【動くかトランプ税制】(下) 減税“富裕層を優遇”

20170608 07
ドナルド・トランプ政権の個人税制改革は、具体像を欠いたままだ。所得税の最高税率引き下げ等を掲げるが、「中間層を大胆に減税する」という公約は果たせそうにない。予算教書では低所得者向けの給付カットも打ち出し、野党の民主党は「富裕層優遇だ」(下院のナンシー・ペロシ院内総務)と批判を強める。与野党対立で、個人減税の実現そのものを危ぶむ声もある。現段階で政権が公表した個人減税案は、①最高税率を39.6%から35%に下げ、税率も10%・25%・35%の3段階に簡素化②基礎控除を倍増③相続税を廃止――等僅かに留まる。トランプ氏は、ラストベルト(赤錆地帯)と呼ばれる中西部の労働者の熱烈な支持を受けて、大統領選を勝ち上がった。労働者層は2008年の金融危機以降、収入が伸びず、格差拡大に不満を強めていた。トランプ氏は、「減税で労働者層を底上げする」と公約した。だが、実は低中所得層の減税余地は乏しく、公約は空手形となりかねない。内国歳入庁の調査では、アメリカでは所得税収全体の8割を年間所得10万ドル以上の個人が負担している。所得10万ドル以上の個人は納税者全体の2割に満たず、残り8割強の納税者は所得税全体の2割しか負担していない。低中所得層を減税しようすれば、この2割を圧縮するしかないが、元々税負担は少なく、大規模な減税は困難だ。

トランプ氏が選挙中に公約した個人所得減税は、10年で3.3兆ドル規模と試算される。最高税率の引き下げ等はそのまま富裕層減税となり、アメリカの調査機関によると、減税の8割は所得上位2割の層に向けられるという。「最も弱い市民に対する残酷な攻撃だ」。大統領選で敗れた民主党のヒラリー・クリントン元国務長官は先月末、トランプ政権の予算案を厳しく批判した。先月23日に議会に提出した予算教書は、低所得者向けの医療保険や生活保護等を10年で1兆ドル規模でカットする内容となった。昨年11月の大統領選では、年収20万ドル超の高所得層は、クリントン氏よりもトランプ氏に多くの票を投じている。富裕層ネットワークが支える保守強硬派『フリーダムコーカス(自由議連)』も、議会で影響力を強める。トランプ政権の改革は、富裕層減税と低所得層の給付カットによる“小さな政府”路線へと一気に傾きつつある。富裕層中心の所得減税に民主党は激しく反発し、財源の裏付けの無い税制改革には、自由議連を中心に共和党内に異論が残る。政権は「税制改革は年内に実現する」(スティーブン・ムニューシン財務長官)と意気込むが、議会はトランプ大統領周辺の“ロシアゲート疑惑”で混乱しており、「税制審議は越年する」との観測が強まってきた。議会は“税収中立”を求めており、10年で4兆~5兆ドルとされた減税規模も、「1兆ドルに留まる」(『ゴールドマンサックス』)との見方が浮上している。バラク・オバマ前政権も提唱した法人減税は、与野党で妥協の余地があるが、個人減税は「実現そのものが先送りになる」との観測がある。アメリカは、所得格差が第2次世界大戦時並みに広がり、社会不安の温床だ。低所得層には教育投資が十分に行き渡らず、「人材の質が低下して、中長期的に産業競争力を損なう」との懸念もある。トランプ政権の個人税改革は、議会とホワイトハウスに“国のかたち”を問うことになる。

               ◇

ワシントン支局 河浪武史が担当しました。


⦿日本経済新聞 2017年6月3日付掲載⦿
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