中国を悩ます余剰穀物の膨張――在庫放出なら世界市場は大荒れ必至、商品市場は総崩れへ

20170531 09
史上空前の規模に膨れ上がった中国の余剰農産物が、世界の食糧市場に深刻な脅威を与えている。トウモロコシで世界の年間貿易量の2倍にあたる約2億5000万トン、コメもほぼ同水準の約6800万トンに達している。中国政府が農家保護の為、農産物を高値で買い入れる一方、農業自由化で穀物輸入が急増した結果だ。中国国内の貯蔵能力は限界を超え、政府が安値で在庫処分に打って出るか、アフリカ・中東諸国向けの無償食糧援助に振り向ける可能性が高まっている。現実化すれば、世界の穀物市場の暴落は不可避だ。黒竜江省の中央部に広がる三江平原。黒竜江・松花江・ウスリー江の三大河が作る肥沃な黒土の平原で、中国最大の穀倉地帯となっている。その中核都市で、農作物の集荷拠点である佳木斯(ジャムス)市の郊外では、春を迎えて異常な光景が市民の目にも露わになり始めた。穀物保管用の巨大サイロの周辺に、青いビニールシートに覆われた高さ数mの山が広がっているからだ。その周りを、肥大化した野鼠が走り回っている。サイロに収容できなくなったトウモロコシを、屋外で保管せざるを得なくなったのだ。厳重に袋詰めされているとはいえ、野生動物の餌食になるがままなのだ。黒竜江省の年間のトウモロコシ生産量は約4000万トン。これだけでも世界の生産量の4.5%にあたるが、省内にはその2倍近い量のトウモロコシが各地の政府倉庫に眠っている。更に、吉林省・遼寧省・河北省等、中国の主要な食糧産地のサイロはトウモロコシで溢れ返っている。小麦と並ぶ中国人の主食であるコメ。日本と同じ短粒種の主要産地でもある黒竜江省は、日本の3倍以上の年間2500万トンを生産するが、消費し切れないコメの在庫が、やはり省内だけで4000万トンも貯蔵されている。

「中国は世界の穀物倉庫と化した」――。中国農業部の高官の1人は、こう指摘する。世界の穀物在庫と比較すれば、中国はトウモロコシで世界の70%、コメで75%の在庫を抱える状況に陥っているからだ。1970年代まで食糧の絶対的不足に苦しみ、国民の腹を満たすことが共産党にとって最重要課題だった中国に、これほどの余剰食糧が発生した背景には、国内・国際の2つの原因がある。国内問題は、農民の経済水準の向上策だ。中国は言うまでもなく、改革開放政策が始まって以降、沿海都市部が急激に発展した。外資の直接投資を牽引車に、輸出を主目的とする工場が沿海部に林立し、都市部の住民の所得は急上昇した。一方、農村部は低価格の食糧を供給する役割を担わされ、所得は低いまま据え置かれた。21世紀に入って、都市と農村の所得格差は深刻な社会問題となり、胡錦濤前政権は“三農(農業・農村・農民)問題”の解決として、農産物の政府買い入れ価格の引き上げを進めた。日本で1950年以降に進められた米価引き上げに近い、農家への所得補填政策だ。その結果、農家の収入は緩やかながらも増加した。当然ながら農民の生産意欲は高まり、中国の穀物生産は2004年以降、12年連続で前年比増となった。中国は1990年代半ば以降、国産では不足する大豆の輸入を開始し、大豆の輸入は持続的に増加したが、その他の穀物に関しては21世紀に入ってからは寧ろ余剰が目立ち始めた。穀物を食肉用の家畜飼料に回したり、工業用のエタノール生産原料等で消化せざるを得なくなった。だが、国内余剰に国際的な問題が加わった。アメリカやブラジルからのトウモロコシや小麦の輸入増加だ。中国は2001年に『世界貿易機関(WTO)』に加盟した際、農産物の輸入関税で大きく譲歩した。一定量の低関税輸入枠(ミニマムアクセス)を超える輸入関税を、40%前後に置いたのだ。日本ではコメに77万トンのミニマムアクセスを設定しているが、それを超える分の関税は778%と、完全にブロックできる体制を勝ち取っている。「中国の政治家は完全に読み間違えた」――。今、中国の農業政策の当局者が悔やむのは、40%という関税率の低さだ。当初は、大規模農業で競争力のあるアメリカに比べても、中国のほうが生産コストが低く、「40%の関税率で十分にブロックできる」と予想していた。だが、中国の人件費高騰や肥料・農薬等のコスト上昇に加え、政府の農産物買い入れ価格の引き上げで、中国国産と輸入穀物の価格逆転が起きてしまったのだ。

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養豚業や養鶏業等、中国のトウモロコシ需要家は、割安な輸入のアメリカ産トウモロコシに飛びつき、国産は政府の倉庫に直行する羽目になった。中国政府は、遺伝子組み換え(GM)のトウモロコシの規制強化等で輸入抑制策を進めているものの、効果は殆ど出ていない。コメではベトナム、タイ、ミャンマー産が中国市場に乱入した。正式な輸入量だけで、ベトナムから2015年には213万トンが輸入されたが、密輸入はその2倍近い400万トンと言われる。中国は、大豆を含む穀物全体で、2015年に1億2421万トンを輸入する圧倒的な世界最大の穀物輸入国に転じた。問題は、トウモロコシだけで2億5000万トンの在庫処分。中国政府は巨額損失を前提で、市中売却に踏み切りたいところだが、政府が高値で買い入れた食糧を安値で売却すれば、政府による農産物補助金と見做され、WTO違反となる。途上国への現物の食糧援助も、政府による補助金と見做される。バラク・オバマ政権時代の昨年9月には実際、「中国は農家への補助金支出がWTOの規定を上回っている」とアメリカから提訴された。だが、WTOを批判し、独自の通商政策を押し通そうとするドナルド・トランプ政権の誕生で、「中国がWTOルールを破っても、批判と制裁は強行突破できる」という見方が、習近平政権の中に台頭している。仮に、数年をかけてトウモロコシとコメの在庫を市中に放出すれば、アメリカ、ブラジル、アルゼンチン産のトウモロコシや東南アジア産のコメは行き場を失う。供給過剰で穀物の国際相場は暴落し、数年は続く放出で、低迷は長期化するのも必至。穀物の暴落は、只でさえ供給過剰の原油や天然ガス、更に金等他の商品にも波及しかねず、世界の商品市場は総崩れとなるだろう。アメリカの最大の輸出品であるトウモロコシ・大豆等の農産物が低迷すれば、アメリカの農家の消費や投資も落ち込み、アメリカ景気には深刻な重しとなる。基本的な構図は『ヨーロッパ連合(EU)』も同じだ。中国の穀物在庫は、単なる余剰の問題だけでなく、世界景気の転落に直結しかねない。


キャプチャ  2017年5月号掲載




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