【誰の味方でもありません】(03) 村人・旅人・観光客

ふと、自分の野心の無さに気が付いた。僕が『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)という本を出版したのは、26歳の時だ。その頃から“若者”として注目を浴び、マスメディアや政治家、官僚を含めて、一気に社交の輪が広がった。しかし、そのネットワークをいまいち活かせている気がしない。若し僕が野心の塊であったら、マスコミに働きかけて自分の影響力を強めつつ、政界への進出でも目指していただろう。“若者”キャラを最大限に活かして、既に立候補くらいしていたかもしれない。実際の僕はといえば、この数年は人狼ばかりしていた。議論をしながら嘘吐きを探すというパーティーゲームだ。人狼を通じて仲良くなった友人は多いが、それが特に仕事に結び付いた訳ではない。この話を友人にしたら、「それは古市くんが“観光客”だからだよ」と言われた。観光客? 友人曰く、僕は無類の観光好きらしい。ある時はテレビ局に行って芸能界を観光し、ある時は自民党で政治の世界を観光する。確かに僕にとって、あらゆる仕事は観光気分だ。『ワイドナショー』(フジテレビ系)という番組に出るのは、『ダウンタウン』の松本人志さんを初め、様々な才能を観察できるから。『とくダネ!』(同)で一番楽しいのは、放送では流せない打ち合わせ中の話。

観光客だけあって、僕はあまり他人に“お願い”もしない。政治家の友人もいるが、「国有地を格安で払い下げしてほしい」なんて陳情したことは一度もない。お願いといえば精々、「SNSに載せたいんで一緒に写真撮りましょう」くらい。まさに観光客だ。自分で言うのも何だが、21世紀の観光客としては中々優秀な部類に入ると思う。マスコミ・政界・音楽業界・ピースボート・世界の戦争博物館と、様々な場所を観光してきた。だから、僕の書く文章は、旅行口コミサイトの『トリップアドバイザー』に近いのだろう。これまで書いてきた本も、観光地のレビューのようなものだ。思想家の東浩紀さんが書いた『弱いつながり』(幻冬舎)で、1つのコミュニティーに埋没する“村人”でもなく、寄る辺なく生きる“旅人”でもなく、本拠地を確保しながら好奇心の赴くまま旅をする“観光客”という生き方が勧められていたことを思い出す。因みに、同書の思想には大いに共感するのだが、何故か僕は東さんに嫌われている。そして多分、誤解されている。彼は僕のことを“道鏡”に譬えていたらしいが、そんな権力欲があるなら、もうとっくに動き出している。まぁ、僕は只の観光客なので、旅先で出会った人から嫌われるのも仕方ない(※観光客には優しくしておいたほうが人気観光地にはなれるだろうけど)。幸いなことに、訪れるべき観光地は未だ数多い。予算超過が確実となった東京オリンピック、深刻な少子高齢化。この社会には、観光客として愉しむべき見所が沢山ある。


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。


キャプチャ  2017年5月25日号掲載
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