【ビジネスとしての自衛隊】(02) 背広組と制服組の対立…防衛省“不信の構造”

20170525 07
「昨晩の報道に関して、辰己(昌良)総括官とお話をされましたか?」――。今年3月11日の衆議院外務委員会で、民進党の寺田学議員(※左画像)は繰り返し“辰己総括官”の名前を挙げて、防衛省の稲田朋美大臣に質した。“昨晩の報道”というのは、『NHK』が報道した南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊の“日報”の隠蔽疑惑だ。防衛省がこれまで「破棄して存在しない」と説明してきた日報が、陸自内部に保管されていたことがわかったものの、統合幕僚監部の背広組である防衛官僚の指示により、改めて廃棄されたというのだ。名指しされた辰己氏は、内部部局(※内局=背広組)の課長や報道官を歴任し、現在は統幕総括官として、国会の委員会で稲田大臣に想定問答を示したり、自ら答弁に立ったりしている。疑惑報道に出てきた“統幕の背広組”にピタリ当て嵌まる。辰己氏は、寺田議員からの「大臣に何を話したか?」との質問に臆することなく、「日々説明しているし、昨晩も話した。何を話したかは差し控えさせて頂きたい」と答えた。テレビ中継を見た防衛省幹部は、「辰己氏が“犯人扱い”されながら堂々としているのは、内局のトップクラスと相談しているからではないか?」と言う。事務次官や官房長と連携しているのは、省内で公然の秘密とされている。事実とすれば、長年、防衛省が取り組んできた防衛省改革に“失敗”の2文字が浮かぶのだ。何故か? 辰己氏は、陸・海・空の自衛隊を一元的に運用する統幕の幹部である。制服組だけで組織されていた統幕は、防衛省改革によって、制服組(※ユニホーム=U)と背広組(※シビリアン=C)が入り交じる“UC混合”の組織となった。内局にあった運用企画局は廃止され、背広組の総括官(※統幕副長級)・参事官(※部課長級)が新設された。参事官の下には、国外運用班・国内通用班・災害派遣・国民保護班の背広組約40人がいる。

だが、背広組が担うのは、国会答弁・対外説明・他省庁との連絡調整といった橋渡し役に過ぎず、内局でやっていた仕事と何ら変わりない。総幕の中核である運用部・防衛計画部・指揮通信システム部等、運用に関わる部長ポストは全て制服組の将官が占め、実務も制服組が仕切る。前出の幹部は、「結局、統幕の中にもう1つの内局ができただけ。辰己氏は統幕長の部下なのに、河野克俊統幕長は陸自で日報が見つかった事実を知らなかった。情報を上げなかったからです。その一方で、内局には報告を上げていた」と話し、指揮命令系統の混乱を指摘する。「長い時間をかけて実現させたUC混合は形だけだ」というのだ。より大きな問題は、政治家が自衛隊を統制するシビリアンコントロールの強化という防衛省改革の目玉が、掛け声倒れに終わったことだろう。防衛省は昨年10月、外部から日報の情報開示請求を受けた際、廃棄を理由に不開示を決定した。その後、統幕で見つかったものの、稲田大臣への報告は1ヵ月も遅れた。それだけでも問題なのに、統幕関与が疑われる陸自への破棄指示については、報告さえ無かった。稲田大臣は、日報問題の全容を明らかにする為、特別監察の実施を命じた。真相が解明されれば、自身が無視されたことが満天下に知られ、シビリアンコントロールの欠如が明らかになる。その一方で稲田大臣の統率力不足もバレるが、それでも構わないというのだ。防衛省の内実はどうなっているのだろうか? 日本の官僚が、政治家や国民を無視して省益を追求するのは、昔からの特徴であり、悪弊である。国民から見れば理不尽だが、優秀な人材なくして官僚制度は維持できない。防衛省が他省庁と異なるのは、防衛庁だった当時から深刻な“人”の問題を抱えている点にある。先の大戦後に発足し、しかも後発だった防衛庁は、人材不足から、大蔵省(※現在の財務省)・自治省(※同総務省)・警察庁から防衛庁の事務次官候補が送り込まれる“植民地支配”が常態化した。過去の事務次官31人の内、防衛庁出身者は9人に過ぎない。省に昇格した2007年以降の7人の内、防衛省出身が6人を占めるが、財務省出身も1人いる。過去、“名次官”と呼ばれたのは他省庁出身者ばかりだ。防衛庁出身で有名なのは、収賄罪等で有罪判決を受け、服役した守屋武昌氏だろう。大蔵省出身の事務次官に贔屓され、後任に指名されたが、権力を掌握するにつれて道を踏み外していった。守屋氏らプロパーのキャリア(上級職)採用が数人と極端に少ない防衛庁当時の世代は、「我こそは事務次官になれる」と思い込んだのか、同期のいがみ合いが絶えなかった。前出の幹部は、「他省庁では同期が次官候補を応援し、出世頭にして、その期の牽引役にする。防衛庁は仲間割ればかり。明らかに仕事の効率が悪かった」と言う。そんな状態で国防を支えることができたのか疑問だが、防衛省プロパーの別の幹部はこう解説する。「日本が戦争をしないから、問題が表面化しなかった。旧日本軍のように敗戦を重ねれば、戦略や部隊運用の間違いを歴史が証明する。我々の舵取りが正しいのか、誰にもわからないのです」。

