【徹底解剖!東京都庁】(01) 「“都知事=特権”と思わないでほしいというのが都職員の本音だ」――青山佾氏(元東京都副知事)インタビュー

国家公務員キャリアと比べ、あまり知られていない都庁官僚の生態。36年間都庁に勤務し、石原都政時代に副知事を務めた明治大学大学院の青山佾教授に、都庁職員の実像を聞いた。 (聞き手/本誌編集部)

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――都庁には、どういった人たちが入ってくるのですか?
「採用試験科目が国家公務員試験と部分的に重なりますので、併願者は今も昔も一定数います。国家公務員と都庁の仕事は数々の相違点がありますが、待遇の面だけ見ると、国の省庁の局長と都の局長の年収はほぼ同じです。局長まで出世する人は極一握りにしても、国家公務員と都庁職員の平均生涯賃金というのは、それほど大きな差はない筈です。都の職員には、東京消防庁・警視庁・地方公営企業(交通局・水道局・下水道局)、そして学校教職員も相当数おり、ここで述べているのは、現場部門を除く知事部局の職員についてです」

――都庁の採用試験はかなりの難関ですが(※大卒程度・行政で実質5~10倍)、どのような基準で採用されるのでしょうか?
「筆記試験と面接があり、その比重は時代によって変動するものの、概ね筆記5割・面接5割。どちらかに傾いたとしても4割・6割くらいと思われます。面接で見られているのは、基本的なコミュニケーション能力が中心です。面接官は現場の課長が担当することが多いので、仕事に適性があるかどうかはある程度正確に判断できます。地方の出身者や、地方大学から都庁を受けに来ている学生も少なくありませんが、だからといって不利になることはないですし、『何で都庁なのか?』としつこく質問されることはないと思います。まぁ、内心『安定しているから都庁を選びました』という人も多い筈なんですが、そういうことを露骨に面接で言う人はいないですからね。志望動機の内容そのものよりも、どのようにそれを話すか、伝えるか、その辺りが見極められるのではないでしょうか」

――入庁してからの出世はどうなっているのですか?
「昇任試験に合格しなければ、どんなにいい大学を出ていようと昇進することはできません。この昇任試験では、筆記試験・面接に加えて業績評価が加味され、総合的に合否が判定されます。業績評価は、たとえ昇任試験を受けなかったとしても本人に開示されます。この業績評価の比重は、以前より高まっていると言われます。都庁において、“おかしな人事”というのは殆どあり得ません。恣意的な人事評価を防止するシステムが機能しておりますし、情報も開示されます。人事というのは“世論”です。多くの人に『あの人であれば上司に相応しい』と思われている人が、他の基準を満たせば昇進します。若し、その“世論”に反するような人事が横行すれば、組織は持たなくなる。非常にフェアで透明性の高い人事が行われていると思います」

――通常の業務と平行して、昇任試験の為の勉強をしなくてはなりません。これはかなり大変では?
「大変と言えば大変ですが、何れそうした試験で問われるような職務知識は身に付けなければなりません。絶えず勉強しなければならないのは、公務員のみならず、民間のサラリーマンでも同じことです。例えば、地方自治法や地方公務員法の知識は、どの部署にいても必要になってきますし、福祉保健局であれば介護保険法や社会福祉法、都市整備局なら都市計画法や建築基準法の知識が必要になる。課長になるまでは、誰しも必ず昇任試験に合格する必要があります。ただ、昇任の為の筆記試験や面接があるのは課長までで、そこから部長・局長へと上がる場合には実績評価になりますので、筆記試験はありません」

――その業績評価は、誰がしているのでしょうか?
「上司グループですね。例えば、課長の評価であれば、直属の部長が第1次評価し、更にそれを局長が見るような形になる。1人の上司が『コイツは気に食わない』という理由でおかしな評価をつけることはできないようなシステムになっています」

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――近年は、出世を望まない、昇任試験を受けない職員も多くなっていると聞きますが、本当ですか?
「昔と比べて、その傾向があるとは言われています。組織ですから、一定程度、そのような価値観の人はいます。全員が全員、上昇志向を持っているとしたら、それもちょっと異常だと思いますけれどね。かといって、誰も昇進したがらないとしたら、これは組織のほうに問題がある。バランスの問題ですね。一切試験を受けなかったとしても、定期昇給はあるので、ある程度給与は上がっていきますが、どこかで頭打ちになる。都庁では、“幹部”と呼ばれる課長以上の割合は、全体の10%未満(※2016年4月1日現在、課長・部長の割合は全体の8.5%)ですから、多くの人は課長代理止まりということになります。公務員と言うと、誰でも課長くらいまで昇進できるようなイメージがありますが、実際は課長になるのも大変なのです。課長と言うと、民間企業では20代から30代くらいのポストというイメージですが、都庁における課長は概ね40代以上、物事を決定する立場の幹部職員です。昇進を望まない人が多くなるというのは、その仕事の責任やリスクに対して見合うだけの待遇がなされていないという可能性もあるので、その点は改善の余地があるのかもしれません」

