【新米住職ワーキングプア】(01) 「俺たちの布施で寺は食えているんだ」と檀家に言われたら…

20170602 14
今号から連載を始めるにあたり、ご挨拶申し上げます。『新米住職のワーキングプア記』という欄を任されるようです。昨年12月に『お寺さん崩壊』(新潮新書)を刊行したこと、また嘗て上梓した『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)が当時話題になった際、本誌からインタビューを受けたことがご縁となっていると思います。その高学歴ワーキングプアですが、当時は著者がお坊さんだということで、仏教界からも多少は興味を持たれたようです。「変わったヤツがいるな」くらいでしょうが。そして今回。「アカデミア(学究的世界)に巣くう貧困の闇――高学歴ワーキングプアを世に照らし出したヤツが、今度は地方のお寺さんを取り巻く状況に触れよった」という訳での依頼みたいです。それにしても、一般にお寺も研究者の世界も生活苦という印象は全くない訳ですが、実態は違う。世間から多分に誤解されている。そうした点で、ここには共通の問題が横たわってもいます。先ずは今回、お寺さん崩壊という本をこの時期に書こうと思った理由を有り体に語りたいと思います。理由は2つあります。1つには、自分自身が地方寺院の住職になってしまったこと。もう1つには、過去へのリベンジ、いやケジメと言ったらよいでしょうか。その出来事は、約10年前に遡ります。2007年、先述した高学歴ワーキングプアを上梓して、世間からちょっと熱い眼差しを注がれていた頃のこと。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌と、インタビューも結構あった訳です。最早、今や昔ですが…。

光陰矢の如し。まさに無常を感じる訳ですが、それはさておき、そんなちやほやされていた時期に、とある(思い返すも苦々しい)質問が向けられたのです。「先生は、お名前から察するにお寺の生まれですか?」「勿論、そうですよ」と答える他、選択肢はありません。すると、質問の主は嘲笑気味に、「じゃ、研究者として今は貧乏でも、実家に帰れば先は安泰じゃないですか?」と。すかさず私は、「いや、お寺も大変なんですよ」と切り返しましたが、最早その方はどこ吹く風。「何を戯言を。坊主丸儲けでしょうが」とでも言いたげなご様子。一気に脱力したことは言うまでもありません。10年前というのは、お寺に対して未だこうした世間からの誤解がとても大きかった時代でした。ですので、この時も「最早、何を言っても耳には入るまい」とだんまりを決め込むしかなかった。「必ずや時期到来したならば、世間の思い込みを払拭してやる」。そんな秘めた思いを胸にしまい込みつつ。ここから、月日は本当にあっという間に過ぎ去ります。数年前から、新聞紙上等では「過疎化・少子高齢化でお寺が潰れている」というニュースが、遂に散見されるようになりました。今こそリベンジの刻! 10年来、熾火のように燻っていた煩悩の炎が、めらめらと燃えさかり始めました。「やってやる」。気合いを漲らせていると、何と『寺院消滅』(鵜飼秀徳・日経BP社)なる本が全国書店の店頭に並び、忽ち評判に。「まさか…同じことを考えていた人間がいたとは…」。一瞬驚愕しましたが、直ぐに考え直しました。「いや、これは天の刻が来ているのだ」と。幸いにも鵜飼さんの本は、寺院衰退の概要を人口統計や社会・文化的な慣習の変化等の大きな視点から捉えることが中心でした。そこで私は、潰れゆく当の寺院では、実際にどのようなことが起こり、そして何が解決不可能な問題として残り、また厳しい現場にあって人々はどのような議論を経て苦渋の決断を下さざるを得なかったのか…といった人間模様や、そこでしか見られない唯一無二のドラマを提示してみようと考えました。やはり流れ、いや仏さまのお導きがあったのでしょう。偶々、私の培ってきた学問的な調査分析方法等ともマッチングがよかったことも幸いでした。斯くして、お寺さん崩壊は独自のテーマで世に問いかけを行うに至りました。前記の拙著に“坊主丸もうけなんて大ウソ!”というセンセーショナルな帯が付いたこともあり、書店では多くの方の手に取られているようで、発売後直ぐに重版がかかりました。その中にはうちのお寺の門徒さんもいたりして、嬉しいやら恥ずかしいやら。幾つか想定外のことも起こり、びっくりしています。1つには、お布施(の中身)がじわじわと上がり始めたことです。まさに思いもよらぬ嬉しい出来事でした。「我が寺が潰れちゃ困る」。そんな有り難い危機意識を頂戴した思いで、こちらも気が引き締まります。

