【熱狂!アニメビジネス最前線】(07) 「日本のクリエイティブ業界はガラパゴスの中の更にガラパゴスになっている」――塩田周三氏(『ポリゴンピクチュアズ』代表)インタビュー

20170530 06
手塚治虫の『虫プロダクション』は、アニメの量産システムを生んだ。『スタジオジブリ』は、世界における“ジャパニメーション”の地位を確立した。日本のアニメ産業の革命企業として、次は『ポリゴンピクチュアズ』の名が加わるかもしれない。ポリゴンは1983年創業だが、国内で自社が出資するアニメを発表したのは極最近。2014年4月放映の深夜アニメ『シドニアの騎士』(原作は弐瓶勉・毎日放送ほか)が初めてだった。この遅まきのデビュー作が、アニメ業界に衝撃を齎した。ポリゴンは長く、アメリカ市場を活動の足場に、『ディズニー』や『ルーカスフィルム』といった錚々たる顧客にCG映像を提供してきた。それが、出資作品で日本に逆上陸するに当たり、塩田周三代表は“大命題”を定める。「テレビアニメとして、国内最高額のビジネスにする」というものだ。「アメリカでは、僕らは高価格帯の映像しか作ってこなかった。だから、社内の色んな仕組みが、その相場を前提に構築されている。日本の制作がアメリカより著しく低いのはわかっているが、『そうですか』と言ってそこに合わせる訳にはいかない」。ポリゴンのアメリカにおける制作費は、30分アニメ1話換算で3000万円が最低ライン。一方の日本では、2000万円が業界での事実上の天井。この格差があっても儲けを守るには、知恵が必要だった。シドニアも、他の多くの深夜アニメ同様、製作委員会形式で作られており、『講談社』や『キングレコード』、そしてポリゴンの3社が中核出資社。通常、制作会社の多くは出資をせず、制作費を得るだけだ。だが塩田氏は、シドニアを巡るライツ(※映像著作権やビジネス展開の為の窓口権等、複数の権利の総称)を得る為に出資した。実際、このライツによって、ポリゴンは世界指折りの大口需要家への営業に成功する。有料動画配信の最大手『NETFLIX』。制作と並行して、シドニアの独占配信契約を同社と締結。対価として、高額の配信料を獲得した。塩田氏はその金額を伏せるが、委員会への出資分はこの配信料で全額回収でき、制作収支全体も黒字になったようだ。映像としても、シドニアはアニメーターを震撼させる作品だった。日本では数少ない、極めて完成度の高い3DCGアニメだったのだ。上流工程の作画段階から、コンピュータだけで制作した映像だ。日本では仕上がりが不自然として手描きが好まれてきたが、シドニアの映像は遜色ないほど繊細で滑らか。「手描きでなければ」というアニメーターの常套句を封印しかねない、圧倒的なクオリティーだった。しかも、ポリゴンは放送の2ヵ月前に全話を完成させている。

制作開始時期を問わず完成はぎりぎり、下手すれば放送開始に間に合わないこともある日本のアニメ業界では、信じ難い質とスピードの両立だ。この背後には、無駄を極力排したワークフローと、膨大なデジタル画像データをやり取り・管理する為の『パイプライン』というITシステムがある。日本の多くの制作会社が、“カット袋”と呼ばれる紙袋に原画等を入れ、物理的にやり取りして工程を進めるのとは全く違う。ポリゴンは元々、CGクリエイターの草分けである河原敏文氏が起こした映像ベンチャー。この設立経緯自体が業界では特異だが、塩田氏の経歴は輪をかけて独特である。1991年に『新日本製鉄』に入社。新規事業部門でノートパソコンの製造やシステム開発を手掛けた後、29歳で退職する。知人の紹介でコンサルタントとして参加したのが、ポリゴン・『ナムコ』・『ソニーコンピュータエンタテインメント』による全編CG映画の製作プロジェクトだった。総額80億円の巨大案件だが、国内にはノウハウが皆無。そこで塩田氏らは、1995年に公開された世界初の劇場用長編フルCGアニメ『トイストーリー』(ピクサー)のエンドクレジットを徹底分析した。どの工程に何人使うのか。洗い出してわかったのは、上流から下流へデータを流す整然としたラインの存在だ。「これ、新日鉄のものづくりと同じだ。クリエイティブな分野にも製造業での知見が使えるんだ」。創造現場を支える仕組みが製造業のノウハウと共通することに、塩田氏は静かに興奮した。その後、CG映画プロジェクトは頓挫し、会社は深刻な経営難に陥る。塩田氏がトップに就いた2003年以降からアメリカ市場の開拓が本格化するが、それは戦略というよりも、国内がCGに無関心になる中、帰国子女である塩田氏が一番営業し易い市場がアメリカだったからというのが正確だ。転機となったのは、ディズニーのテレビアニメ『プーさんといっしょ』(2007年)の受注だ。22分×26話と、日本のワンクールの倍に匹敵する膨大な作業量を熟す為、ITを使って作業フローとデータの管理を整備せざるを得なかった。これが現在のワークフローとパイプラインの起点であり、謂わば必要に迫られての産物だが、ピクサーの制作ラインを垣間見た塩田氏にとっては、点と点が結び付いた必然でもある。塩田氏は、国内の業界をどう見ているのか? 「日本では、クリエイテイブな仕事がガラパゴスの中の更にガラパゴスになっている。クリエイターは自己完結しようとするし、他の産業も関わろうとしない。本当は産業界からベストプラクティスを導入できるのに」。ポリゴンには、創業者から受け継ぐ社是がある。「誰もやっていないことを、圧倒的なクオリティで、世界に向けて発信していく」。アニメにおける圧倒的な質とは、一面的には美しい映像や感動的な演出を指すが、それだけではない。圧倒的に合理的に、迅速に、その上で利益を得る。これらも創造を支えるクオリティーだ。工業的であることと創造的であることは両立できる。これを体現し続けられたら、ポリゴンは間違いなくアニメ史に足跡を残すだろう。 (取材・文/本誌 杉本りうこ)


キャプチャ  2017年4月1日号掲載
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