20170525 08
米ソの冷戦期、防衛庁に求められたのは国会対策だった。自民党と社会党が対立する55年体制下では、神学論争のような自衛隊の憲法論議が主要テーマとなり、防衛庁は適当なところで与野党が妥協する予定調和の論戦を演出すればよかった。現在も、財務省や警察庁からは次官候補が送り込まれる一方、防衛省から財務省へは局長より下の審議官級、警察庁へは課長級止まりで、局長職には手が届かない。防衛省幹部は、「他省庁がポストを渡さない」と言う。位負けしているのだ。過去、上級職(※現在の総合職)の合格者で毎年入庁してくるのは、僅か数人。採用が2桁に乗るのは、1986年度採用の12人が最初で、採用開始から実に32年も経過した後のことだ。総合職試験合格者の内、2016年度採用者は1人で28省庁中11番目。11ある省の内では最下位である。戦争放棄を誓った憲法9条と矛盾する存在の自衛隊を管理する仕事に、魅力を感じないのだろうか? 他省庁から“三流官庁”と蔑まれる防衛官僚が鬱憤を晴らす相手は制服組である。嘗て、自衛隊は国民から“税金泥棒”と悪口を言われ、自衛隊を軽視する風潮は防衛庁内部にまで及んだ。元将官の1人は、「陸海空の幕僚監部といえば、制服組の頭脳中枢です。課長は1佐で40代。その課長が内局で説明する相手は、20~30代の若手官僚。年長者の課長相手に机に足を乗せるバカもいた」と話す。制服組に対する内局優位は、背広組が自衛隊の為の法案を作り、毎年4兆円から5兆円もの当初予算を大蔵省から獲得することで定着した。防衛庁の“力の源泉”は“働く内局”にあったのだ。変化が見えてきたのは、東西冷戦が終わり、自衛隊がPKO等で海外活動することにより、“働く自衛隊”に脱皮したことによる。象徴的なのは、2004年から2年半続いた陸上自衛隊のイラク派遣だ。宿営地に派遣されていたのは、制服組600人に対し、背広組は1人だけ。「危険な任務から逃げた」と考える他ない。

