日本生命、異常な保険料値上げと今も続く“不払い”――未だ自社優先・顧客軽視の体質、“やらずぼったくり”の死差益

20170601 01
「結果的にうちが一番大きくなるとは」――。『日本生命保険』の神奈川県内の支社に所属する営業職員の1人はこう呻いて、販売の先行きに不安感を募らせる。先月を期して、終身保険・年金保険・学資保険等、所謂“貯蓄性商品”の一斉値上げに踏み切った生保各社。中でも保険料率の引き上げ幅が際立ったのが、業界首位の日生だ。『第一生命ホールディングス』傘下の『第一生命保険』が2~10%、『明治安田生命保険』が5~14%、『住友生命保険』が1~26%だったのに対し、2~30%と大手4社で最大規模。40歳で加入して60歳までに保険料の払い込みを終え、死亡時に300万円を受け取れる終身保険の場合、男性ならこれまで月額1万1178円だった保険料が1万3653円と22.1%アップ。女性だと同1万491円が1万3350円へと、一挙に27.3%も跳ね上がる。全く同じ条件下での事例を開示した『かんぽ生命保険』の発表資料によれば、上げ幅は男性11.5%、女性で13.6%。その倍の水準にも達する大幅値上げとあって、業界関係者も驚きを隠さない。抑々、事前の予想では「日生や明治安田等といった相互会社形態の生保は、第一やかんぽ生命等といった株式会社形態の上場生保よりも値上げ幅を圧縮、寧ろ多少利益を削ってでも価格優位性を訴求してシェアを取りにくるのではないか?」ともみられていたからだ。生保各社が今回、保険料の値上げに踏み切ったのは、『日本銀行』のマイナス金利政策導入による新発国債の利回り低下を受けて、金融庁が昨夏、4年ぶりの標準利率引き下げ(※年1.0%→0.25%・実施は先月から)を決めたことがきっかけだ。各社が契約者に保証している利回り(予定利率)を決める際の指標となる利率で、引き下げられれば、会社側は将来の保険金支払いに備えた標準責任準備金も積み増さざるを得ない為、その分の価格転嫁は避けられない。要するに、この時点である程度の値上げは織り込み済みだった。

ただ、標準利率の下げをストレートに保険料に反映させなければ、期間利益を落として株主から袋叩きに遭いかねない上場生保と違って、相互会社生保は非上場で株主不在。一時的に利益が減っても、市場から突き上げを食らう恐れはない。日生からすれば、値上げ幅を抑えることによって、最大のライバルである第一に苦汁を舐めさせる格好の機会だったことになる。なのに、事態は「殆ど真逆」(『メットライフ生命保険』幹部)とも言える展開だった。しかも、事は単に上げ幅だけには留まらない。値上げの対象となる商品の範囲に関しても、日生の突出ぶりは競合他社を半ば圧倒する形となった。今回の値上げには、前述のようにマイナス金利政策等、超低金利による生保各社の運用難が背景にある。それだけに、金利の影響を受け難い掛け捨ての医療保険やがん保険等、第三分野商品や死亡保険等は値上げの事由に乏しく、「対象から外される」と見做されていた。実際、大半の生保では適用を除外。それどころか、明治安田では、重い病気や事故等で働けなくなった時に生活費の給付を受けられる総合保障保険を1~6%値下げ。『アフラック』は医療保険について、3~10%のプライスダウンを打ち出したほどだ。ところが日生は、一生涯保障が続く終身型の商品に限定したとはいえ、医療・介護・がんの3保険を揃って値上げ。40歳の女性が60歳まで保険料を支払って500万円の保険金を受け取れる介護保障保険は、月額保険料を1万8360円から2万2565円に改定する等、22.9%も引き上げた。「値上げと言っても、対象となるのは4月以降に加入、或いは更新する契約分から。既存の契約者は対象外で、痛みは感じない。だからと言って、毎年のように値上げを繰り返すのも得策ではない。ならばこの際…とばかりに、思い切った値付けと対象拡大へと動いたのではないか?」。事情通の1人は日生の思惑をこう読み解くが、当たらずと雖も遠からずか。保険商品の設計等に携わる“保険数理人”と呼ばれる専門家らで構成する公益社団法人『日本アクチュアリー会』が現在、来春からの適用を目途に、2007年以来となる“標準生命表”の見直し作業を進めており、実施されれば医療・介護・がん保険は値上げが不可避とみられている為だ。標準生命表は、生保各社が保険料算定の目安としている予定死亡率を定めたもの。日本アクチュアリー会がこれまでに纏めた改定案では、40歳男性の予定死亡率を現在の“1000人に1.48人”から“同1.18人”に、同女性を“1000人に0.98人”から“同0.88人”へと引き下げる。その分だけ契約者が長生きするということになり、保険会社が支払う医療等、長期生存に備えた保険の給付金が増え、保険料の上昇要因となるという訳だ。同会では、改定案を近く金融庁に提出、当局が今夏にも告示する見通しだが、これをベースにすれば、終身型の医療保険の場合で平均5%前後の値上げになるとされている。要するに、日生はこれを見越して、今春に値上げを先取り。「ライバル他社が来春に医療保険等の一斉値上げを実施するのを尻目に、価格の据え置きや、場合によっては値下げをアピールし、一気にシェアを奪う作戦ではないか?」との見立てだ。

20170601 02
長生きに備える保険は、市場の成長分野とされている。『生命保険協会』によれば、2015年度の新規契約件数は、医療保険で約360万件。約200万件に留まった定期保険を、今や大きく上回る。ここでストックを積み上げていければ、「超低金利という逆風下でも収益性の向上が可能」(金融関係者)だ。業界筋の間では今回、貯蓄性商品の上げ幅を相対的に大きく設定した背景にも、「実は標準生命表の見直しが絡んでいるのでは?」といった声が頻りだ。予定死亡率が引き下げられれば医療保険等が値上げとなる一方で、定期保険や死亡保険等は保険料の引き下げを余儀なくされるからだ。大手生保等の試算では、死亡時に3000万円の保険金が出る保障期間10年の定期保険の場合、30歳男性では月額保険料7500円が6800円に低下、同女性では6300円が6000円に下がる。生保にとってはその分、利益の下押し要因となりかねないだけに、その穴埋め手段を確保しておきたいところだろう。生保における保険本業での儲けを示す基礎利益は、3つの要素で構成されている。営業活動等実際に事業の運営にかかった費用が予想より少なかったことで生じる“費差益”と、資産運用が上手くいって利息・配当収入が想定を上回ったことで生じる“利差益”、そして実際の死亡率が予定死亡率を下回り保険金の支払いが少なくて済んだこと等で生じる“死差益”だ。この内、最大の稼ぎ頭で、謂わば“ドル箱”ともなっているのが死差益だ。日生のここ3年間の業績をみても、費差益が2013年度で727億円、2014年度795億円、2015年度656億円と、基礎利益(5924億~6981億円)の1割前後の比率に留まっているのに対し、死差益は2013年度で4048億円と基礎利益の68.3%。更に、2014年度が4089億円で同じく60.2%、2015年度も4320億円で61.8%を占める等、その比率は何れも6割を超えている。つまり、実際より死亡率を高く見積もって、契約者から余分に保険料を巻き上げ、それで利益の大半を稼ぎ出してきたことになる。

