【Korea Risk】(01) 左派政権を待つ韓国の根深き問題

20170607 04
特異にして異例の大統領選挙――。韓国の朴槿恵前大統領の罷免に伴い、急遽実施が決まった今回の大統領選は、そう形容することができる。本稿作成時点で当選がほぼ確実とみられるのは、最大野党『共に民主党』の前代表で、長らく左派として鳴らしてきた文在寅。その支持率は、先週後半の世論調査で、2番手に位置する中道左派系『国民の党』の元共同代表・安哲秀に約20ポイントの差をつけている。朴のスキャンダルに怒る保守派有権者が、それでも革新派の文を嫌って別の選択肢を求める中、安は支持率で文に迫った時期もあった。だが、先週行われた大統領選主要候補5人によるテレビ討論会で見せた失態で、支持率は急落。穏健派保守層の離反を招いた。文が勝利すれば、保守派大統領が2人続けて政権を率いた韓国は、大転換を迎える。韓国国会では中道左派が過半数の議席を占めており、文はリベラルな政治を推し進めることができるだろう。但し、社会主義や左派路線に踏み込むことは不可能だ。文の得票率は40%程度に留まる見込みで、急進的な姿勢を剥き出しにはできない。それでも、党内左派の社会主義的主張を抑え込みつつ、国民の党と協働できれば、文は安定した中道左派連立政権を実現し、各種の法案を成立させられる筈だ。こうした状態は、大統領の出身政党と議会多数派が同一である“統一政府”とは異なるものの、それにかなり近いあり方と言える。韓国では、保守派は頻繁に統一政府を形成してきたが、左派が実現できた例は過去に無い。

北朝鮮情勢は国際社会を揺るがしているが、韓国大統領選の大きな争点にはなっていない。それも当然だろう。在韓アメリカ軍の『高高度防衛ミサイル(THAAD)』配備・生活の質の低下・大気汚染・汚職・財閥改革等、他に多くの難問が存在するのだから。THAAD問題が再浮上したのは、ドナルド・トランプの先日の発言がきっかけだ。当初の合意に反して、「配備費用10億ドルは韓国が支払うべきだ」とトランプは主張。朴政権時代に結ばれた合意によれば、配備費用はアメリカ側が負担する取り決めだが、これは韓国世論のTHAAD配備容認を意図した妥協の産物だった。文はTHAAD配備に否定的だったが、大統領選中は表立って反対を唱えることはなく、問題は“休眠状態”だった。しかし、トランプの発言で、韓国国内では反発の動きが出ている。THAAD問題の復活と韓国が抱く不快感によって、東アジアの秩序には再び暗雲が漂い始めた。韓国が又もアメリカ(及び日本)と対立し、「THAAD配備は不要だ」という中国の批判が“正当化”される。文の大統領就任は、こうした事態が起こる可能性を高め、米韓同盟は緊張の時代を迎えるだろう。意外な話だが、今回の韓国大統領選ではスモッグ被害が重大な争点になっている。ソウルの空気は今や北京並みに悪化し、多国籍企業や欧米の大使館がソウルへの駐在員の確保に苦労するほどだ。大気汚染の主な原因は、旧態依然とした中国北東部の工場の媒煙や、ゴビ砂漠から飛来する黄砂。だが、問題に拍車を掛けているのが、韓国で続く石炭火力発電所の建設だ。大気汚染のあまりの酷さに、文は現在建設中の石炭火力発電所の見直しを公約に掲げている。とはいえ、THAAD配備やスモッグ被害は、他の問題と比べれば未だ対処し易い。次期大統領の行く手には、韓国の文化と社会の根本に関わるが故に、遥かに解決が困難な課題が待ち受けている。韓国では2年ほど前から、暮らし難さを地獄に例える“へル朝鮮”という造語が流行している。とりわけ若年層が痛感する社会の閉塞感は、政治問題にまでなるありさまだ。韓国の若者にとって、社会の現状は絶望的だ。過酷な受験戦争を勝ち抜く為に、子供時代から学習塾や予備校で猛勉強し、首尾よく有名大学に入学できても、卒業後は残業や休日出勤だらけの会社勤めの生活に追われる。その一方で物価は高く、年収に対する借金の割合は平均170%に上る。これでは晩婚化や少子化が進み、外国で働くことを望む国民が増えるのも不思議ではない。文は、こうした社会問題に取り組む姿勢を見せてはいるが、その発言は曖昧なものに終始している。踏み込み過ぎれば、社会の根底そのものを揺るがすことになりかねないからだ。韓国社会における学歴重視は、長い儒教の歴史や階層的社会の在り方に基づくもの。学習塾での厳しい指導も、教育を重視する儒教の教えを反映している。過去にも多くの政治家が改善に乗り出してきたが、これという対策は見い出せない。