――青山先生は、都庁の課長時代、どのような仕事ぶりだったのですか?
「やり甲斐はありましたが、激務でした。私は12年ほど課長の時代があります。その内、始めの5年は出先事業所の課長でしたが、この時は未だ休暇も取れて、普通の忙しさでした。しかし、本庁に戻ってからは大変でした。職場に泊まるのは日常茶飯事で、台風が来れば泊まり、都議会があれば徹夜。予算や人事の折衝があればまた徹夜…といった具合で、私だけではなく、当時の課長にとって寝袋は必需品でした。少しでも仮眠しないと頭が働きませんので、床に転がって寝る訳です。勿論、私はそれがいいことと言うつもりはありません。時代も変わっていますし、今は恐らく泊まっている職員は少ないでしょう。私たちが現役だった時代は、それでも『仕事にやり甲斐がある、醍醐味がある』と感じて、苦にしなかった。都庁に限らず、当時のサラリーマンはそういう“やり甲斐”重視の働き方を受け入れていたように思います」

――所謂“天下り”の状況はどうでしょうか?
「都庁では、中央省庁と違って“天下り”というものは存在しません。その代わり、関連企業や関連団体に再就職するシステムが確立されている。それが一般的には“天下り”と言われますが、純然たる民間企業に天下って、現役時代よりも高額な年収や退職金を何度も受け取るようなイメージがあるとすれば、それは誤解です。再就職先は都と資本関係にある企業や関連団体になり、報酬も現役時代の年収の概ね7割くらいです。国の場合は各省庁が人事を決めていて、それを人事院が監督していますが、都庁の場合は総務局の都庁版人材バンクが一元管理する形で、退職者の人材活月に当たっています。ですから、自分で勝手に再就職先を見つけてそこへ行く…ということは先ずありません。都庁内部における人事異動の延長のようなイメージです」

――どこまで出世すれば、再就職先が用意されるのですか?
「基本的には課長級以上となるでしょう。ただ、課長であっても再任用という制度で、60歳になると、それまでの年収の7割くらいで働き続けることができる。収入面では、再就職するのとそれほど変わりません。課長代理以下のポストでも、再任用制度があります。今は60歳でも未だ年金は受け取れませんので、これを利用する人はかなり多いですね。勿論、希望すれば必ず再任用が認められる訳ではなく、勤務実績が悪ければ再任用されません。国家公務員の局長と都の局長は、同じ指定職で給与も同じくらいですが、同世代の大手民間企業の役員クラスと比較すると、半分から3分の1程度の給与と言われています。その結果、国の省庁の局長が民間に“天下り”すると、現役時代より遥かに多い報酬を受け取ることが多い訳ですが、都の場合、民間の上場企業の幹部にスライドするということは先ずありません。株式会社への再就職は、先ず東京都が大株主となっている企業が原則です。都の副知事になると幾つかのポストがあって、首都高速道路株式会社や東京メトロ(東京地下鉄株式会社)の役員等に転じるケースがありますけれども、その場合も、現職時代の年収から飛躍的にアップするということはありません」

――都庁の離職率はどのくらいですか?
「正確な数字を調べたことはありませんが、実感として非常に低いです。特に男性の場合、8~9割は定年近くまで働くといっても過言ではない。部長や局長といった本当の幹部が、時の都知事と意見対立して都庁を去るというケースはしばしばありますが、それ以外の中途退職は稀ですね。都庁では、2~3年で必ず人事異動があります。民間企業であれば、適性次第で同じ部署に10年・20年固定されるというケースは珍しくないでしょう。しかし、権限行政が多い都庁の仕事では、『同じ部署に人を固定すると不正が起き易くなる』という思想もあって、小刻みに人事異動があるのです。このように、ジョブローテーションが確立されていることが、結果的に労働環境を良好に保っている側面はあると言えます。組織の中でいつも問題になり易いのは人間関係で、部下が嫌な上司に耐えられなかったりして退職するケースが多い。しかし、課長や課長代理が2~3年で入れ替わっていくことで、人間関係の摩擦は起き難いし、たとえ起きたとしても、ストレスを感じている一時的な状況としてそれを受け止め、我慢できるということはあるかもしれません」

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――都庁時代を振り返って、その仕事の魅力・やり甲斐は、どのような部分にありましたか?
「これは国でも都庁でも区役所でも、或いは民間の会社でも同じだと思いますが、時代や歴史が変わっていく時、その瞬間に立ち会いながら仕事をしていくということではないでしょうか。時代が変わっていけば政策も変わります。そこで新規プロジェクトが生まれたり、新しい予算、新しい条例を作るといった仕事が待ち構えていて、都庁て仕事をしていれば、いつか必ずそういう場面に巡り合う訳ですね。そんな時、予算の取り方や地方自治に関する知識等、それまで自分が増ってきた地味なスキルが一気に活きてくるという瞬間があるのです。どんなにいいアイディアを持っていたとしても、日頃の地道な仕事の積み重ねで得た経験が無ければ、それを具体化することはできない。ですから、時代の変わり目に、日頃の苦労や経験が報われる瞬間がやってくる。これが、都庁での仕事の醍醐味と言えるのではないでしょうか」

――都庁の中には、有力な“学閥”はありますか?
「所謂“学閥”はありません。“出身校が話題になる”という風土が先ず無いですし、採用や人事に学歴は一切関係ありません。高卒や無名の大学出身であっても、幹部に昇進した実例は沢山あります。『東京大学出身なのに都庁だと恥ずかしい』なんてことも全く無いです。抑々、誰も気にしていないですし、東大だから優秀だとも思われません。『東大出の癖に…』なんていう発想は、都庁では全くありません。ただ、結果として都庁が多く採用している大学というのはあると思います。昔は日大や中央大学出身者が多かったですし、近年は早稲田、それから東大出身者も以前より増えているようです。国家公務員のキャリア採用では、法学部出身者が全体の内のかなりの割合を占めるとも言われますが、都庁ではそのような偏重は無く、昔も今も幅広い大学から採用されています」

――出世コースや花形部署は存在しますか?
「『優秀だとこの部署に配置され易い』という意味での出世コースはありません。どのセクションも平等です。ただ、職員の間で人気の高い部署というのは、やはり存在すると思います。都庁では採用された後、或いは主任試験に合格し他局に異動する時等に、希望する部署を書いて提出することになっています。ただ、それは殆ど考慮されません。一応、欄を設けて希望を書かせてはいるけれども、そこは見ていないという噂もあるくらいで、希望通りになることは少ない。都庁では、採用試験や昇任試験の成績結果が順位として本人に開示されますが、たとえ順位が1桁であっても、必ず自分が希望する部署に行くことができるとは限りません。希望する本人は、どこの職場でどういう仕事をしているのか、情報を持っていないことが殆どなので、何となくわかり易い名前のところが人気を集める傾向がある。私が都庁にいた時も、生活文化局という部署(※総務部・広報公聴部・都民生活部・消費生活部・私学部・文化振興部といったセクションがある)が人気と言われた。私自身、生活文化局の総務課長だった時代、『新人の中で一番人気は生活文化局だよ』と聞かされたことを覚えています。理由はわかりませんけれども、名前に“文化”とあるので文化的だと思われたんですかねぇ…。総務局のような間接部門より、何をするのかイメージし易かったということでしょう。あと、都市整備局や福祉保健局、今ですと新設されたオリンピック・パラリンピック準備局等、特徴のあるところは人気が高い傾向にありますね。ただ、伊豆諸島や小笠原諸島等、島での勤務が可能かどうかは、必ず節目節目で聞かれます。これは唯一、人事異動では考慮されると思います。勤務環境が大きく変わるので、希望しない職員が有無を言わさず島嶼に配属されることは先ず無いでしょう」

――“島勤務”の人気度はどのくらいですか?
「これは意外に人気があって、一度島で働くと、すっかりそこでの仕事が気に入って、何度も希望を出す人もいるようです。本庁勤務とは違って、それほど激務ではないと思いますが、人間関係が狭いですから、いつだって“都庁の人”として見られる訳です。土日も含め、匿名性が無いところで生活しなければならない。それがストレスに感じる人だと、島での勤務は苦痛かもしれませんね」

――昨年、小池百合子氏が都知事に就任し、2020年のオリンピックに向け、都政に注目が集まっています。都庁職員は、小池知事をどう見ていますか?
「石原慎太郎さんや前任の舛添要一さん、現在の小池百合子知事も、国会議員から都知事になった人たちですね。しかし、都知事というのは政治家ではなく行政官ですから、『都知事になったことを“特権”と思わないでほしい』というのが都職員の思いではないでしょうか。国会議員は有名だし、政治力もありますから、選挙(都知事選)には適している。しかし、国会議員時代のやり方やスタイルをそのまま都知事の仕事に持ち込み、政治をやっている感覚で都知事の椅子に座ってしまう人が、元国会議員には多いんですね。これはとてもリスクが高いことなんです。小池知事は昨年、都の予算編成に向けて60団体からヒアリングを実施しましたが、これなどは国会議員の典型的な手法ですね。都の予算は自分のお金ではありませんので、こうしたパフォーマンスは行政官である都知事の仕事にそぐわないものです。今年は初めてなので、意見を直接聞く意味はあると思いますが、これが定着してしまうと利権が発生するリスクが高くなる。小池知事が政治家としてのキャリアを引きずらず、如何に早く都庁を掴むことができるか。職員はその点に注目していると思います」


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