【中外時評】 米欧同盟、綻びのリスク

先頃、世を去ったアメリカの元大統領補佐官であるズビグネフ・ブレジンスキー氏は、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官らと共にアメリカ外交界の重鎮と言われた。ソビエト連邦の崩壊を経て、アメリカが唯一の超大国と持て囃された1990年代後半、「覇権を維持していく為に、民主主義やアメリカの文化が持つ魅力が重要だ」と説いた。国際政治学者のジョセフ・ナイ氏が言う“ソフトパワー”に通じる考え方だ。軍事力や経済力という“ハードパワー”に加え、価値観や理念が持つ魅力や説得力というソフトパワーの存在が、アメリカの指導的立場を裏打ちしてきた。アメリカと並ぶ大国の座を目指す中国に決定的に欠けている点でもある。ドナルド・トランプ大統領は今、このアメリカの貴重な強みを損なう行動を繰り返し、世界を唖然とさせている。地球温暖化対策の『パリ協定』からの離脱表明も、グローバルな課題で先頭に立つリーダーシップという求心力への打撃が必至だ。先月のヨーロッパ訪問では、自国優先を前面に出してドイツの貿易黒字を批判し、地球温暖化対策に加え、難民問題でもヨーロッパ側の期待を裏切った。アンゲラ・メルケル首相がアメリカを念頭に、「他の国を頼れる時代は終わった」と嘆いてみせたのも無理のないところだ。米欧間では、2003年のイラク戦争を巡って独仏とアメリカが対立したが、今の冷ややかさはそれ以来のものだろう。米欧同盟が揺らげば、どんなリスクがあるのか? 地政学的構図も踏まえ、考えてみたい。ブレジンスキー氏は、この点でも興味深い分析をしている。20年前の著書で、ユーラシア大陸を“世界の覇権をめぐる戦いが繰り広げられるチェス盤”とした上で、ロシアとヨーロッパの間に位置するウクライナの重要性を指摘した。若し、ロシアがソ連崩壊に伴い独立したウクライナへの支配を取り戻せば、「ヨーロッパからアジアにわたる大帝国になる手段を回復する」とまで書いた(※『ブレジンスキーの世界はこう動く』・日本経済新聞社)。

時を経て、ロシアは動いた。2014年、ウクライナ領のクリミア半島を編入し、同国東部で独立を求める親ロシア派を支援し、軍事介入した。反発した米欧は経済制裁を発動中だ。ロシアの意図は、帝国主義的な拡張というより、旧ソ連圏での影響力の維持と、『北大西洋条約機構(NATO)』や『ヨーロッパ連合(EU)』を拡大し続ける米欧への対抗だろう。力で現状を変更し、国際秩序を乱すロシアに、周辺国は不安を募らせる。ポーランドのヴィトルド・ワシチコフスキ外務大臣は先月、『日本記者クラブ』での会見で「世界の安定への脅威だ」とロシアを批判し、ヨーロッパの防衛体制強化を訴えた。NATOは昨年の首脳会議で、ポーランドとバルト3国に新たな部隊展開を決める等、ロシアの脅威を睨み、加盟国の防衛強化に動いた。だが先月、ブリュッセルで開いた首脳会議では、初参加のトランプ大統領がNATOの集団防衛への決意を明言せず、ヨーロッパ側を失望させたと伝えられる。トランプ大統領は各国に“公平な防衛負担”を迫ったが、ヨーロッパ側が期待したのは、それに先立つ大枠としてのコミットメントだったからだ。NATOとEU拡大の先にどんな関係を結ぶかを米欧側が描けていないことが、ロシアを巡る確執が解けない要因になっている。そんな中で米欧同盟の箍が緩めば、対露関係は一段と不安定になる。影響は中国への対応にも及びかねない。バラク・オバマ前大統領の補佐官だったスーザン・ライス氏は、『ニューヨークタイムズ』への寄稿で、中国が南シナ海でアメリカの航行の自由やアジアの同盟国に脅威を与える行動を取った場合、ヨーロッパの同盟国は「アメリカ第一でNATOへの関与確約を拒む大統領の横に立ってくれるだろうか?」と問いかけた。中露との向き合い方は、極めて複雑で高度な政治課題だ。米欧と日米という2つの同盟が其々でなく、呼吸を合わせて取り組むことも欠かせない。日米欧が緊密に連携することが、第2次世界大戦後に築いてきた自由で民主的な国際秩序を守ることに繋がる。日本はアメリカとの親密な首脳外交を誇るのであれば、この点で推進役を果たす大局的な外交に生かすべきだ。 (上級論説委員 刀祢館久雄)


⦿日本経済新聞 2017年6月8日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR