【Deep Insight】(18) 渋沢からサムスンへの助言

「サムスンは韓国あってこその企業だ」――。今から20年以上前、つまり、『サムスン電子』の李在鎔副会長が未だ慶応の大学院生だった頃、こう語っていたという。既に半導体で世界のトップグループに入り、韓国を代表するグローバル企業になっていた。それにも拘わらず、「母国である韓国が傾けばサムスンも危うくなる」というのは、経営修業中だった同氏なりの自戒だったのだろう。ところが、10年ほど前には考えが変わっていた。「韓国あってのサムスンとはもう言えない」。こう漏らしていたという。父の右腕であり、サムスングループの3代目が視野に入り始めた時期だ。収益源を見ると、彼の認識は正しい。2000年に50%強だった海外売上高比率は80%まで上昇し、今の90%に向かう道を突っ走っていた。同時に株の時価総額も高まり、グローバル化で企業価値を高める経営戦略を確立していた。存在感が大きいのは、韓国ではなく、顧客の大半がいる海外だった。筆者は、「こんな構図が続くうちに、韓国の国民感情がぶち切れる余地が生じた」と思っている。10年後の今年、李氏は逮捕された。容疑は朴槿恵前大統領への贈賄だが、“反財閥”の世論に押されての投獄でもある。サムスンは、韓国経済を支えている財閥の筆頭だ。サムスン電子1社だけで、売り上げが韓国の国内総生産(GDP)の12%に達する。グループで見ると、国の年間の法人税収入の1割弱を負担していると言われている。それでも反感を買うのは、貢献を実感できない人々の不満が強いからだ。韓国は年約3%の成長を続けているが、若年層の失業率は10%を超え、就職できない大学生が大勢いる。“地獄朝鮮”や“(銀ではなく)土のスプーン”といった自虐的な言葉も生まれた。成長しても国内の雇用が頭打ちになっているサムスン電子は、韓国の矛盾を映し出す。財閥と政権との癒着は昔からの問題だ。人々は成長を実感している間、そんな暗部には目を瞑っていた。だが、経済的に厳しい状況に置かれた上、『大韓航空』オーナーの長女によるナッツリターン事件に代表される財閥の常識外れの行動が続き、蓄積した不満が「自分らだけ何だ」と噴出した。人々の怒りが企業を翻弄する“国民感情資本主義”は、サムスンに極端な形で表れた。だが、世界的な傾向でもある。やはり、グローバル化への反発が根っこにある。

先ずアメリカ。ドナルド・トランプ大統領は、アメリカ企業の海外進出で雇用停滞が続く“ラストベルト(錆び付いた工業地帯)”の人々の不満を背景に当選した。トランプ大統領は、『フォードモーター』が計画したメキシコ工場の新設を撤回させた。そしてイギリス。人々がグローバル化に背を向けた結果であるブレグジットは、世界の金融機関を振り回している。『ゴールドマンサックス』は、『ヨーロッパ連合(EU)』から離れるイギリスに経営資源が集中することを恐れ、ヨーロッパ大陸の拠点を増強し始めた。同社は、本社をニューヨークからロンドンに移そうと考えたことがある。ニューヨークは成長するアジアと昼夜が逆で不便だが、ロンドンは午前がアジアの午後、午後がアメリカの午前と重なり、日中に世界中とやり取りができる。そんな戦略はもう描けまい。国民感情資本主義の原点は、2008年のリーマンショックだ。ウォール街の暴走は社会を傷付けた。人々の怒りは、2011年の大規模デモ『ウォール街を占拠せよ』で爆発。共感は世界に広がった。だが、危機からもう9年目になる。人々が企業の暴走を牽制する仕組みは欠かせないが、このまま人々が怒り続け、グローバル化を前提とする企業の成長が阻まれると、それもまた危うい。両者はそろそろ長期的な視点を持ち、和解の道を探してはどうか? ボールは企業にある。筆者は、「明治期に株式会社制度を導入、500以上の会社設立に携わり、“日本の資本主義の父”と呼ばれた渋沢栄一(1840-1931)に学ぶべきだ」と考えている。渋沢はグローバル主義者だった。アメリカで日本からの移民に対する排斥機運が強まっていた1920年、米紙との会見で、日米の企業の合併やトップの交流を訴えた。「企業こそが、共に成長を目指すことで反グローバル化と戦うべきだ」という主張だった。だが、成長に取り残される人々への配慮も忘れなかった。東京を頭脳、地方を全身に例え、「全身に血が通わなければ、日本は“文明の出来損ない”になる」と警告し、地方の振興を訴えた。新潟県長岡市では、渋沢の影響を受けて岸宇吉(1839-1910)が呼応した。銀行・電力・鉄道等、社会基盤を担う企業を続々と興して、戊辰戦争で荒廃した長岡を復興し、“長岡の渋沢”と尊敬を集めた。サムスンが助言を求めたら、渋沢はグローバル化を遠慮なく進めるよう説くだろう。同時に、韓国に生まれ育った企業として、苦しんでいる国民を救う事業を提案した筈だ。「経営者が大富豪になっても、社会の多数が貧困に陥るようでは正常な事業とは言えない」とは、格差の危うさを知る渋沢が残した名文句である。渋沢の没後、韓国の財界人が渋沢を追慕する碑をソウルに建てている。サムスングループである『新羅ホテル』に当たる場所に、その碑はあったという。 (本社コメンテーター 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2017年5月5日付掲載⦿
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