これより先、2001年のアフガニスタン戦争では、海上自衛隊の補給艦がアメリカ艦艇等への洋上補給を、9年間に亘って続けた。アフガニスタンやイラクというアメリカの戦争を支援したことにより、アメリカによる自衛隊への評価が高まり、2007年、防衛庁が防衛省へ“省”昇格する原動力になった。省への昇格に前後して守屋事件が摘発される等、防衛省・自衛隊に不祥事が相次いだことから、首相官邸に防衛省改革会議が設置され、組織の在り方も見直された。2012年の第2次安倍晋三政権誕生により、防衛省改革は漸く実現する。シビリアンコントロール強化を旗印に、UC混合や防衛装備庁の新設が行われた。とはいえ、UC混合は冒頭の日報問題で見た通り、背広組は従来と変わりなく内局の仕事を続け、制服組は部隊運用を聖域化して背広組に渡そうとしない。安全保障関連法が成立した2015年秋のことだ。陸上幕僚監部は報道陣の要望に応え、海外活動の訓練をする国際活動教育隊(静岡県御殿場市)の公開を検討したが、内局から「公開するというなら大臣に直訴してでも止めさせる」という反対意見が出て、結局、見合わせた。内局は、翌年7月に予定されていた参議院選挙に悪い影響が出ないよう、安保法など無かったことにしたい安倍政権の意向を忖度したのだ。陸幕の佐官は、「UC混合といっても、内局優位に変わりないことがわかったでしょう?」と報道陣に釈明した。一部にあった「制服組の暴走に繋がる」との見方は当たらなかった。防衛装備庁の現状は悲惨と言う他ない。“部分最適化から全体最適化へ”をスローガンに、陸海空の3自衛隊が其々に行っていた防衛費の要求を防衛装備庁に一元化する計画だったが、制服組が権限を手放そうとせず、防衛費の内、陸自1兆7000億円・海自1兆1000億円・空自1兆1000億円、即ち“陸・海・空=1.5対1対1”の構図は全く変わっていない。制服組は巨額の装備品を調達するカネを握り続け、装備品調達を手土産に防衛産業へ天下りする。防衛装備庁の仕事といえば、制服組が購入を希望する装備品のライフサイクルコストの計算をしたり、安倍政権で解禁された武器輸出を担当したりで、全体最適化の影も形も無い。それでも、調達官・管理官等37ある課長級ポストの内、背広組が32を占めた。制服組が得た5ポストは何れも、部下のいない“独り幹部”に過ぎない。何のことはない。UC混合とは、内局から運用部門を切り離し、統幕に呑み込ませるのと引き換えに、防衛装備庁という新たな背広組の牙城を築き上げる壮大な虚構だったのだ。改革本丸のシビリアンコントロール強化は迷走を続ける。防衛庁当時、長官を支える参事官制度が置かれたものの、背広組ポストとなって形骸化し、2009年に廃止された。代わりに政治任用の補佐官制度が作られ、事務次官より上に位置して大臣を直接補佐することになったが、現在は空席。補佐官の下には、やはり政治任用の参与が置かれた。ところが昨年12月、参与だった元防衛大臣の森本敏氏、前事務次官の西正典氏、元航空幕僚長の片岡晴彦氏ら3人は揃って辞任し、こちらも空席となった。つまり、補佐官・参与とも不在という異常事態が続いているのだ。森本氏ら3人は前防衛大臣の中谷元氏が任命した為、「中谷路線を全否定したい稲田大臣が辞めさせたのではないか?」との見方が、省内で半ば常識化している。これが事実とすれば、日報問題で浮上したシビリアンコントロールの欠如は、この制度を活用しようとしない稲田大臣にも問題がある。アメリカのドナルド・トランプ政権が北朝鮮への先制攻撃を否定しないことにより、朝鮮半島有事さえ指摘される中、こんな防衛省に私たちの安全・安心を任せていいのだろうか? (取材・文/東京新聞論説兼編集委員 半田滋)


キャプチャ  2017年5月13日号掲載
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

失敗の本質 日本軍の組織論的研究 (中公文庫) [ 戸部良一 ]
価格:822円(税込、送料無料) (2017/5/25時点)




[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

徳川軍団に学ぶ組織論 (日経ビジネス人文庫) [ 小和田 哲男 ]
価格:896円(税込、送料無料) (2017/5/25時点)


スポンサーサイト

テーマ : 自衛隊/JSDF
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR