【JR・栄光と苦悩の30年】(08) 「JR東海は私鉄とは違う。“国家の鉄道”を背負い続ける」――葛西敬之氏(『JR東海』代表取締役名誉会長)インタビュー

1987年3月31日、『日本国有鉄道(国鉄)』は崩壊した。経営に反旗を翻した若手改革派は何を目指したのか? JRの将来図をどう描いたのか? 当時の状況を知る関係者たちの証言を基に、国鉄改革を総括する。

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――葛西さんは“国鉄改革三銃士”の1人。40代半ばの若さで、国鉄経営陣に反旗を翻して、改革の必要性を訴えたのは何故ですか?
「一言で言えば、政治がだらしなかったからです。国鉄の最後の経営改善計画(※1981~1985年度)を見た途端に、『絶対に失敗する』と確信した。『国会が経営の重要事項を決めている限り、転落の一途を辿る』と思いました。国鉄末期は、経営vs労組という対立軸が崩れた時期でもあります。それまでは、経営側は自由主義陣営、労組側は社会主義陣営と、対立軸がはっきりしていた。ところが、国鉄の経営が行き詰まり、労組も本音では社会主義の限界を感じるようになると、経営と労組がなれ合うようになった。経営が自民党を動かし、労組が社会党を動かし、両者共に『国鉄を現状維持で守っていこう』という気持ちが強くなっていった。国鉄は潰れそうなのに、運賃・賃金・設備投資といった必要な施策を取るには国会の承認がいる。でも、経営と労組に焚き付けられた政治は、事を荒立てないように妥協する。結果、膨大な借金が積み上がりました」

――国鉄を“分割・民営化”する発想は、どうして生まれたのですか?
「“分割化”は、『地域毎の需要・物価に合うように、地域毎の運賃・賃金を決めるべき』という考え方です。全国一律の運賃・賃金では限界がありました。“民営化”は、政治介入を排除して、自律的な意思決定をできるようにする意図がありました」

――分割民営化から30年。JR7社の中で経営体力の格差が広がりました。本州3社は想定以上に稼ぐ会社になりましたよね。
「制度設計した時に比べると、全てが良いほうへ進みました。でも、3社の役割分担・使命は全く違います。JR東日本は、強力な首都圏の鉄道網と関連事業で稼ぐことで、東北のローカル線を維持する会社です。これは、鉄道会社の典型的なビジネスモデル。JR東海は、国鉄時代の借金を多く引き継いで、東海道新幹線の収益で借金を返す会社です。丁度、その中間にある(※不採算路線の維持と借金返済の使命を併せ持つ)のがJR西日本。三者三様に、経営の基本設計が異なります」

――その一方で、『JR北海道』や『JR四国』は厳しい状況にあります。30年前の枠組みでは、もうやっていけないのではないでしょうか?
「あらゆる制度設計なんて、30年も持ちやしないんです。でも、当時の設計で、本州3社とJR九州は上場して完全民営化を果たした。厳しい会社に対しても、やるべきことはやったのかどうかの点検が必要です」

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――JRは社会インフラ企業なので、ユニバーサルサービスを提供する責務を負っています。こうした国益を大事にする一方で、民間企業として利益も追求しなければならない。国益と企業利益の両方について、常に考えなければならないですよね。
「それを一番強く思っているのがJR東海ですね。JR東海は私鉄とは違う。『鉄道を敷いて、あとは鉄道以外の沿線の不動産で儲ければいい』という訳にはいかないんです。“国家の鉄道”を背負いながら、経営手法は民間企業のように自律的な意思決定で経営する。そんなユニークな会社なのです。今や、東海道新幹線が生み出すキャッシュフローは年間5000億円。日本の大動脈で稼いだお金を何に使うかと言われれば、やはり新幹線の顧客に還元するべき。だから、東海道新幹線の将来の旅客の為にリニア中央新幹線を建設するのです」

――リニア建設に財政投融資を使うのは、国鉄時代の教訓(※財投による金利支払いで借金が膨らんだ)が生きていないのでは?
「それは違います。財政支出ではありませんから。リニア事業に政治介入が無いところも決定的に違います。寧ろ、政府が要望してきた話です。我々には、東海道新幹線というお財布があって必ず返済できるので、政府にとってこんなに有利な融資先なんてないですから。でも、『口出しはしないで』と強く言っています」

――日本の人口は減っていきますが、それでも東京-大阪のバイパス(※新幹線やリニア)は必要なのでしょうか?
「いるんじゃない? 人口は本当に減るのかい? 移民が増えることで、ヨーロッパだってアメリカだって増えている。日本人が増えなくても、日本にやって来る人は増えます」

――葛西さんは、27年に亘って代表権を持つ実質的な経営者です。後進に道を譲ることはないのですか?
「僕にしかできない仕事があるし、ある間はやるしかない。鉄道経営や関連事業は、経営者がどんどん変わってもできる仕事です。でも、リニア中央新幹線の話や海外の話は、人が代わると話が止まっちゃうからね」

――JR東海にも、そうした大局観を持った経営層はいるのでは?
「民営化を知っている世代と知らない世代。つまり、霞が関型に育った人間と民間企業で育った人間は違うんですよ。僕はこれまで、国鉄時代に日本帝国の官僚として身に付けた素養を経営に応用してきた。国会対応や他の官庁のことを俯瞰的に見る“横軸型”の人間です。今のJR東海で育ってきたのは、1つの事業を深掘りする“縦軸型”の人間。将来的に鉄道がどうなるのか? JR東海が日本経済・世界経済の座標軸のどの位置に身を置くべきなのか? 外から俯瞰する能力が必要な時です。私は、横軸型の人間は外から移入するしかないと思う。例えば、経済産業省・財務省・警察庁等の人間を採用することで、横軸と縦軸の最適解を作っていけるかもしれない」


キャプチャ  2017年3月25日号掲載




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