【Deep Insight】(21) 米中の“密約”漂う危うさ

「ここまであからさまに態度を変えるとは」――。思わずこう言いたくなるほど、ドナルド・トランプ大統領の対中姿勢が融和に傾いている。今年1月の大統領就任前は、通商や外交問題で悉く中国の対応を批判していたが、ここにきて目立つのは、習近平国家主席を褒めちぎる発言やツイッター上での呟きだ。「我々の相性は凄くいい。互いに好意を持っている。私は彼のことがとても好きだ。彼の妻も素晴らしい」「彼はとても聡明だ。順応性と呼んでもいい」。先月12日、『ウォールストリートジャーナル』の取材で、習主席をこう持ち上げてみせた。必ずしも外交辞令だとばかりは言えない。公表されていない外国要人との会話でも、習主席を評価しているからだ。トランプ大統領の対中姿勢が大きく変わる転機になったのは、先月6~7日の習主席の訪米だ。フロリダ州の別荘に彼を招き、計7時間に亘って会談した。一体、どんな“密約”が交わされたのか? 米中の関係者らによると、概ね次のようなやり取りが浮かび上がる。習主席はフロリダに、対米貿易黒字を減らす為の行動計画を携えていった。それに先立つ今年3月下旬、中国は実は密かに、アメリカ製品の購入拡大等の計画を並べた即効策を打診したが、アメリカ側から「もっと根本的な解決案を」と突き返されていた。そこで、構造改革を含めた本格的な対策を用意し、訪米の手土産にしようとしたのだ。ところが、中国側の当ては外れた。トランプ大統領の関心は“9割以上”、北朝鮮問題にあったからだ。会談初日。トランプ大統領はシリア攻撃にも触れ、いざとなれば北朝鮮への軍事オプションを排除しない姿勢を滲ませた。かなり激しく圧力をかけたという。「未だ何も(成果を)得られていない。全く何も、だ」。その日の夜、テレビカメラの前でトランプ大統領は、こう吐き捨てた。そうして迎えた2日目。習主席は、中国首脳としては極めて異例の“賭け”に出た。側近に席を外させ、サシの会談を中心に北朝鮮問題を話したのだ。彼が説いたのは、主に2つの点だったという。第一に、中朝の歴史を紐解き、北朝鮮が如何に大国同士の対立を上手く利用し、生き残りを図ってきたかを説明した。米ソ冷戦下の1950年、北朝鮮は中ソの支援を当て込んで、韓国に侵攻した。1960年代に入って中ソが対立を深めると、北朝鮮は双方に近付き、競わせるように援助を引き出そうともした。習主席は、こうした事例を念頭に、「米中がぎくしゃくすれば北朝鮮の思う壷になってしまう」として、大胆な連携を訴えた。

無論、これだけでトランプ大統領が納得する筈がない。そこで第二に、「中国としても北朝鮮の核武装は決して認めない」と強調。6回目の核実験を阻む為、「圧力を強める」と約束した。具体的な制裁案に触れた可能性もある。トランプ大統領が習主席への賛辞を頻りに発信するようになるのは、この後だ。習主席を公然と褒め、約束通りに北朝鮮へ圧力を強めるよう迫っている面もある。だが、フロリダ会談を経て、2人が取引関係によって結ばれようとしていることも事実だ。具体的には、次のような“ディール”が交わされたとみるべきだ。北朝鮮問題で、中国は石油供給の一時停止も含む制裁を検討する。その代わり、アメリカは北朝鮮の崩壊を恐れる中国に配慮し、圧力だけでなく対話のメッセージも送る。これを裏付けるように、レックス・ティラーソン国務長官は今月3日、「北朝鮮に侵攻したり、政権を転覆したりする意図は無い」と表明した。北朝鮮対策で米中が連携を深めることは好ましい。が、トランプ大統領に不安も感じざるを得ない。中国の協力を得る為なら、形振り構わず他の問題での取引に応じる姿勢が窺えるからだ。「中国が北朝鮮問題で我々と連携している時に、何故私が中国を為替操作国と呼ぶことがあるだろうか?」。先月16日のツイッターで彼はこう呟き、「中国を為替操作国に指定する」という選挙中からの公約を棚上げした。台湾問題でも同様だ。「今、習主席が困難に陥るようなことはしたくない」。先月27日、『ロイター通信』にこう語り、北朝鮮問題で中国が尽力しているうちは、台湾の蔡英文総統との2度目の電話会談を手控える意向を示した。トランプ流の交渉術なのかもしれないが、こうした政策は2つの側面で大きなリスクを孕む。短期的には、「対北政策で協力しさえすれば、他の懸案ではトランプ政権が自分たちに譲歩してくれる」と中国側が思いかねないことだ。特に気がかりなのは南シナ海問題である。中国外交筋からは、「最早、アメリカは南シナ海で煩いことは言わない」との声が聞かれる。実際、「中国の人工島付近を航行する作戦をアメリカ軍が実行しようとしたところ、国防総省が3回却下した」との報道もある。中期的には、取引外交は何れ収支が合わなくなり、行き詰まる恐れがある。中国は結局、アメリカが期待するほどには北朝鮮を追い詰めず、トランプ大統領が不満を爆発させる。南シナ海では新たな危機が起きる。来年秋の中間選挙が近付けば、トランプ大統領は通商問題で中国に手心を加え難くなる――。ちょっと考えただけでも、様々な破綻のシナリオが浮かぶ。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年5月17日付掲載⦿
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