【Global Economy】(39) 竹森俊平の世界潮流:中韓、急成長のひずみ

韓国・中国の経済が転換点を迎えている。経済のグローバル化を背景に、これまで急成長を続けてきたが、その歪みが大きくなっている。国際経済学者である慶應義塾大学の竹森俊平教授が解説する。

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前回、東京でオリンピックが行われた1964年は、日本の分岐点だった。オリンピックに向けて10%台の成長が始まり、日本経済は飛躍する。ソウルオリンピックは1988年。韓国で10%成長が始まったのは1980年代前半だ。中国の急速な成長開始も、ほぼ同時期にあたる。韓国・中国は、日本に比べると圧縮された期間内に急成長を遂げている。多国籍企業の展開が加速したことが、それを可能にした。新興国は国際的生産ネットワークに参加できたのだ。嘗ての日本のように、国内企業が成長し、先端の技術水準に達するのを待つ必要はない。門戸を開放すれば、先端の技術水準を持った外国の多国籍企業が国内で生産を始め、生産技術を教えてくれる。だが、急激な成長は問題も生む。時間をかけて成長を続けた日本の場合、自然環境の悪化に反公害運動が起こり、都市と地方の格差拡大には是正の為の政策が取られた。だから、日本の自然環境は比較的良好で、今のところ格差問題によって政治が大きく混迷することもない。これに対し、中国や韓国は環境汚染に苦しんでいる。地域的・職種的な所得格差も深刻で、経済成長率が少し下降すると国民の不満が高まる。韓国の政権の安定には、5%成長が目安になる。朴槿恵前大統領の人気急下降の背景には、2%の低成長が続いたことがあった。中国政府にとって成長は更に必須だ。今年の成長率目標“6.5%前後”といった数字に固執する。これは目安ではない。絶対目標だ。下回りそうなら、国は財政・金融政策を動員し、目標の実現を図る。

現在、中国も韓国も転換点に立たされている。経済モデルの歪みが表面化しているのだ。3つの問題が挙げられる。第一は、中国の不用意な景気刺激策の後始末だ。2008年の『リーマンブラザーズ』の破綻に始まる世界的な景気急落に直面して、中国政府は4兆元(※当時の為替レートで約60兆円)の強力な景気刺激策を発動した。インフラ(社会基盤)投資を柱とするもので、この恩恵を世界経済も受けた。だが、実施方法には問題があった。インフラ投資の実行主体は地方政府だ。借り入れ規制がある地方政府は、公営企業を設立し、それを通して国有銀行から借り入れて投資を実行した。元々、採算を考えて行われた投資ではなかったので、軈て地方政府は返済に行き詰まる。中央政府は、地方政府(公営企業)の破綻を避ける為、金融機関に対して追い貸しを強要する。だが、これは問題の先送りでしかない。現在、巨大な不良債権問題が中国の地方政府・公営企業・金融機関に重くのしかかっている。官製の建設ブームで、中国は世界の鉄鋼の半分を生産するまでになったが、それが今や過剰設備の山を生んでいる。第二は、グローバル化の負の側面だ。韓国の『サムスン電子』は、アジアを代表する総合電機企業に成長し、日本の電機メーカー首位の『日立製作所』の5倍ほどの利益を稼ぐ。典型的なグローバル企業で、売り上げの9割は海外で上げる。当然、生産拠点も韓国を離れ、海外比率を高めている。韓国の国民は、自国経済のサムスン依存を認識しているが、同時にサムスンが自国に対し、特に雇用面で十分貢献していないのに不満を抱いている。国内離れを進めるサムスンのような大企業が高収益・高賃金を誇る一方、それを支える周辺の中小企業が成長せず、賃金格差が広がっているのにも不快を感じる。朴前大統領の政治スキャンダルに絡み、サムスン電子の副会長が訴追されたことを喜ぶ国民心理には、そうした背景がある。第三に、アジアでは戦後、ヨーロッパのように政治面の統合は進まず、経済面の連携だけが進んだ。それで済んだ時期もあったが、今や問題が露呈している。アメリカ軍の『最終段階高高度地域防衛(THAAD)』配備に伴い、中国人観光客が来なくなった韓国の窮状は、その象徴だ。対北朝鮮の最新鋭ミサイル防衛システムが自国の攻撃力抑止にも繋がるのを嫌う中国の軍拡思想が、問題の根源にある。

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先月中旬、中国政府は巨大経済圏構想『一帯一路』を巡る初めての国際協力フォーラムを開いた。嘗ての陸と海のシルクロードを繋ぎ、沿線国のインフラ整備や貿易の活性化を目指す計画だ。その為の資金の大部分は、中国の銀行が出すのだろう。採算の当てのない4兆元の投資計画を実施し、地方政府と金融機関に不良債権問題を齎した中国政府に、更に巨大な計画を遂行する能力があるのか? 不採算な投資の実行により、返済不能な債務を抱えることになるのは、今回は中央アジア等の協力国だ。経済面での中国の目的は、投資需要を盛り立て、国内の過剰設備を解消することだ。軍事面が更に問題だ。中国が南シナ海等へ軍事進出を進めている折、「この計画がその延長線上にある」と疑われてもおかしくない。同じく先月、韓国では左派の文在寅大統領が選出された。得票率は40%そこそこと低かった。朴前大統領やサムスンへの批判では一致していても、今後、何を政治に求めるかで国民が割れている証拠だ。加えて、文大統領の率いる政党は少数与党。政策運営に議会の承認がいる韓国の制度の下では、政治主導権の確保は困難だ。北朝鮮との緊張が高まるこの時期、韓国政治が漂流しないことを祈りたい。


竹森俊平(たけもり・しゅんぺい) 経済学者・慶應義塾大学経済学部教授。1956年、東京都生まれ。パリ大学留学(サンケイスカラシップ)。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手やロチェスター大学留学を経て現職。著書に『世界経済危機は終わった』(日本経済新聞出版社)・『欧州統合、ギリシャに死す』(講談社)等。


⦿読売新聞 2017年6月2日付掲載⦿
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