【崩壊する物流業界】(14) 枯渇する長距離ドライバー…幹線輸送崩壊の危機

20170605 07
「トラックドライバーを辞めたいと思ったことはない。けれど、子供が『ドライバーになりたい』と言ったら反対する。ひとつ間違ったら命を落とす仕事。親心としては賛成できない」――。鹿山静男さん(仮名・50)は、29年に亘り幹線輸送を担っているベテランのトラックドライバーだ。幹線輸送は、東京・大阪・福岡・札幌等各区域内の拠点に、集荷担当者が集めた荷物を車両総重量11トン以上の大型トラックに詰め込んで、別の区域の拠点に運ぶ役割を担う。中部地区の拠点から静岡県中部への輸送ルートを担っている鹿山さんは、16時から荷詰め作業を行い、21時過ぎに拠点を出発する。翌未明に目的の拠点に到着して、荷物を下ろす。全ての業務を終えるのは3時半から4時頃。洗車や食事等を済ませて、6時半に就寝する。次の仕事に備えて起床するのは15時前後だ。そして、今度は中部地区向けの荷物を積み込み、前日に出発した拠点へと戻る。昼夜逆転の生活で長時間労働、しかも2日に一度しか自宅には帰れないハードな仕事だが、「定期便のドライバーなので、ほぼ同じルート・同じ時刻で勤務できる。土日は家族と過ごせているので未だマシだ」。定期便ではなく、集荷から幹線輸送・配達まで一貫して担う貸し切り輸送のドライバーとなると、仕事はより一層きつくなる。顧客の届け先によって、向かう場所も時間も逐一変わってしまうからだ。

「東京から福岡に直行なんてこともあって、いつ家に帰れるのかわからない。最近はドライバーが足りなくて、1人ひとりの負荷が増え、あっちに行ったりこっちに行ったりしている仲間が大勢いる。“ドライバー残酷物語”も強ち否定はできない」(鹿山さん)。物流業界ではドライバー不足への対応が喫緊の課題になっているが、採用の厳しさが顕著になったのはリーマンショック以降のことだ。「それまで採用で困ることはなかったが、ここ5年で潮目が変わった」(大手運送会社の社員)。昨年の有効求人倍率は2.33倍まで上昇し、全産業(1.22倍)を大きく上回っている(※左下図)。「事務職もドライバーとして走らせたり、引退した人を再登板させたりしてやり繰りする業者も出てきている。採用難が続けば、1日で運べた荷物に2~3日かかるようになるかもしれない」(同)。中でも、幹線輸送を担う大型トラックの人材不足は深刻だ。宅配は一般の乗用車でも代替できる部分があるが、幹線輸送は大型免許を持っている人でなければできない。運転免許は、車両の総重量によって区分けされている。トラックドライバーは最低でも、総重量5トン以上の車両を運転できる中型免許、或いは2007年6月以前に取得した普通免許を持っている必要がある。中型免許は、20歳以上で、普通免許を取得して2年以上経過していないと取ることができない。総重量11トンを超す車両を運転できる大型免許となれば、21歳以上、且つ普通免許を3年以上保有している等、条件は一層厳しい。どちらも普通免許取得後に改めて教習所に通う必要がある為、保有者は限られる。“ドライバー募集”と闇雲に求人を出しても集まらない。免許取得の労力に見合うだけの待遇が得られるならば、ドライバーは増えるだろう。「ドライバーが増えない原因は長時間労働と低賃金にある」と、『日通総合研究所』ユニットリーダーの大島弘明氏は指摘する。確かに、ドライバーの労働時間は長い。厚生労働省の調査によると、道路貨物運送業の月間労働時間は180時間を超え、全産業平均よりも40時間以上多い(※右上図)。長距離の運行による部分だけではなく、“手待ち時間”という業界特有の要因もある。手待ち時間とは、荷物の積み下ろしまでの待機時間のことだ。定刻に届け先に着いても、他に大量の荷物が届いていて、受け入れる態勢が整っていなければ、荷下ろしはできず、順番が回ってくるまで車内で待つことになる。この待ち時間が1運行当たり1時間を超えるケースが、過半数に上っている。

20170605 08
長時間労働の一方で、賃金は全産業に比べて月1万2000円安い。「夜間のトラック輸送は、昔は高賃金が魅力だった。でも、この20年、給料が全く増えていない」と、東京-大阪を中心に運行する50代のドライバーは吐露する。低賃金は、「規制緩和を機に運賃が下がったことが大きい」(『全日本トラック協会』広報室の齋藤晃室長)。物流コストの削減を目的に、国土交通省は1990年にトラック運送事業者の営業区域の拡大や、最低車両台数規制の緩和、トラック運賃届け出規制の緩和を行った。参入障壁が下がったことで、4万社だった事業者は、2007年に6万3000社超に増加した。その後のリーマンショックで輸送物量が大幅に減少する中、安く請け負う業者が続出。只でさえ値下げ競争が激しかった業界は、愈々過当競争に陥った。現在はどこも人手不足で苦しんでおり、運賃を上げてドライバーの処遇を改善すればチャンスだ。ところが、「下請け体質で、荷主に頼まれると断れずに、頑張って運んでしまう。その結果、運賃アップが進み難い」(前出の大島氏)。そんな中、各社は少しでもドライバーを確保しようともがく。「これからはドライバーを育てていく覚悟が必要になる」と話すのは、路線トラック最大手『西濃運輸』人事部の渡邉久人部長補佐だ。西濃運輸では、大型免許を取得する社員に対して費用の一部を補助する制度があるが、採用が一段と厳しくなった2013年末に、補助金を約3倍に増額し、教習費用の半分以上を賄える水準にした。免許取得後、職種を変更すれば、大型トラックに乗る幹線輸送ドライバーになることができる。

