【Deep Insight】(20) デジタルキッズ育む国へ

『ソニー』は先月末、2018年3月期の営業利益が5000億円になるとの見通しを発表した。過去最高に迫る水準だ。事業の売却や分社によるリストラで、赤字続きだったエレクトロニクス分野を立て直したことが効く。看板事業のゲームと金融で稼ぎ、株価も上向く。吉田憲一郎副社長は記者会見で、「重要なマイルストーン」と説明した。日本を代表する企業の復活と喜びたいところだが、先週、1~3月期決算が出揃ったアメリカのIT大手と比べると、未だ相当な開きがある。『Google』の持ち株会社『アルファベット』は、3ヵ月だけで7000億円以上の営業利益を叩き出した。高収益の『Apple』が蓄えた手元資金は29兆円。ソニーを5つ買ってもお釣りがくる。この差はどこでついたのか? “デジタルドリームキッズ”――。インターネット時代の入り口に立った1995年、ソニー社長に就任した出井伸之氏が掲げた経営ビジョンだ。「デジタル技術に胸を躍らせる若い世代に支持される会社になる」。そんな思いを込めた。目のつけどころは良かったが、世界を魅了したのはアメリカ企業だった。インターネット検索や通販で先行し、スマートフォン(スマホ)市場を席巻した。ソニーを含む日本勢はデジタル化の波に乗れず、呑み込まれた印象が強い。数字にも表れている。『電子情報技術産業協会(JEITA)』が纏めたIT機器やサービスの世界市場統計を見ると、2010年まで2割超あった日本企業のシェアは、直近で1割強まで下がった。成長分野で日本の影は薄れた。足元でも、前向きとは言い難いニュースが続く。経営が混乱する『東芝』は半導体メモリー事業の売却を迫られ、『富士通』はパソコン事業を実質的に中国の『レノボグループ』に委ねる検討を進める。インターネットに続く次の大波は、もう来ている。人工知能(AI)・ロボット・3Dプリンター。産業構造や、私たちの働き方を一変させる技術が目白押しだ。ITを使いこなし、イノベーションを起こす人材を如何に育てるか。今、“デジタルドリームキッズの育成競争”とも呼ぶべき現象が世界に広がる。キーワードは“STEM”。科学・技術・工学・数学の英語の頭文字を繋いだ言葉だ。単に理系の優等生を増やす教育ではない。論理的な思考や創造性を養うことに力点を置く。目を引くのは、やはりアメリカだ。4月に国を挙げた“ロボット週間”がある。企業と大学が議会に働きかけ、2010年に始まった。子供たちが対象のロボット製作コンテスト等が毎年、全米で開かれる。

「アメリカは起業家精神ではナンバーワンだが、サイエンス教育は見劣りする。STEMで世界の仕組みをもっと理解できれば、より良い判断力が身に付く」。ロボット掃除機で知られる『アイロボット』のコリン・アングル会長は言う。同社はロボット週間の牽引役であるだけでなく、プログラミングを学べる教育用ロボットを販売する。社員が学校に出向き技術を教えるボランティア制度もあり、年5万人の子供と接する。文部科学省によれば、イギリス、ハンガリー、ロシアは小中学校でプログラミングを必修とし、韓国やシンガポール等も力を注ぐ。日本はどうか。3月告示の学習指導要領で小学校でのプログラミングの必修化が決まったが、開始は2020年度からと未だ先だ。抑々、国や学校任せではいけない。アイロボットが示すように、企業が担える役割は大きい。Appleも、プログラミングの教材アプリの提供に本腰を入れ出した。日本にも、プログラミング教育のベンチャー企業やNPO法人はある。だが、1990年代以降の“デジタル敗戦”を繰り返さない為には、産業界は危機感を持ち、何ができるか知恵を絞ったほうがいい。注目したい動きはある。出版・IT大手の『カドカワ』は昨年、通信制の『N高等学校』を設立した。在校生は約3800人。スマホやパソコンを使う授業から、リポート提出・部活までインターネットで熟す。デジタル世代の潜在力を引き出し、社会の即戦力にすることを目指している。目玉はプログラミングの授業だ。カドカワ傘下で、人気サイト『ニコニコ動画』を運営する『ドワンゴ』の技術者が講師を務める。その1人、吉村総一郎氏は語る。「ソフトを使うだけの消費者ではなく、生産者になってほしい」。コンサルティング大手の『アクセンチュア』は、大学生向けのデータサイエンス勉強会等を手がける。社会貢献の一環だが、優秀な人材の採用等、実利も追う。同社の工藤卓哉氏は、「ITによる業務の自動化は、全ての産業に関わる。企業はもっとSTEM教育に投資すべきだ」と訴える。デジタルキッズを育てる活動を通じ、企業自身もデジタル感度を高められる筈だ。その上でビジネスの現場を見渡せば、事業モデルの刷新や生産性向上のヒントを掴めるのではないか? 牛丼の『吉野家』は、一部店舗の食器洗い作業に国内ベンチャー『ライフロボティクス』(東京都江東区)のロボットを導入した。従業員の負荷を減らし、人手不足に対応する。“ロボットは工場で使うもの”という20世紀的な固定観念を捨てたからこそできた試みと言える。デジタルを理解し、受け入れる柔軟な発想は、働く大人にだって必要だ。まだまだ子供たちに負けてはいられない。 (本社コメンテーター 村山恵一)


⦿日本経済新聞 2017年5月12日付掲載⦿
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