【Deep Insight】(19) 新・第三の道と欧州の未来

フランスに39歳の大統領が誕生する。極右の圧力を堰き止め、世界を安堵させたエマニュエル・マクロン氏の登場。その影の立役者がいる。3代前のジャック・シラク大統領だ。7年の大統領任期を5年にする憲法改正を2000年に実現した。任期5年の国民議会(下院)選と大統領選を同時期にして、任期途中の議会選で野党に敗れ力を失う“ねじれ”を防ぐ思惑だった。2大政党を前提にした制度改正は、17年後に想定外の事態を招く。政党員でも議員でもない青年が大統領の直接選挙で当選し、下院選でゼロから過半数確保に挑む。マクロン氏を頂点に押し上げたのは『En Marche!(オン・マルシュ=前進)』。ほんの1年前に始まった政治運動だ。政党でもない草の根集団が何故、政治の地殻変動を主導するのか? 第1回投票の2日前、パリ9区の学校で前進が開いた会合を見た。小さな椅子に車座で約20人の男女が座り、疑問を語り合う。「教育にもっと投資すべきだ」「製鉄所がまた閉鎖した。変化にどう対処するのか?」。前進のスポークスマンを務めるマイヤール氏が、マクロン氏の公約を丁寧に説明し、投票先を未だ決めていない人に支持を訴えた。マクロン氏に賛同して戸別訪問を続ける男性は、「福祉住宅等を300戸は回った。民主主義と変化を我々が担っていることを示したい」と声を弾ませた。2日後、1回目を首位で突破した前進の祝勝会でも声を聞いた。ドイツ人とフランス人の両親の下に生まれたアレクシさん(36)は、「イギリスのヨーロッパ連合(EU)離脱の決定後に、親EUの姿勢を明確にしたマクロン氏に勇気付けられた。更に戦いを続ける」と話した。左派・右派の既存政党を破り、極右を止めたマクロン氏の勝利は、旧態依然の候補も過激な候補も避けたい有権者の消去法的な選択とも言える。だが、反グローバル・大衆迎合・自国優先といった言葉が当たり前になった国際政治の中で、プロビジネス(企業寄り)・構造改革・グローバル主義を問うた候補の成功には大きな意義がある。『ヨーロッパ中央銀行(ECB)』の総裁を2003~2011年に務めたジャンクロード・トリシェ氏は、「マクロン氏は、柔軟な労働市場・健全な財政・雇用を生むのに有効な税制といった改革の必要性を、明確にわかっている。『今の経済状況はとても続けられない』と、多くのフランス人は理解している」と話す。

左派でも右派でもない“ベストの中道路線”を志向するマクロン流。フランスでは新鮮だが、ヨーロッパの政治史を振り返ると、2人の指導者の20年前に重なる。1997年にイギリスの首相に就いたトニー・ブレア氏と、翌1998年にドイツの首相となったゲアハルト・シュレーダー氏だ。どちらも中道左派に属するが、ビジネスや貿易を活発にして経済を高めようとする視点は、今のマクロン氏の路線にも共通だ。イギリスの社会学者であるアンソニー・ギデンス氏が1998年に出版した『第三の道』は、新しい労働党(ニューレーバー)を掲げるブレア氏の政策理念だった。平等や弱者保護等で政府の責任を確認する一方で、グローバル化や世界の多元主義も重視する。政府の3つの優先課題を「最初に教育、次に教育、そして教育」と評した若いブレア氏の発言は有名だ。一方で、EUへの積極関与等、今のイギリスの歩みとは逆の開放姿勢もみせた。『モンテーニュ研究所』のドミニク・モイジ首席顧問は、「マクロン氏を誰かに例えるとして最適の人物はブレア氏。これは、フランスの“第三の道”だ」と指摘する。今のフランスと同様、ドイツで高止まりする失業率と苦闘したのがシュレーダー氏だ。中道右派で16年続いたヘルムート・コール政権の『レフォルムシュタウ(改革の渋滞)』に飽き飽きした有権者の期待を集めたものの、“ヨーロッパの病人”と呼ばれた東西統一後の経済・雇用不振は改善しなかった。2003年、不人気を承知で、失業手当のカットや医療の負担増に取り組む『アジェンダ2010』を宣言した。企業競争力の改善で失業が減り、支持拡大の果実を味わったのは、2005年に後を継いだ今のアンゲラ・メルケル首相だ。今年9月の連邦議会(下院)選で4期目を狙う長期政権は、厳しい改革に何ら着手していない。2011年、ベルリンでシュレーダー氏に当時の心境を聞いた。「前向きな効果は何年か後にしか出ず、時間の空白ができる」「次の選挙に勝てないと覚悟してでも、政治家は確たる決断を下さなければならない」。新たな“第三の道”を歩むなら、厳しい反発や支持の低下も避けられない。マクロン氏の覚悟が、ヨーロッパの未来を左右する。「成長の大統領になる」。5年前、支持者の前で宣言したフランソワ・オランド大統領。改革は未達に終わり、ドイツとの失業率格差を広げた指導者は、10%台と壊滅的な支持率の下で1期の短い務めを終える。2年半前、経済産業デジタル大臣に就いて間もないマクロン氏は、インタビューで筆者にこう語った。「成長も競争力も不足し、特に若年の失業が問題だ」「構造改革は時間がかかる。中長期で成長を齎すが、短期的には非常に困難で異論も多い」。問題意識は高い。新大統領が得た時間は最長2期10年だ。世論の支持を巻き込み、不可能を可能にできるかどうか? 形勢を変える突破力に期待したい。 (本社コメンテーター 菅野幹雄)


⦿日本経済新聞 2017年5月10日付掲載⦿
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