予定死亡率の引き下げは、こうした「半ばやらずぼったくり商法」(メガバンク筋)が修正を迫られることをも意味する。ならば、「値上げできるものは今のうちに上げられるだけ上げておこう」とでもいった魂胆か。尤も、死亡保険料が下がるとはいっても、対象となるのは値上げと同様に新規契約、又は更新分からだ。既契約者に恩恵が及ぶ訳ではない。日生からすれば、既契約を維持してさえいれば、死差益のジリ貧は免れないにしても、契約者が大量死でもしない限り、ドカ貧に陥ることはない。保険料値下げの原資に、これまで通り高い保険料を毟り取られ続ける既契約者こそ、いい面の皮だ。こうした中、日生内部で依然として燻り続けているのが、保険金の支払い漏れや不払い問題だ。2015年度に発生した支払い漏れ件数は133件。明治安田の102件や住友の57件よりは上回ったものの、271件だった第一の半分以下の水準に留まり、前年度の138件と比べても僅かながら減少した。ただ、支払い漏れの金額でいえば断トツのワーストワンだ。第一が総額で4100万円、明治安田が2900万円、住友に至っては僅か400万円だったのに対し、日生は1億7200万円。第一の約4.2倍、住友の43倍だ。偶々、この年に大口の支払い漏れが集中したという訳ではない。2014年度も日生は1億9500万円と、第一の5900万円(391件)、明治安田の4200万円(97件)、住友の1700万円(95件)を大きく上回っているからだ。2005年2月に明治安田による不当な保険金の不払いが発覚してから火が付いた生保の不払い問題。そのピークとされた2006年度における日生の支払い漏れ件数は、1万1768件にも達した。ただ、件数の割に支払い漏れ金額は少なく、5億8000万円だった。その時と比べて、件数では99%近く激減する等、大幅に改善したものの、金額ベースでの改善幅は然程でもないことがわかる。競合他社から「明らかに異常」(明治安田関係者)との声が飛ぶ所以だ。一方で、2014年暮れに発覚したのが、違法とされている“作成契約”事件。日生の50代の営業部長が指南する形で、実体の無い事業者を独立行政法人『勤労者退職金共済機構』が運営する『中小企業退職金共済制度(中退共)』に加入契約させ、142件・3216万円分の退職金を不正に受け取っていたというもので、「営業成績を上げる為」として23人もの営業職員が関与していたという。「『少しでも保険金の支払いを抑えたい』『新規契約を取る為なら多少手を汚しても構わない』といった自社優先・顧客軽視の体質が、未だに抜け切っていないのではないか? だとしたら、保険料の値上げなど筋が通らない」。金融当局筋の一部からは、こんな厳しい批判も漏れてくる。

20170601 03
“日本版スチュワードシップコード”――。当局筋の不満は、日生が金融庁の提唱した“責任ある機関投資家の諸原則”の受け入れを表明しているにも拘わらず、大手生保で唯一、投資先企業の株主総会における会社側提案に対する議決権行使の状況を開示することに及び腰な点にも起因しているのだろう。日生では「行使状況を数値化して公表するよりも、行使を判断した理由や具体的な事例を公表するほうが、投資先にこちらの姿勢を理解してもらえる」「投資先との対決色が強調され、寧ろ円滑な対話が阻害されかねない」等と弁明しているが、金融庁幹部は「契約者から預かった保険料を株式や債券等で運用し、その運用収益の拡大を通じて契約者に対する保障責任を果たすというのが生保の務め。数値を公表することによって、投資先の経営に適度な緊張感が生まれ、その規律付けを促すことにもなる」と指摘する。日生では取り敢えず、今年度中に過半を社外委員で占める“スチュワードシップ諮問委員会”を新設。低ROE(株主資本利益率)・低配当性向が続く企業やコーポレートガバナンスに問題があると思われる企業等、“重点対話企業”と位置付けている投資先を、これまでの200社から300社に増やして、運用成績の向上に繋げていく方針を打ち出しているが、当局からすればそれでも物足りなく、歯痒さが消えない思いに違いない。“全・進—next stage—”。今年度から日生は、「2015年度からの中期経営計画をほぼ前倒しで達成できた」として、“人生100年時代をリードする日生グループに成る”をスローガンに、2020年度までの新中期計画をスタートさせた。2020年度末で、国内顧客数を昨年12月末時点の1174万人から1400万人へと積み上げ、買収した『三井生命保険』との合算で約4兆円の保有年換算保険料を8%伸ばし、本体以外のグループ純利益を700億円に拡大させるという。だが今、日生に問われているのは、貪り食らってきた死差益の還元策と確実な保険金の支払いだ。契約者からは「たわけ者」といった声も聞こえてくる。


キャプチャ  2017年5月号掲載




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