【Deep Insight】(22) 日本が投資大国になるには

『エラーメッセージ』――。今月8日付の『フィナンシャルタイムズ』に、こんな見出しがある。アメリカの投資家であるウォーレン・バフェット氏が、株主総会で「Amazon.comに投資しなかったのは失敗だった」と語ったニュースだ。予期せぬ状態に陥ると、パソコン上に出るエラーメッセージ。有力投資家の失敗の告白をそれと掛けている。同氏が率いる投資会社『バークシャーハザウェイ』の『IBM』株売却がわかった後でもあった。IBMは、投資家が最も重視する自己資本利益率(ROE=純利益を投資家が株式に投じた資金で割った値)が74%あるが、Amazonや『Google』に押され、減収が続く。AmazonのROEは14%だが、利益を再投資して更なる高みを目指す。「後者のほうがリターンを生む」と確信したのだろう。バークシャーはIBMの筆頭株主だが、僅かな変調を見逃さない迅速な投資判断の見直しは、高収益企業の株を選り取り見取りで売買できるアメリカ市場だからこそ可能とも言える。日本はどうか? 世界の投資家との対話では、8%以上のROEを最低線に、より高い水準を目指す――。企業統治改革を成長戦略の柱の1つと考える安倍政権は、2014年にそんな方針を打ち出した。今年3月期の上場企業のROEは8~9%(※金融除く)と、目標はクリアしたようだ。但し、アメリカ企業の平均は12~15%(※3月末まで12ヵ月間)。『野村証券』の西山賢吾氏は、「株持ち合いの岩盤部分が動かない一方、財団を作り、安定株主対策を進める企業も多い」と話す。ROEには頭打ち感もある。『サンゲツ』等に投資する運用会社『みさき投資』(東京都港区)の中神康議社長も、「分布を見れば、上場企業の半数はROEが0~7%に集中し、改善余地がある」と語る。日本に上場企業は3674社あるが、ROEがアメリカ平均を超すのはほんの一握りに過ぎない。「日本にバフェット氏のような投資家は誕生するだろうか?」。こう話す中神氏は、現在執筆中の著書で、企業全体に広く訴える“ポピュレーションアプローチ”という手法を提言するという。ROEを基準に上場企業の分布図を作ると、ラクダのコブに似た形になる。それを①マイナス②0~7%(※日本の平均未満)③7~13%(※アメリカ平均未満)④アメリカ平均以上――に4区分し、集団の特性に応じた改善策を企業と投資家で探す。「②の集団が③の水準に近付けば、③は④に、④は更に上を目指す循環ができる」と指摘する。

実はこの手法、生活習慣病対策がヒントという。数年前から事例集『やってみよう!ポピュレーションアプローチ』を自治体等に配る『日本看護協会』は、健康診断等の結果を踏まえ、“不適切な生活習慣”から“要介護状態”まで対象者を5段階に分け、対策を講じることを勧める。早期に注意を促したら、脳疾患や糖尿病にならずに「健康寿命の底上げに繋がる」(中板育美常任理事)という。医療と株式市場は、実は共通点が多い。企業価値と資本効率の向上は年金の運用や税収の拡大を後押しし、国富の維持・形成に資する。社会保障費の抑制も、国富には不可欠な要素だ。医療では、“健診を受ければ商品券が貰える”といった奨励策を導入している自治体も多い。中神氏は、「例えば、“ROEを伸ばしたら法人税を割り引く”等の手法も検討しては?」と話す。『スパークスグループ』の阿部修平社長も、全体の底上げを訴える1人だ。中神氏の理論に沿えば、②と③で活発に企業と対話をする。②の代表は、消防用ホースで高いシェアを握る『帝国繊維』。6%のROEは「2ケタ台も可能」と見るが、経営陣が株の持ち合い解消に消極的という。この為、自己資本の半分を占める持ち合い株の売却益還元を求めて記者会見を開き、長期の構えで対話を始めた。一方、③の代表は『森永製菓』だ。経営者と対話しながら運用成果を上げるファンドに組み入れた。ROEは13%に改善し、現在は経営陣とブランド戦略を話し合う。米欧の老舗メーカーと森永のチョコレートは、品質が同じでもグラムあたりの単価は10倍の差があり、ROEでも負けている。「“アメリカ並みにあと一歩”から完全に抜け出すには、高く売る技術を身に付けないといけない」と阿部氏。では、“アメリカ平均以上”のROEを既に持つ企業はどうだろう? 勿論、相応の課題はある。例えば、効率経営と技術開発で先頭にいた『トヨタ自動車』は、2018年3月期決算で2期連続の減収減益になり、ROEも14%から11%に下げる見通し。「為替やアメリカ市場の停滞が背景」と言うが、経営モデルが成熟期を迎えた予兆は本当に無いのか? トヨタは今期、4年連続で研究開発に1兆円を投じる計画だ。但し、投資する対象は燃費や安全等従来型技術が多く、次世代の自動運転、“つながる車”に不可欠な人工知能(AI)やクラウド技術への投資は、同じく1兆円の研究開発費を見込むGoogleやAmazon等のアメリカ企業のほうが大きい。『野村総合研究所』の谷川史郎理事長は、「日本の基幹産業は、車を筆頭に、アメリカのIT産業の攻勢に曝される瀬戸際にある」とみる。車産業の伸びしろがIT側に転じる可能性が高いとしたら、トヨタの2期連続減収は“Amazonに侵食されるIBM”の二の舞を演じる兆候かもしれない。アメリカ株式市場のダイナミズムを遠巻きに眺めるのではなく、我が身の問題として先手を打つ経営が欠かせない時代だ。上位につける企業ほど問われる課題である。 (本社コメンテーター 中山淳史)


⦿日本経済新聞 2017年5月19日付掲載⦿
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