【霞が関2017春】(13) 浮かんでは消える『こども保険』…はたして今回は?

子育てにかかる費用を大幅に軽くする為の『こども保険』構想が、俄かに注目を集めている。発信力のある自民党の小泉進次郎氏ら若手議員が提唱したことがきっかけだ。政府も実現可能性を探るという。ところが、こども保険と似たような政策は、過去にも何度か政府内で議論されていた。その度に、「やっぱりだめ」と萎んでいたのだ。扨て、今回の結末や如何に――。こども保険は、子供が生まれた時にかかる様々な費用を、公的な保険制度で賄おうというもの。子供を持つ親に支給する児童手当の金額を増やし、それを幼児教育や保育の費用に回すことが想定されている。会社員ならば給料に対して十数%ほど、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料を払っている。ほぼ同じ額を雇う側の事業主も払う。小泉氏らによると、こども保険では、この社会保険料を社員・事業主とも0.1%払ってもらえば、3400億円を調達できて、児童手当を1人あたり月5000円増額できるという。0.5%払えるなら1兆7000億円の財源が生まれ、児童手当を月2万5000円増やせる。現在、3歳未満の子供の場合は、月1万5000円の児童手当が支給されている。2万5000円を足せば4万円。中低所得世帯には役立つ額になりそうだ。ここで時間の針を戻そう。2002年から2003年頃だ。この時、厚生労働省で同じような議論があった。少し違っていたのは、「公的年金の積立金を活用できないか?」と考えていた点だ。年金積立金も私たちの払った保険料が積み上がったものだから、今の議論と実質的には違いはない。年金制度に拘ったのは、「子供が増えれば、年金保険料を負担する成人も増え、巡り巡っては年金制度の安定にも貢献する」という理屈からだ。同省の幹部も実現に熱意を見せ、同省の審議会でも議論された。ところが、事態は急変する。年金積立金を使って全国に建設した保養施設『グリーンピア』等の杜撰な運営実態が明らかになったのだ。施設は閑古鳥が鳴き、赤字を垂れ流していた。積立金の無駄遣いだった。「年金のカネは年金以外に使うべきでない」。時の首相はこんな考えを示し、年金を活用した構想は潰えた。この時の首相は、小泉進次郎氏の父・小泉純一郎氏だ。

この後も、こども保険の提言は続く。“育児保険”と呼ばれることが多かったが、基本は今の構想と同じだ。2000年に介護保険が始まり、嘗ては家庭の中の問題とされていた介護を、社会全体で支える仕組みができた。「それならば、育児だって社会化できるのではないか?」。そんな風に考える人が珍しくはなかった。2006年には、佐賀県知事が政府に対して育児保険の創設を要望した。同年末には、政府の『規制改革・民間開放推進会議』が答申の中に“育児保険の創設検討”と盛り込んだ。しかし、何れも実現へ向け動くことはなかった。「子供を作らない人は保険料を払い損になるのではないか?」等、幾多の課題に明確な答えが無かったからだ。「本来、子育て支援は税で実施すべきである」との考えが根強いことも、実現の壁になった。「消費税増税の可能性がある時に新たな保険制度等が議論されると、増税がだめになる」と考える官僚も多くいた。今回の議論に話を戻そう。今も霞が関は、こども保険構想に懐疑的。これまで指摘されていた疑問に明確に答える術は無く、10%への消費税率引き上げも日程に上がっていることが背景にある。厚労省には、介護保険を作った時のような気力も無い。「今回も環境は厳しい」と言わざるを得ない。しかし、10%への引き上げは三度の延期も囁かれる。抑々、消費税率10%では大した子育て支援はできない。10%以上を視野に入れる必要があるが、「それは一体いつ実現するのか?」という状況だ。政府は、「2020年を目途に少子化のトレンドを変える」と謳っている。本当に実現したいのなら、いつかわからない消費税増税を待つだけでなく、あと1~2年のうちに大がかりな対策が必要だ。嘗て、育児保険を最初に提唱したとされる神奈川県立保健福祉大学の山崎泰彦名誉教授は、その実現を「小泉氏に懸けたい」という。同氏への期待は大きい。実際、小泉氏の提言を契機に、公的医療保険・介護保険・年金保険等、既存の保険制度を総動員して子育て支援の財源を生み出す“修正版こども保険”のアイデアも浮上してきた。あとは、本当に「社会を変えたい」という熱意を持った政治家や官僚の輪が広がるかどうかにかかっている。 (山口聡) =おわり


⦿日本経済新聞電子版 2017年5月30日付掲載⦿
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