ただ、「最初は運転に不安を感じる人が多い。安心して働き続けてもらう為、トラック内の設備も併せて充実させている」(渡邉氏)。ドライバーの居眠り等を感知し、ブザーで注意を喚起するドライバーモニターシステムを導入した他、車線逸脱防止支援システム、衝突被害軽減ブレーキ、ふらつき運転を警告するシステム等も随時搭載していく。こういった取り組みをドライバーの家族にも伝えることで、一段の定着率向上を図っている。企業物流大手の『センコー』は、2015年7月に大型免許の教習所を滋賀県東近江市に開所。昨年11月には、卒業者の技能試験が免除になる指定教習所の認可も受けた。教習所は社員のみならず、一般の人も利用できる。「ここで免許を取得した人に入社してほしい」(佐々木信郎常務執行役員)と期待を寄せる。人材不足と並ぶ大きな問題が、ドライバーの高齢化だ。大型トラックのドライバーの平均年齢は46.5歳、普通・小型トラックも44.7歳と、全産業平均(42.1歳)を超えており、高齢化のピッチも速い。ある運送会社の幹部は、「幹線輸送に従事しているドライバーは50代が殆ど。10年後には激減し、日本経済への影響が顕在化しかねない」と危機意識を強める。高齢化に歯止めをかけるべく、国も動き出している。若年層のトラックドライバーの増加を狙い、今年3月から“準中型自動車免許”を創設する。これは18歳から取得でき、総重量で7.5トンまでの車両を運転できる免許だ。「準中型免許を持って入社し、集配トラックのドライバーとして働いてもらえれば、ゆくゆくは大型を取得して職種変更する人が増えることに繋がる」(前出の渡邊氏)と期待を寄せる。従来の中型・大型免許では認められていなかった高校卒業時点でのトラック免許取得が可能になる為、業界は早速、高校生へのアピールを強化している。全日本トラック協会は、少しでも関心を持ってもらえるよう、昨年春に高校生向けのパンフレットを作成し、出張授業を行っている。また、昨年に4200万円の予算を設け、学生のインターンシップを受け入れた事業者に、9万~13万円の助成金を交付することにした。「ミスマッチを防ぎ、人材定着を促したい」と、前出の齋藤氏は狙いを説明する。既に、全国で178の事業者がインターンシップを受け入れている(※今年2月18日時点)。官民其々ドライバー不足対策を講じているが、その効果は未知数だ。やはり、運送会社が適正な水準に運賃を引き上げ、ドライバーの処遇を改善する努力をしなければ、根本的な解決は難しい。

20170605 09
■物流業界にも広がる“シェアリング”の波
人や資産の空き時間を有効活用するシェアリングエコノミー。その波が物流業界にも押し寄せている。インターネット印刷の『ラクスル』が運営する『ハコベル』がそれだ。荷主がパソコンやスマートフォンからハコベルを使ってトラックの手配をすると、事前に登録している運送業者とのマッチングが行われる。最大の魅力は安さだ。軽トラック便の場合、5㎞までなら最安2800円と他社の約半額。現状の集荷エリアは東京・神奈川・埼玉・千葉・福岡に限られるが、届け先は全国に対応している。24時間365日予約でき、最短1時間で集荷にやってくる早さも売りだ。何故、低価格を実現できるのか? 答えは運送業者の空き時間の活用にある。ハコベルは、専属の運送業者を確保している訳ではない。仕事を請け負うのは一般の運送業者だ。従来の仕事の合間にハコベルの仕事を入れれば、効率よく収入を増やせる。都合が悪ければ断ることも可能で、その場合は別の業者が仕事を請け負う。ハコベルに登録するトラックは、今年1月末時点で1200台に上る。安さの理由はそれだけではない。「物流業界は多重下請け構造。受注した業者から実際にものを運ぶ業者に仕事が下りていく中で、マージンがどんどん抜かれていく」(ラクスルの松本恭攝代表取締役)。ハコベルは、荷主と実際にものを運ぶ業者とを直接結び付ける為、最初から中間マージンをカットした安い価格を設定できるのだ。「市場は荷主の需要過多。一方、供給側の運送業者は未だに電話を多圧する等、ネットワーク化が進んでおらず、どの業者がどのくらい運べるのか、いつトラックが空いているのか、リアルタイムでわからない。ITの力で情報流通の効率性を上げることで、需用過多は解消できる部分がある」(同)。2015年12月のサービス開始以降、右肩上がりで拡大しているというハコベル。市場規模14兆円のトラック物流に大きな風穴を開ける可能性を秘めている。 (取材・文/本誌 鈴木良英)


キャプチャ  2017年3月4日号掲載




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