【ここがヘンだよ日本の薬局】(03) 誰にとってもメリット無し? かかりつけ薬剤師制度の正体

2016年から始まった“かかりつけ薬剤師制度”。国は制度の拡大を急いでいるが、現場からの声は冷ややかだ。24時間対応が求められるので、薬局のブラック化や薬剤師不足が懸念される。そして、利用する患者側は調剤薬局を1つしか選ぶことができず、不便極まりない制度であることも明らかとなってきている。 (取材・文/フリーライター 永井孝彦)

2016年4月から調剤報酬が改定され、かかりつけ薬剤師制度がスタートした。かかりつけ薬剤師とは、読んで字の如くで、かかりつけ医の薬剤師版。自分が服用している薬全般を把握してくれて、何かあった場合には24時間対応で相談に乗ってくれる。そんな薬剤師が、自分にとってのかかりつけ薬剤師となるのだ。かかりつけ薬剤師にサービスを受けると、“かかりつけ薬剤師指導料”として70点(700円)の負担となる。但し、旧来のサービスを受けても“薬剤服用歴管理指導料”として38点、或いは50点がかかるので、実質的な追加負担は20~32点(200円~320円)。医療保険が3割負担であれば、自己負担は凡そ60~100円ということになる。薬剤師にとっては増えた点数分、即ち患者1人につき200~320円が新たな収益となる訳だが、薬剤師なら誰でもかかりつけ薬剤師を名乗れるものではない。かかりつけ薬剤師となるには、以下のような条件を満たす必要がある。

①薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があり、1つの薬局に週32時間以上勤務していると共に、その薬局に半年以上在籍していること。
②『薬剤師認定制度認証機構』が認証している研修認定制度等の研修認定を取得していること(※3年毎に更新が必要)。
③医療に係る地域活動(※地域の行政機関や関係団体等が主催する講演会・研修会等)の取り組みに参画していること。

処方箋に書かれた薬を調剤するだけではダメで、薬剤師として、より能動的な姿勢が求められている訳だ。患者はかかりつけ薬剤師を1人しか選ぶことができない。その結果、患者の処方箋は一元管理されることとなり、複数の医療機関での重複処方や、禁忌の組み合わせによる処方等を防止できると見込まれている。残薬問題も改善することだろう。当事者である薬剤師の中にも戸惑いを隠せない者がいるかかりつけ薬剤師制度は、何故導入されたのか。結論に至る前に、制度導入に関連する周辺事情を見てみよう。注目すべきは、規模の大きい病院の門前を舞台にした大手薬局チェーンの出店ラッシュだ。全国どこでも見られる光景だが、大病院の前には門前薬局が列をなしている。その多くは大手薬局チェーンの店舗だ。大病院が院内処方を院外処方に変える、或いは病院自体を移転するといった情報が流れると、周辺の土地やテナントは大手薬局チェーンによる争奪戦となり、価格が急上昇。中小の薬局では手が出せない相場となる為、地元密着型で住民に長く信頼を得ているような薬局でも、思うようには門前に出店できないのが現状だ。それは、大手スーパーマーケットやショッピングセンターが地方都市に進出し、旧来の地元商店街がなす術もなく廃れていく図式に似ている。