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ただ、いつものことですが、良いことばかりではなく批判も。「嫌なら辞めれば?」なんてのは、その代表的なものです。何かをしようとすれば、必ず賛否両論がでます。お寺の事業計画発表の場なんかも似たようなものでしょうか。このあたり、「お釈迦様でも提婆達多には悩まされていたのだから…」等という心境で、前向きにやり過ごすことにしています。それにしても、「辞めたら?」等という発言は、やはり無関係の第三者だからこそのものという気がしています。そんな簡単に辞められるもんなら、誰も苦労などしないで済む訳です。抑々、地方寺院というものは、その地域や集落に根付いて何百年という歴史を持っているのが普通です。それを、自分の代で「経済的に苦しいから」等という理由で廃寺にできるかといえば、それは到底できないことです。お寺生まれのご院家さん方なら思いあたる節もあるでしょうが、「跡継ぎの立場というのは兎に角重い。だから、青年期はお寺が嫌いでたまらない」。お寺から出ていきたいと、心が疼いて仕方ありません。しかし、どういう訳か、最後にはお寺を継ぐ羽目になることが多いようです。私もご多分に漏れず、でした。何か目に見えない太い綱に括り付けられていて、こちらが気が付かないように上手に捌かれている。仕舞いには抗い切れず、寺へ引きずり込まれてしまったといったところでしょうか。歴史の重み・先人たちのご苦労・地域の精神的支柱――。そういった諸々で編み込まれた、それは強靭な綱なのでしょう。約20年ぶりに締められる日本出身力士・稀勢の里の綱の重みは言うまでもないことですが、我々跡取り坊主のそれも決して負けてはいないでしょう。自分の一存では逃れることのできない縁の中に取り込まれているのですから。

「嫌なら辞めれば?」「はい、辞めます」とは到底いかない世界がある。背負わされているものが違う訳です。そうしたことを含め、「世間の誤解や曲解を解いていく為の丁寧な説明をしていかねばならない」と心新たにした次第です。それはそうと、私のもう1つの立場である“研究者”であれば、それこそ嫌なら直ぐにでも辞められます。但し、「飯はどうする?」という問題に直面しますが。そうすると結局、潰しも利きませんから、己が生きる為には、やはり続けるしかない。「自分を取り巻く何か見えない働きが、どうもあるのではないか?」とも思えてくるのです。決して、自らの意志だけで選択している訳でもなく、何やら、やらざるを得ない中で活動させられているというか。私が住職を継いだのは、丁度1年前のことになります。以来、思うところも多々ありますが、一番驚いているのは、門徒さん方のお寺さんに対する意識についてでしょうか。「昔の門徒さん方は“お寺に世話になっている”という感覚が強かった」と聞き及びますが、最近ではこう仰る方も珍しくないようです。「お寺は俺たち門徒のおかげで持っとるんだ」と。確かにその通りなので否定はできません。ですが、その言葉に何やら嫌悪感が湧いてしまうのも正直なところです。私は学校勤めが長かったので、これに近い発言を耳にしたことが幾度かあります。子供たちがこう言うのです。「先生の給与は私たちの学費から出ているんでしょう?」と。子供たちはきっと、お客さんのつもりなんですね。そして、「自分の家のお金が学費として支払われているから、先生が食べていけている。だから、私のほうが実はちょっと偉い」とでも言いたげな表情を作るのです。そうした際、直ちに私は子供たちを窘めることにしています。「お前さん方が学校に来ているのは、ここに良い教育があるからだよ。プロがいて、あなた方は育てられている。そのことに“感謝”して支払われているのが“学費”ですよ」と。市場経済の中で、貨幣は取引の材料に使われます。対価を支払うのだから、実際には支払う側が優位に立つ場合も少なくない。子供がそれに慣れると、ちょっとおかしなことになる。“感謝の気持ち”が失われ易くなるからです。翻って、門徒さん。似た状況なのではないでしょうか? “葬儀や法事の対価としての布施”というような誤解がどこかで生まれ、いつしかそれが当たり前になっていく中で、「俺たちの布施で寺は食えている」という思いが湧いてくるのは、考えてみれば仕方ないのかもしれません。詮無いことですが、新米住職の身で何の力もありません。心の中でこう毒づくのが精一杯です。「仏さんを食わしてやっているんですね、あなた方は。それは立派ですね」と。「間違っていました。仏さまのおかげで私がいます。生かされているのは私なんですね」と、いつか返してくれる光景を夢見ながら。


水月昭道(みづき・しょうどう) 浄土真宗本願寺派住職・環境心理学者・評論家。1967年、福岡県生まれ。九州大学大学院博士課程修了。博士(人間環境学)。著書に『高学歴ワーキングプア “フリーター生産工場”としての大学院』(光文社新書)・『他力本願のすすめ』(朝日新書)・『お寺さん崩壊』(新潮新書)等。


キャプチャ  2017年5月号掲載

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