20170607 05
大統領選の最大の争点は恐らく、汚職だ。世界の汚職を監視する非政府団体『トランスペアレンシーインターナショナル』の腐敗度ランキングで、韓国は176ヵ国中52位と低迷(※腐敗度が低い順、日本は20位)。大統領さえ汚職疑惑で罷免される中、法律による取り締まりは極度に厳格化され、大学教員である筆者の場合、学生からジュース1本すら受け取ることができない。韓国で汚職が蔓延っていることは、何十年も前からよく知られている。本当の意味で解決に取り組むには、“政”と“財”を切り離すことが不可欠だろう。韓国の成長モデルは国家の指導に基づく形を取るが、反汚職意識の高まりで、経済における国家の役割は大きく変化せざるを得ないのではないか? “へル朝鮮”問題と同様、社会構造や文化的制約のせいで、汚職についてもできることは限られている。国家主導型経済が続くうちは、政治家と企業家が話し合って大規模事業を調整する現状も続く。となれば、カネと便宜を引き換えにする誘惑と縁は切れない。要するに、この国の汚職は個人的問題でなく、贈収賄防止法の厳格化によって根絶することは不可能だ。文が不正監視を目的に任命するとみられるオンブズマンは、問題解決にある程度貢献する可能性がある。とはいえ、経済における国家の役割を縮小させない限り、大きな効果は期待できないだろう。汚職問題とも関わるのが、大統領選のもう1つの大きな争点である財閥改革だ。韓国の財閥は、その規模と影響力の大きさで、規制当局をも沈黙させることができる。こうした事実もまた、汚職拡大の一因になってきた。『サムスン電子』副会長の李在鎔が、朴への贈賄容疑で逮捕されたのがいい例だ。『国際通貨基金(IMF)』等は数十年前から、「競争力向上や寡占解消に向けて財閥を解体する必要がある」と主張してきた。文も同じ意見の持ち主らしく、中小企業に好意的な発言をしている。

但し、変化が実現する見込みは薄い。2003~2008年に革新派政権を率いた盧武鉉も財閥改革に取り組んだが、失敗した。韓国の急速な経済成長に貢献した財閥に対して、国民の中には一定の評価を与える声もある。財閥側もメディア部門の影響力を駆使して、改革要求を抑え込んできた。朴の罷免に絡む財閥トップの汚職への反発は、文の取り組みを後押しするかもしれないが、改革失敗の歴史はあまりに長い。外交政策に目を転じれば、文の対日政策に日本や欧米の観測筋は強い懸念を抱いている。共に民主党は、韓国が2015年に日本と結んだ慰安婦問題合意に反対し、ソウルの日本大使館前や釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像を撤去しないことを支持。昨年11月、日本と締結した『秘密情報保護協定(GSOMIA)』にも反発を示した。文に投票する有権者は、こうした姿勢を支持していると考えられる。こうした外交政策を就任後に口にすれば、対日のみならず対米関係がぎくしゃくするリスクはある。ただ、そうした政策を実際に実行できるかとなると、それは別の問題だ。その為、日本のアナリストらが懸念するほど左寄りに蛇を切る余地はない。その理由は3つある。第一に、文の得票率が40%ほどに過ぎない見込みであることを考えれば、韓国の有権者の圧倒的多数が対日強硬姿勢を支持しているとは言い難い。第二に、対日関係は朴政権時代、アメリカ大統領が介入を迫られるレベルにまで悪化した。情報機関改革・気候変動・北朝鮮問題等、数々の課題を抱えることになる文が、本質的に膠着状態にある対日関係に政権の足を取られるつもりでいるとは思えない。第三に、文は政治的思惑の下で日本との合意や協定を攻撃するだろうが、破棄に踏み切ることはないだろう。尤も、慰安婦像を撤去することはなさそうだ。それに対して日本側がどう反応するか、その点は読み切れない。対北朝鮮政策も、思ったほど左傾化はしないと考えられる。文は、1998年に開始された対北融和路線の“太陽政策”の立役者の1人。だが、盧政権末期の2007年には、「太陽政策は失敗だった」との認識が一般的になった。北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、犯罪行為や挑発行動を繰り返してきた。2010年には、北朝鮮によるとみられる魚雷攻撃で韓国海軍の艦艇が沈没。今年2月にはマレーシアで、大量破壊兵器に分類されるVXガスを用いた金正男暗殺事件も起きた。北朝鮮は国際的に厳しい制裁を科され、世界全体に対する脅威と見做されている。制裁や北朝鮮の孤立化を支持してきたアメリカ、及び国際社会の意向を押し切って第2の太陽政策を実施すれば、文は同盟国のみならず、国内の保守層からも猛攻撃を受けるだろう。韓国にとって、今回の大統領選は大きな分岐点だ。社会問題・汚職・大気汚染がこれまでになく重要な争点になり、約10年ぶりに誕生する筈の革新派政権が、議会と力を合わせて変革を推し進めることが期待される。国内ではリベラル、対外的には慎重路線――それが“文在寅政権”の政治スタイルになりそうだ。 (本誌コラムニスト・釜山大学准教授 ロバート・E・ケリー)


キャプチャ  2017年5月16日号掲載




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