【中外時評】 プログラミング必修化に課題

「ロボットはちゃんとゴールに着くかな?」「やった! 大成功」――。先月28日の日曜日、東京大学の本郷キャンパスに子供たちの燥いだ声が響いた。NPO法人『CANVAS』が開いた、3~6歳児を対象としたコンピューターのプログラミング体験講座の一コマだ。床に敷いたマットにはマスが描かれており、その上を一升ますを一回り大きくしたような形のロボットが動き回っていた。手元ではコントローラーを操作する代わりに、“前進する”・“右を向く”といった動作を紐付けたブロックを並べて動かす。子供たちは並べ方を工夫し、ロボットが事前に決めたゴールに着くようにする。絡み合った大きく複雑な問題を、小さく単純な問題に分解して、解き易くする――。体験講座は、プログラミングの基礎や論理的な考え方を自然と身に付けさせることを狙っている。3年後には、全国の小学校でこうした光景が一般的になるかもしれない。2020年度に小学校でプログラミング教育が必修になるからだ。必修化に向けた動きは、2013年から本格的に始まった。政府が『日本再興戦略』に義務教育段階からのプログラミング教育の推進を盛り込み、人材の不足に頭を悩ませていたIT企業等が後押しした。情報端末は生活に深く入り込み、あらゆるモノがインターネットに繋がる『IoT』の普及で、多くの仕事はITとの関係が深くなる。基礎知識としてITが重要になっていることに加え、「論理的な思考力の養成に役立つ」との判断から、プログラミングが小学校の授業に入ることになった。漸く動き出したプログラミング教育の必修化は、新たな課題も突きつけている。

1つは、教育環境の整備だ。文部科学省は、教育用のパソコンを児童3.6人に1台の割合で配備することを目指し、2014年度から年1600億円以上を地方交付税に盛り込み、自治体を支援してきた。だが、昨年3月末時点の実績は6.2人に1台に留まる。パソコン等の情報端末を使わずにプログラミングを学ぶ手法の研究も進んでいるものの、パソコン等を配備するほうが現実的だ。目標達成には資金の確保や、安く便利な端末の購入について助言する専門家の活用といった取り組みを広げる必要がある。だが、注意すべき点もある。先月中旬に足を運んだ教育関連の見本市では、必修化を商機と捉えて端末や無線LANの工事等を紹介する企業が目についた。文科省が以前導入に注力した電子黒板は、使いこなせない学校も少なくないという。環境整備だけが先行すると、新たな無駄な公共事業となる恐れがある。それを避ける手段の1つは、教材の開発や、専門知識を持つ教員の育成を先に進めることだ。教育内容の充実や人材育成が伴えば、無駄な投資のリスクが減る。抑々、“何で学ぶか”より“何を学ぶか”のほうが大切な筈だ。今回の必修化では、算数や理科といった既存の教科にプログラミングを取り込む為、教育現場の裁量が大きい。英語の授業時間数の増加等により、負担はただでさえ高まっており、対策が必要だ。課題の解決に向けて、プログラミング教育の推進団体『みんなのコード』の代表理事を務める利根川裕太氏は、「NPOや民間企業にはノウハウがあり、活用する手がある」と話す。「学校は外部と連携して教材開発や人材育成を急ぐべきだ」という提案だ。みんなのコードは、アメリカのバラク・オバマ前大統領や、『マイクロソフト』の創業者であるビル・ゲイツ氏らが支援する団体の体験講座を日本に導入した。このように実績を重ねてきた団体や企業が増えており、教員の知恵と組み合わせることで負担軽減や不安解消が進む。海外に目を向けると、イギリスが5歳からプログラミングを必修にする等、ヨーロッパの動きが目立つ。2000年から必修化の対象年齢を広げてきたイスラエルでは、起業が増えるといった効果も出ているという。低成長が続く日本も、ITを活用した価値創造が急務であり、無駄に費やす時間はない。 (論説委員 奥平和行)


⦿日本経済新聞 2017年6月1日付掲載⦿
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テーマ : 教育問題
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