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不動産価格が高くても資本力で門前に進出するのは、大病院の処方を扱うことにそれだけの旨みがあるからだ。更地に病院が建設される際等は、敷地のどこに外来患者の出入り口が設けられるかを、建設会社等を通じて聞き出そうとすることもあるという。2013年には、兵庫県小野市に県内6位の規模で設立された『北播磨総合医療センター』を巡る薬局出店に関し、常識的には考えられない高額の落札が話題となった。薬局チェーン最大手の1つである『日本調剤』が、78坪の敷地を1㎡あたり約163万円となる4億2000万円で落札したのだ。同医療センターは山間部の造成地にあり、土地そのものが高いということはない。にも拘わらず、小野市の平均呼単価約13万円の40倍以上もの価格で落札したということは、門前薬局が如何に高収益であるかを示している。門前薬局については、進出に際してのトラブルも報じられている。2015年、神奈川県相模原市にある病床数162の中核病院・Tの門前に、茨城県を拠点とする薬局チェーン・Xが出店しようとした。同病院の近くには、病院設立の5年後に開業した地元密着型の薬局・Zがあるが、Xが出店計画を進めたのは、Zよりも外来患者の出入り口に近い場所だ。そのこと自体に問題はないのだが、「病院への根回しも無い強引な進出の裏には、Zへの入札競争に失敗した医療用薬品卸・Y(※Xと業務関係がある)の存在があるのではないか?」と噂されるようになった。不信感を抱いた病院は「院外処方を院内処方に戻す」と宣言し、Xの進出は頓挫している。診療を済ませたら薬局で一息吐くという患者も多いだろうが、時として病院の門前は殺伐とした争いの場となるのだ。「門前薬局を展開する大手チェーンの高収益は是正すべきだ」という声も多い。『日本医師会』は、報酬が7億円を超える日本調剤の三津原博社長を名指しで問題視した。三津原氏は、医療従事者の転職支援や、人材派遣等を業務とする『メディカルリソース』や後発医薬品メーカー『日本ジェネリック』の社長でもあり、億単位の年収があっても不思議ではない。しかし、「医療の頂点にある」と自負する医師としては、三津原氏の桁違いの収入が納得できないのだろう。大手薬局チェーンを代表する存在として、三津原氏への風当たりは強い。

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2015年4月1日、参議院予算委員会における安倍晋三首相の答弁は、門前薬局に対する批判の高まりを象徴するような内容だった。自民党の末松信介議員による「コストの割には院外処方のメリットが感じられない」等の質問を受けて、首相はこう答えた。「医療機関の近隣に所謂門前薬局が乱立する等、『薬の一元的・継続的な管理といった医薬分業本来のメリットが感じられ難い』との指摘があるのも事実でございます。今後、薬局が地域の方にとって、薬や健康について気軽に相談できるかかりつけ薬局となり、患者が服用する薬を一元的に管理したり、薬剤師が在宅医療の中で積極的な役割を果たしていくよう、環境整備を行っていく考えでこざいます」。かかりつけ薬剤師制度は、門前薬局から地域密着型薬局へのシフトを狙って導入された。患者が選ぶことのできるかかりつけ薬剤師は1人だけなので、多くの患者にとって、病院の門前ということは決定的な選択理由ではなくなる。門前薬局を選ぶと、別の病院にかかった際、処方薬を受け取る為だけに、自らが選んだ門前薬局まで足を運ばなければならないからだ。薬局を1つだけ選ぶなら、自宅や勤務先の近くが一番便利なのは自明だろう。門前薬局を展開する大手薬局チェーンの勢いを削ぐかかりつけ薬剤師制度だが、本当の意味での地元密着型である街の小規模な薬局にとっても、望ましい制度ではないようだ。首都圏の中核市で薬局を営む薬剤師が言う。「うちのような細々とやっている薬局には、かかりつけ薬剤師と認定される為の施設基準が厳しい。24時間対応なんて人材を確保しなくてはならないし、患者さん1人あたりの点数が20~30点増えたって赤字になるばかりです。患者さんにとっても、薬を貰える薬局を1軒だけ選ぶというのは便利なことではないでしょう。我々の薬剤師会でかかりつけ薬剤師になったのは未だ数人だし、国が考えるようには一般化しないのではないですか? 結局のところ、かかりつけ薬剤師制度は、薬局の数を減らしていく為の布石なのだろうと思います」。2015年10月、厚生労働省は『患者のための薬局ビジョン』を発表した。そこには、2025年を目安に、日常生活圏域単位にかかりつけ薬局を置く構想が示されている。日常生活圏域とは、具体的には中学校区で、その数は全国で約1万。2013年末時点での全薬局数は約5万7000店舗なので、大幅な削減を視野に入れているのだ。かかりつけ薬剤師制度によって、果たして患者は安心を手にできるのだろうか?


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