【ヘンな食べ物】(39) 砂漠のスーパー甘味

酒飲みであるせいか、甘い物が不得手だ。だから、旅先や取材先でスイーツの類いを勧められるのが一番困る。特に中東・アフリカのイスラム圏。酒が少ない代わりに、お菓子の類いは無駄に充実している上、どれも甘過ぎる。その代表格がデーツ(※ナツメヤシの実)。大抵は乾燥させたもので、干し柿を一回り小さくしたような味と質感だが、デーツの方がもっと甘みが強く、ねっとりしている気がする。しかも、只でさえ甘過ぎるデーツを砂糖漬け(※若しくはシロップ漬け)にしたスイーツも人気で、正直「頭がおかしいんじゃないか?」とすら思っていた。ところが、これまでの人生で2回だけ、このデーツを「美味い」と感じたことがある。一度は、ラマダン中にソマリアを旅していた時。イスラムの戒律では、この期間(※約1ヵ月間)、日の出から日の入りまで食べ物も水も一切口にしてはいけない。私も、一緒に行動しているソマリ人の通訳や護衛の兵士たちの手前、自分だけ飲み食いするのは気が引けるので、同じように断食をしていた。毎日、夕方になると、近くのモスクからアザーン(※お祈りを促す声)が聞こえてきて、やっと食事にありつける。私は、これまでイエメンとスーダンの田舎でラマダンを経験したことがあって、その2ヵ所ではアザーンが聞こえると同時に、炊き込みご飯やらローストチキンやらを一気食いしていたが、ソマリ人はもっと上品。「急に沢山食べるのは胃腸に良くない」という尤もな理由で、先ず軽食を摂る。メニューは、三角形の総菜『サモサ』・西瓜・固く焼いた小さなパン、そしてデーツと決まっている。飲み物はレモンジュースかお茶か水。

丸一日、食を断った後のデーツは、ねっとりした甘みがすーっと体に染みこんでいくようで、本当に美味しい。酒を飲んだ時のように、体の強張りが取れ、五臓六腑に染み渡ったものだ。もう一度は数年前、アルジェリアのサハラ砂漠を42.195㎞走る『サハラマラソン』に出場した時。当時、私は最も長く走った時でも15㎞という超初心者ランナーで、マラソンに関する知識もゼロ。他の選手たちが栄養補給のゼリーやドリンクを用意し、腰や背に付けたりするのを見て、「こういうものが必要なのか!」と今更ながら青くなった。でも、無いものは無い。そのままスタートしてしまった。砂漠の中には、大体2㎞に1つは給水所が設置され、水のボトルとデーツの砂糖漬けの山が用意されていた。元々、デーツの砂糖漬けなんて大嫌いだし、水だけ補給して立ち去っていたが、10㎞ぐらいになるとガクンと疲れてきた。日頃の練習が精々7㎞程度だから無理もない。この時、給水所で水を飲む序でに、ほぼ無意識的にデーツの砂糖漬けを齧ったのだが、これが滅茶苦茶美味い! 同時に、何か内側から「バーン!」と叩かれたような刺激に心身が目覚め、元気が出た。以後、デーツをばりばり食べ、そのおかげで完走できたと言ってもいい。因みに、一度、併走していたオランダ人ランナーからスポーツゼリーを分けてもらって食べたが、そんな刺激は何も無かった。思うに、栄養学的にはゼリーのほうが優秀なのかもしれないが、デーツにはそれを上回るスーパーな疲労回復力があるのではないか。きっと大昔から、砂漠の旅人はオアシスの村に到着すると、デーツを食べ、再び歩き出す力を得たのだろう。デーツは、過酷な砂漠の必需品なのである。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年6月1日号掲載
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