW』と組んで逆襲

20170523 11
“TOYOTA”──。巨大なスクリーンに赤い文字が躍った瞬間、満員の会場は万雷の拍手と歓声で溢れた。今月10日、カリフォルニア州サンノゼで開かれた会見で、アメリカの半導体大手『エヌビディア』は、『トヨタ自動車』とAI(人工知能)を使った自動運転車の開発で協業することを発表した。エヌビディアが開発中のAI用半導体を、トヨタが実際に製品化する自動運転車に搭載。両社は、自動運転の実現に向けたソフトウエアも共同開発する。トレードマークの黒い革ジャケットを身に纏って壇上に立ったジェンスン・フアンCEOは、こう語った。「自動車業界のレジェンドとの協業は、自動運転の未来が直ぐそこまで来ていることを強く示している」。トヨタよ、お前もか。多くの自動車やITの業界関係者は、きっとこう思ったことだろう。ドイツ勢では『フォルクスワーゲン』・『アウディ』・『ダイムラー』と既に提携。アメリカ勢では『フォードモーター』に加えて、EV(電気自動車)の『テスラ』とも協業する。その列にトヨタも加わることになったからだ。AIは自動車の“頭脳”になる。但し、AIもコンピューターの中で動くプログラムの一種。スムーズに頭脳を回転させるには、高性能な半導体が必要だ。1993年にゲーム用の半導体メーカーとして誕生したエヌビディア。長らくニッチ企業の性格が強かったが、そこで培った高度な画像処理技術を生かして、AI用半導体で台頭しつつある。今年1月期の売上高は69億1000万ドル(約7900億円)。AI関連事業の急拡大によって、前期比で2200億円も増加した。今期に入って更に成長ペースが加速。瞬く間にAI時代の寵児になろうとしている。

世界で攻防を繰り広げる自動車メーカー。AIは、競争の前提をがらりと変える可能性がある。従来の産業序列は関係ない。エヌビディアの躍進は、その象徴である。先ず、AIの位置付けとメリットを整理しよう。何故、AIが今、注目されるのか? 端的に言えば、愈々本格的な実用段階に入ったからだ。AIを人間の脳のように“自ら判断する機械”だと捉えれば、イメージが掴み易い。右下図のように、情報をインプットし、人間の脳のように考え、答えをアウトプットする。これがどの産業でも当て嵌まる“AIの使い方”だ。AIの特徴は“学習する”点にある。人間の脳を模した計算手法『ディープラーニング』で、人間が教え込まなくても自ら進化することが可能になった。これまでのコンピューターと違い、学習した内容と全く同じ問題でなくとも、AIは類推して答えを導き出す訳だ。但し、AIが一人前になる為には、膨大な学習用のデータを読み込ませる必要がある。AIブームは1960年代と1980年代に2度訪れているが、当時はコンピューターの計算能力が足りず、結局“ブーム”のまま終わった。2010年代に入って第3次ブームが始まり、愈々本格普及に向けて動き出しているのは何故か? コンピューターの進化により、計算能力が飛躍的に高まり、AIの学習にかかる時間を大幅に短縮できるようになったからだ。自動運転は、まさにAIの出番と言える。センサーやカメラが捉えた人や障害物等の情報をインプットすれば、どのルートをどの程度の速度で走ると安全に通行できるかをAIが判断し、車を操ってくれる訳だ。AIの進化で自動運転の実現が見えたからこそ、世界中の自動車メーカーが一斉に動き出した。現在、実用化されている自動運転は、“レベル2”と呼ばれる運転補助機能。それを更に進め、ある条件下では運転を完全に車に任せる“レベル3”を実現するには、「AIが絶対に必要になる」(ドイツメーカーの自動運転担当者)。『日産自動車』で自動運転技術を担当する同社総合研究所の土井三浩所長も、「どの会社も(AIを使って)車の知能化を進めていくのは間違いない。何故なら、世界は複雑過ぎるからだ」と話す。トヨタは昨年1月、カリフォルニア州にAIの研究・開発拠点である『トヨタリサーチインスティテュート(TRI)』を設立。今年1月には、TRIが関わったAIコンセプトカーを発表した。『YUI』と名付けたAIが運転者のパートナーとなり、自動運転をするだけでなく、運転者の気持ちを理解し、好みに合わせた話題や関心の高いニュース等を提案するアイデアを盛り込んだ。TRIのギル・プラットCEOは本誌等の取材に対し、「AIによって、車の新しい付加価値をメーカーが提供できるようになる」と話した。『ホンダ』はAI技術で『ソフトバンクグループ』と提携し、トヨタと同様に、車が人格を持ったようなコンセプトカーを発表。日産も、AIを使った自動運転の技術開発を加速している。こうした“AIカー”の開発でも、エヌビディアは他社の一歩先を行く。

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先月中旬、シリコンバレーのエヌビディア本社から東に約4000㎞。ニュージャージー州の郊外を、1台の見慣れない車が走っていた。フォードの高級車『リンカーン』を改造したエヌビディアの試作車『BB8』(※右画像)。3種類のAIを搭載した自動運転車だ。運転席に乗った実験の担当者が時折、サンルーフから態と両手を出して、こちらにヒラヒラと手を振った。「ハンドルを握らなくても問題ない」という合図だ。驚くべきは、この試作車がまるで“人間”のような振る舞いをすることだ。搭載したAIの1つである『パイロットネット』。学習させたのは、センサーから得た車の周囲の画像ではなく、人間が運転する時の仕草や目線、障害物に遭遇した時の避け方等の振る舞いだ。車線の有無や異なる時間帯、様々な気候条件等での行動データをAIに学ばせた。するとパイロットネットは、運転する際に注意を払わなければならないポイントを“勝手に”見つけ出した。例えば、車線や対向車のボンネットのような場所に、AIは焦点を当てた。これは人間が普段、無意識に注意しているポイントと全く同じ。つまり、自ら知識を獲得したのだ。エヌビディアによれば、AIの学習はほぼ完了しているという。エヌビディアは何故、他社に先行してこうした開発ができるのか? その秘密は、同社の創業当時からの製品であるGPU(画像処理半導体)にある。「我々が競合より数年先を走っているのは確かだ」。同社で自動車事業を統括するロブ・チョンガー副社長は、自動車用に最適化されたAI車載コンピューターを手に持ちながら、こう話す。“AIカー”を実現するには、高性能なコンピューターが必要になる。同社が開発したGPUには、圧倒的な強みがある。同時に、複数の計算を熟す“並列演算”がずば抜けて得意なことだ。パソコンに必ず搭載されているCPU(中央演算処理装置)は、“A”という計算の後に“B”という計算をする“逐次演算”に向く。演算装置という点では同じだが、例えるならば、GPUは数千人が同時に計算をする研究所であり、CPUは1人の天才の頭脳のようなものだ。

きっかけは数年前、ある社員がフアンCEOに送った1本のメールだった。「大学の最先端の研究では、AIにGPUが使われています」。大量のデータを同時に学習しなければならないAIには、CPUではなくGPUが向く──。このメールを見逃さなかったフアンCEOは、AIをビジネスチャンスと捉え、経営資源を一気にAI関連事業にシフトし始めた。GPUを単なるゲーム用ではなく、AI用の半導体として再定義した訳だ。フアンCEOが言う。「千載一遇のチャンスだ。(経営資源を集中させたことで)ゲームやタブレット向けの商機を失う等の犠牲を伴ったが、必ず手繰り寄せなければならなかった」。エヌビディアのGPUは、AI用の半導体として一気に知名度を高めた。『Google』・『Amazon.com』・『Facebook』…。AIを次なる革命と捉える多くのIT大手が、続々とエヌビディア製のGPUを採用し始めた。トヨタがエヌビディアと提携したのも、この文脈上にある。TRIのプラットCEOは提携発表前、本誌等の取材に対し、「TRIだけでは解決できない問題がある。効率のいいコンピューターを作ってくれる企業とパートナーになって協力したい」と語っていた。「いや、実はこのプログラムを動かせるのは、現状ではエヌビディアのGPUだけなんですよ…」。『デンソー』のある幹部が呟いた。同社が自動運転用のソフトウエア開発のデモで使用していたのが、エヌビディアのGPUだった。デンソーはトヨタグループ最大の部品メーカーであり、1990年代後半からAI研究に着手。AIの専門チームも作っていることで知られる。そのデンソーを以てして“唯一”と言わしめる技術的な優位性を、エヌビディアは持つ。更に、トヨタとの協業では、『エグゼビア』と呼ぶ次世代のGPUを採用する予定。1秒間に30兆回の演算を行う世界トップクラスの半導体だ。「もうデバッグ(※ミスを見つけて手直しすること)はほぼ終わっているよ」。先月中旬、本誌記者はエヌビディア本社の研究所に潜入した。スーパーコンピューターが所狭しと並ぶこの施設は、メディアに殆ど公開しない開発中の製品をチェックする機能を持つ。エヌビディアは、全ての半導体製品の生産を外部に委託するファブレスメーカーである。『台湾積体電路製造(TSMC)』と韓国の『サムスン電子』に製造を委託する。研究所の担当者は「両社に対して、この数ヵ月でエグゼビアのバグを潰す作業を依頼済みだ」と、開発が順調に進んでいることを明かした。製品の市場投入は、予定通り今年後半になる見込みだ。“次代のインテル”――。パソコン用の演算装置で世界を席巻し、コンピューター業界の序列を変えたアメリカの半導体メーカー『インテル』を引き合いに、エヌビディアはこう呼ばれる。パソコンの性能の殆どは、インテル製のCPUで決まるようになった。組み立てメーカーと半導体メーカーの主従が逆転した訳だ。パソコンで起きた序列の変化が、まさに今、AIの登場によって車で起きようとしている。「次の主戦場は車載半導体だ」。AI時代を見据え、世界の半導体大手は挙って、車を目がけて攻勢をかける。その筆頭が、王座の維持を目論むインテルだ。

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昨年12月期の売上高は540億ドル(約6兆2000億円)で、エヌビディアの約8倍。その規模を生かし、2015年には、AI用半導体として有力とされるFPGA(※回路構成を自由に変更できる半導体)大手の『アルテラ』を約2兆円で買収。今年3月には、自動車用の画像解析半導体メーカー『モービルアイ』(イスラエル)を約1兆7000億円で買収することを発表した。インテルは、自動運転車の開発でドイツの『BMW』とも提携。今年1月には、自動運転用の新ブランドである『インテルGO』を発表した。「未だGPUがAI用半導体のデファクトスタンダード(※事実上の標準)と決まった訳ではない」。インテル幹部は、こう強調する。確かに、GPUはAI専用の半導体ではない。「特定用途向けの半導体のほうが、コストや消費電力が低くて済む」との声もある。「必要な機能だけに特化することで、同じ計算処理で電力消費を10分の1に抑制する」。ディープラーニングに特化した半導体を開発する『富士通』で、AI基盤事業本部長を務める吉澤尚子執行役員は、GPUへの対抗心を露わにする。スマートフォン向け半導体世界最大手の『クアルコム』も、車載半導体で世界最大手の『NXPセミコンダクターズ』(オランダ)を買収。車を次のターゲットに定める。「未だ出方はわからないが、車載AI用に特化した半導体を開発する狙いがあるのは明らかだ」。日系半導体メーカーの技術者は、こう話す。AI用半導体の実用化は、車の設計にも劇的な変化を齎す。現在、一般的な車には『ECU』と呼ばれる車載コンピューターが数十個搭載されている。「将来的には1~4個のコンピューターだけになる。能力は現在のECUの1万倍になるだろう。ソフトも同じだ。数百の小型ソフトが1つになる」(エヌビディアのフアンCEO)。コンピューターの能力が飛躍的に向上し、個数が激減するとしたら、1個のコンピューターが車全体に与える影響は、それだけ大きくなる。車の設計や仕様が激変すると、サプライチェーンも再構築を迫られる。こうした業界秩序の激変は、自動車産業だけでなく、どの産業でも起こり得る。新たな“支配者”となるのは、頭脳を司るAIだ。単なるメーカーに留まった企業は、手足のように支配者に使われるようになる。 (取材・文/本誌 島津翔・武田健太郎・小笠原啓・山崎良兵)


キャプチャ  2017年5月22日号掲載



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