全アジアを蝕む“砂”の乱採取、凄まじき“密輸と環境破壊”の実情――傍若無人のサンドマフィア、無軌道な採取で進む砂漠化

中国やインド等、新興国の建設ブームにより、世界中で砂の需要が高まっている。建設用の砂の消費量は過去12年間で2倍近くに跳ね上がり、アジア各国では、砂の商品価値に目をつけて、海岸や河川周辺等で違法に大量採取する“サンドマフィア”が続々と現れた。中でもインドの砂の違法採取は深刻な問題で、地方政府や警察を抱き込み、巨大な規模での国土破壊に突き進んでいる――。

20170601 04
インドのウッタル・プラデシュ州にあるアグラは、ムガール帝国の名建築『タージマハル』(※右画像)によって、世界に名だたる観光地である。その周辺で先月上旬、警察官が襲われる事件が3件連続した。1人は、サンドマフィアのダンプカーを止めようとしたところ、轢き殺された。別の警察官は、マフィアのダンプに乗り込んでいた男に発砲されて死亡。更に別の事件では、警察官1人がマフィア数人に暴行を受け、重傷を負った。3件は4日間に立て続けに起こり、サンドマフィアが如何に強大で、警察権力さえ恐れていないかをまざまざと示した。同州でこの問題を追うインド人記者は、自分の身も案じつつ言う。「連中は本当に危険で、警察であれマスコミであれ容赦しない。違法な採取の現場を押さえるには、単独か少人数で隠密行動をしなければならないが、マフィアに見つかった時は簡単に消される」。警察自体があてにならない。連続襲撃の約1週間後の先月中旬には、森林警備隊の車がサンドマフィアのトラックを止めようと道を塞いだところ、巨大トラックが躊躇なく突っ込んできて、車はぺちゃんこにされた(※警備隊員は逃れて無事)。警備隊は「警察は何もしない」と怒り、警察がマフィアに抱き込まれていることを示唆した。南部の商都・チェンナイを擁するタミルナドゥ州は、海岸線が1000㎞を超え、砂の違法採取は一大産業である。ここで昨年12月、税務当局はマフィアのボスの1人から177㎏の金塊、円換算で20億円以上の現金を押収した。その後の調べで、州政府の官房長官に当たる大物政治家の関与も判明し、一族の家宅捜索で5㎏の金塊等を押収した。一連の強制捜査では、税務当局は情報漏れを恐れて、警察には一切協力を求めず、独自に調達した武装組織に護衛させた。

インドの砂利消費は、公式統計で年間5億トンとされるが、同国内の業界団体は「そんな規模ではない」と口を揃える。闇市場を調べたオーストラリアのテレビ局は、年間2億5000万ドルの収益との推計を紹介したが、インド建設業が年8%もの成長を遂げ、年商1200億ドル超に拡大したことを考慮すれば、実態はこの推計より遥かに大きそうだ。建設業では、コンクリート用の砂利から道路のアスファルト舗装、更にガラスに使う珪砂まで、様々な種類の砂需要がある。日本を含む先進各国は、戦後の高度成長期に早々に土砂不足を経験して、建設資材のリサイクル化を進めた。『日本砕石協会』の統計では、コンクリートやアスファルトに使う“骨材”全般の需要は、9.5億トンをピークに、近年は4億トンの水準にまで下がっている。ところが、中国やインドの建設ブームは最近、更に加速。都市部の膨張で、アスファルトとコンクリート需要が同時に増加した。アメリカの建設調査会社『フリードニアグループ』によると、世界の建設用土砂消費は、2004年の80億トンから、昨年には137億トンに増えた。その半分が中国の消費だ。中国は土砂輸出国だったが、国内需要の高まりから2007年に輸出を全面的に禁止した。以後は国際市場で砂を買いまくっている。砂漠に囲まれた中東産油国も輸入量が大きい。細かな砂漠の砂は、建設資材に不向きなのだ。インドは、自国の経済成長と建設ラッシュに加え、土砂採取の規制が弱いことや、地方政治の腐敗により、サンドマフィアが跋扈するようになった。仮に違法採取が立件されても、有罪判決は罰金5万円程度か最高でも2年の懲役刑。地方権力と結んだ有力マフィアの庇護下に、採取の現場はどんどん荒っぽくなる。「砂は長距離輸送向きではないので、今でも大都市圏に近い地域での大規模採取が一般的だ。塩分を含む浜砂より、河川の砂利の価値が高い」と、インド国内の環境団体は指摘する。農村部の労働力をかき集めて、人海戦術で川底や湖底を掬ったり、浜砂を重機で大量採取し、大型トラックのコンボイで運び去ったりと、サンドマフィアはやりたい放題である。これに抗議する地域住民やジャーナリストは、容赦ない暴力で沈黙させられる。住民側に立ってマフィアと対決する政府職員や官僚は、“腐敗”や“不正”のでっち上げで解職される。ウッタル・プラデシュ州の『ヒンドゥスタンタイムズ』が一昨年、潜入調査を行ったところ、有力サンドマフィアの1人は、2012年まで同州で政権の座にあった『大衆社会党(BSP)』の政治家の側近だったことがわかった。BSPは、カースト制度下で最も差別を受けたダリット(不可触民)を支持基盤に、急速に勢力を拡大した。女性党首のマヤワティ氏は、1995年から2012年まで4度、州首相の座についた。同紙に“マフィア”と名指されたカラム・シン・ラジプート氏は、マヤワティ州首相の影のフィクサーとされた鉱山相の元側近。刑事訴追される懸念を全く持たずに、事業を拡大した。100人の武装私兵、400台のトラックとダンプカーを持つ。同紙の潜入取材に対しては、「誰が政権の座にあっても俺には何の問題もない」と豪語した。

インド政府は、大規模土砂採取には環境省の許可を得ることを義務付けているが、サンドマフィアは歯牙にもかけない。ナレンドラ・モディ首相は対策を殆ど示さず、地方政府任せだ。近代化を看板にする首相にとって、3500万人を雇用するインドの建設業は公約の推進役であり、その生命線である土砂供給を止める訳にはいかないのである。しかし、これだけ採取しても大都市圏の需要に追い付かない。商都・ムンバイがあるマハラシュトラ州等、都市部の業者は一昨年から、インドネシアやフィリピンから土砂輸入を始めた。あるインド人コラムニストは、「これを悲喜劇と呼ばずして何と呼ぶか」と、インドの底知れぬ砂需要を皮肉った。インドの砂不足は東南アジア市場に及んでいる。東南アジアでは、カンボジアの採取が問題視されている。シンガポールがほぼ独占的な顧客で、国際環境団体の調べで、2007~2015年に7000万トン以上の砂をカンボジアから輸入したことが明らかになった。ところが、この期間、政府の公式統計では、砂輸出は僅か270万トン。二十数倍もの砂が密輸されていたことになる。しかも、砂の採取業者を束ねているのが、フン・セン首相に近い2人の政治家であることもわかった。業者と政治家が一体となるのは、まさにカンボジア版サンドマフィアである。シンガポールは、国内の建設事業だけでなく、国策である埋め立て事業にも大量の土砂を使う。1965年にマレーシアから独立した時の面積は580㎢だったのが、今は約720㎢。国土が実に2割以上膨らんだことになり、その材料は周辺国からの輸入でやり繰りしていた。隣のマレーシアは、1997年に砂の対シンガポール輸出を禁止し、インドネシアも2007年にこれに倣った。一方、世界最大の消費国である中国は、建設資材の確保が国策だけに、国家や地方政府が自らサンドマフィアの役割を担っている。2000年代には国内調達だけでは足りなくなり、輸入市場に活路を求めている。土砂採取が如何に無軌道かは、中国最大の淡水湖である鄱陽湖の激変からも窺える。鄱陽湖は、『国連開発計画(UNDP)』により“世界最大の土砂採取場”とされるほど、採取が凄まじい。1990年代後半から水質汚濁が酷くなり、漁業が崩壊。揚子江上流に『三峡ダム』ができたことで、近年には水そのものが無くなり、通常なら3900㎢ある湖水面積が、昨年には何と200㎢まで縮んでしまった。地元当局は「干ばつが主因」としているが、無軌道な土砂採取による自然破壊が重大な結果を招いたのは間違いない。サンドマフィアが牛耳るインドでは、海岸線の浸食や川底の低下等で塩害が広がっている。『国連経済社会局』が2013年に行った調査では、2大河川であるインダス川・ガンジス川流域で塩害が進んでいることがわかった。両川流域では、「塩害に遭った土地で栽培される小麦・米・綿の生産量の損失は其々、40%・45%・63%になる」と推定された。使い物にならなくなった農地は、瞬く間に砂漠化する。土砂を採取すればするほど周辺は砂漠化して、人間が住めなくなる。前出のフリードニアグループによると、世界の砂需要は今後も年率5%超の伸びが予想される。サンドマフィア対策は勿論、アジア各国の砂資源管理は、国際的取り組みが必要な水準に達している。


キャプチャ  2017年5月号掲載




スポンサーサイト

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR