【Deep Insight】(17) ミレニアル世代が創る世界

来年、生誕90年を迎える漫画家の手塚治虫氏(※故人)。代表作の『鉄腕アトム』は「50年後を想像して描いた」と、作品を管理する『手塚プロダクション』の松谷孝征社長は話す。ただ、登場する人間は未来的には描かなかった。ケンちゃん・四部垣・タマちゃん…。アトムの同級生は、2000年代という時代設定とは対照的に、いがぐり頭や丸眼鏡の小学生が多い。手塚氏は敢えて、昭和の雰囲気を織り交ぜ、読者との距離を工夫していた。では今、その同級生たちが実在していたらどうだろうか? 頭の中は昭和ではない筈だ。今風に言えば、友達は皆“ミレニアル(千年紀)世代”に属するからだ。1980~2000年に生まれ、今年17~37歳になるミレニアル世代。世界でベビーブーマーより多いとされるこの層が、存在感を強める。ドナルド・トランプ大統領の長女で大統領顧問を務めるイバンカさんと、夫のジャレッド・クシュナー同上級顧問、アメリカ情報機関の個人情報収集を暴露したエドワード・スノーデン氏、『Facebook』のマーク・ザッカーバーグCEO、人気歌手のレディー・ガガさん。日本ではテニスの錦織圭選手、大リーグ『テキサスレンジャーズ』のダルビッシュ有投手、小泉進次郎議員らが代表的だ。パソコンやスマートフォン、或いは交流サイト(SNS)を幼少期から日常的に使いこなし、“デジタルネイティブ”・“スーパーコネクテッド”とも言われる。『デロイトトーマツコンサルティング』の土田昭夫執行役員によれば、「ダイバーシティー(多様性)や移民に寛容で、既成の秩序に物足りなさを感じている。政治家や経営者については、名声より未来の可能性で評価する」そうだ。そんな特徴の一端が表れたのが、投資家としての彼ら・彼女らだろう。電気自動車を生産する『テスラ』が先月、自動車大手の『ゼネラルモーターズ(GM)』や『フォードモーター』を、株式時価総額で追い抜いた。原動力はミレニアル世代の投資家だったとされている。投資のセオリーで言えば、年間の販売が8万台弱のテスラには考え難い株価だ。『QUICKファクトセット』によれば、テスラの2018年業績予想に基づく株価収益率(※PER=株価が1株利益の何倍まで買われているかを示す)は、今月1日終値で300倍を超す。年間1000万台を売るGMは6倍、アメリカ企業の平均は16倍で、極端に“買われ過ぎ”の状態だ。だが、「ミレニアル世代は、バリュエーション指標より経営者(=イーロン・マスクCEO)の世界観をみている」と、『アクセンチュア』マネジングディレクターの川原英司氏は指摘する。

例えば、マスクCEOの事業は家庭用蓄電池・太陽光発電・宇宙ロケットにも広がる。世界で網の目のように設置するという充電ステーションと車・家庭・発電所を繋ぎ、再生可能エネルギーとビッグデータの“プラットフォーマー”の座を狙う。その一方、環境保護で“地球と人類を救う”等の壮大な理念も掲げる。目指すのは二酸化炭素を出さない社会だそうだ。ディーラー網や在庫は持たず、インターネットで受注生産する。太陽光や風力で発電し、充電費用はゼロという、俄かには信じ難い仕組みも模索する。テスラには、『Apple』等からの転職者が増えている。夏から生産する普及型の新型車には、日本車等からの乗り換えで約40万件の予約も入った。転職者や購入者の多くはミレニアル世代だ。自身もミレニアル世代だという『浜銀総合研究所』主任研究員の深尾三四郎氏は、「この世代のキーワードは“exponential(指数関数的)”だ」と話す。3の2乗は9、3乗は27という、乗数に似た加速度的成長軌道を表す。テスラで言えば、「従来の車・エネルギー・宇宙企業ができなかったことを短期間で実現し、指数関数的な速度で追い抜いていく可能性を感じる」(同)そうだ。従来の自動車産業は、世界での売上高の平均成長率が年間2~3%であり、新興プラットフォーマーがある時点であっという間に抜き去ってしまうという。exponentialな企業は他にもある。アメリカでは、写真・動画共有アプリ『スナップチャット』を運営し、今年3月に株式上場した『スナップ』や、未上場ながら1000億円規模の企業価値があるベンチャー企業群『ユニコーン』の経営者は、ほぼミレニアル世代に属する。人工知能(AI)の進歩を追い風に指数関数的成長を語り、注目を集める。日本のミレニアル世代はどうか? 突出した起業家は未だ少ない。大企業でも就職氷河期の入社組が多く、人数は少なめとされている。だが、半導体材料等を生産する『JSR』の小柴満信社長は、「この世代の呑み込みの速さや創造性を見込んで、今から最先端のIT教育を受けさせたい」と、10年かけて理系社員100人をアメリカに送り込むという。コンピューター技術の進歩により、「研究開発の現場は、今後5~10年で手法もスピードも様変わりする。新事業は全部、この世代に任せるくらいの割り切りが必要」とも話す。『国立社会保障・人口問題研究所』によれば、日本の人口は2053年に1億人を割る。この年、ミレニアル世代は53~73歳を迎え、生産年齢人口の大半を、彼らと次の“ポストミレニアル世代”が占めるようになる。人口オーナス(※人口減という成長の重荷)の時代を任される世代であり、それを跳ね返すような技術革新や産業構造の変革を期待したい。この世代を支援する価値は十分にある。教育や活躍の場を与えることこそが、上の世代の役割だろう。 (本社コメンテーター 中山淳史)


⦿日本経済新聞 2017年5月3日付掲載⦿
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