【東京五輪後の地方経済を読み解く】(03) 衝撃的な九州の地銀再編…『十八銀行』の専務は何故自殺したのか?

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長崎県トップの地方銀行である『十八銀行』の森甲成専務(※当時)が、自宅マンションから飛び降りて亡くなった――。2016年11月末、この一報が金融業界を揺るがした。森前専務は、総資産額が日本第2位の地銀グループである『ふくおかフィナンシャルグループ』(※以下“FFG”)と十八銀行の経営統合の中心人物だったが、「統合が遅れて心労が重なったのが原因で自殺したのではないか?」との憶測が飛び交っている。関係者からは“次期頭取”と目された人物だけに、突然の不可解な死が謎を一層深めている。森前専務の死の謎に迫るべく、時計の針を巻き戻そう。1990年代以降、各銀行はバブル期に膨らんだ不良債権処理に追われた。銀行の監督官庁である金融庁は、潰れない銀行を作る為、自己資本比率や不良債権比率といった銀行の健全性を重視し、保守的な姿勢が強かった。ところが、2015年7月に金融庁長官となった森信親氏は、この方針を大きく転換。嘗て、銀行に不良債権処理を厳しく迫り、“金融処分庁”と揶揄されていた状況を、取引先企業を成長させるよう銀行を後押しする“金融育成庁”に転換することを明言したのだ。更に、2016年10月の『日本記者クラブ』の会見でも、「手数料稼ぎを目的とした顧客不在の姿勢ではダメ」と地銀にハッパをかけた。銀行と企業の考えには依然としてギャップがあり、「『事業の中身や成長性を見ようとしていない』との不満が企業から寄せられている」と森長官は訴えた。金融庁による銀行改革の先には、“地方創生”の考え方がある。「地元に密着して顧客をよく理解し、関係を築いている銀行は、安定した経営を実現している」という言葉からも、森長官が求める地銀像が窺える。つまり、地銀再編は現在の金融庁の使命であり、悲願とも言えるのだ。

そうした中、金融業界に明るい人たちは、「九州が地銀再編の魁となるだろう」と口を揃える。そんな九州で最も素早く経営統合を仕掛けていったのが、九州トップの『福岡銀行』率いるFFGだった。2006年12月に福岡銀行と『熊本ファミリー銀行』(※2013年4月に『熊本銀行』に改称)の経営統合が決まり、2007年4月に持ち株会社を設立。同年10月には、長崎県ナンバー2で、長らく十八銀行と凌ぎを削っていた『親和銀行』を『九州親和ホールデイングス』から買収し、傘下に加えた。これを機に、九州で地銀再編が加速化。FFGに対抗する為、今まで競い合っていた『肥後銀行』と『鹿児島銀行』が経営統合し、2015年10月に『九州フィナンシャルグループ』が誕生。積年のライバルだった九州2位の『西日本シティ銀行』に肩を並べる地位に浮上し、世間を驚かせたのは記憶に新しい。この動きを見て、福岡で福岡銀行とシェア争いをしてきた西日本シティ銀行は、2014年に『長崎銀行』を完全子会社化していたが、2016年10月に『西日本フィナンシャルホールディングス』を設立したのだ。銀行の規模を示す総資産額を見ても、FFGは約17.5兆円と圧倒的で、西日本FHと九州FGは約9.3兆円で拮抗。FFGは全国地銀でもトップだったが、2016年9月期に『横浜銀行』率いる『コンコルディアフィナンシャルグループ』が18.4兆円になり、1位の座を奪われた。こうして、九州の地銀再編は、FFG・西日本FH・九州FGの3つの勢力に集約された。特に福岡・長崎・熊本を主戦場に、県境を跨いでシェア争いを繰り広げている。そうなると次に注目されるのが、未だどの傘下にも入っていない地銀の去就。その筆頭が十八銀行だったのだ。森前専務の死の謎を解くには先ず、この基本的な構図を頭に入れておく必要がある。地方銀行のクーデター劇を描いた『実録 頭取交替』(講談社)の著者で、九州地銀の動向に詳しい浜崎裕治氏は、「長崎県という小さなパイで、親和銀行と十八銀行が熾烈なシェア争いを繰り広げ、体力を削り合う消耗戦となっていた」と語る。親和銀行はバブル崩壊以降、多くの銀行がそうだったように、不良債権処理が足枷となり、単独では将来的な事業継続が困難な状況に陥っていた。その為、FFGの傘下に加わり、以降は急速に業績を回復して、十八銀行に迫る勢いになった。消耗戦が続く中、十八銀行も「単独では生き残れない」と感じたのだろう。経営統合先を探した。浜崎氏によれば、「最初は九州FGと交渉していたが、結果的には『株価が肥後銀行や鹿児島銀行に比べて低い』等の理由で、破談になったらしい」という。破談の真相は定かではないが、2016年3月2日付の日本経済新聞によれば、以前からこの3行は『つばさ会』という実務レベルの勉強会を10年以上続けていた。持ち株会社の社名案として『九州つばさFG』を商標登録していたほどで、九州FGにとって基盤拡大は十八銀行との合流が大前提だった。だが、それでは長崎のシェア争いは止むことがない。そんな中、十八銀行は破談の失意で、身の振り方で苦悩していたとされる。

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そこで、「FFG取締役で熊本銀行副頭取の櫻井文夫氏が動いたのではないか?」と浜崎氏は見る。経歴を見ると、1954年生まれで九州大学経済学部卒。実は、十八銀行の森拓二郎頭取も同じ学部の卒業生で1955年生まれだから、櫻井氏の1つ後輩にあたる。しかも、森前専務も1957年生まれの九大法学部卒。九大の系譜で経営統合の話が進んでいった可能性もある。何れにせよ、3大勢力が鼎立する中、2016年2月26日、FFGと十八銀行が急遽、記者会見を開き、「2017年4月を目途に、十八銀行がFFGの完全子会社になる形で経営統合する」という衝撃的な発表をした。結局、「十八銀行の頭取が潔く白旗を上げる決断をした」(金融関係者)のだ。2016年12月の臨時株主総会で経営統合を決議するつもりだったが、ここで問題が生じた。十八銀行と親和銀行が合併となれば、貸出残高で県内シェアが約65%を超える可能性があり、独占禁止法に抵触するのだ。当然、『公正取引委員会』の審査が必要になる。だが、審査が延びており、結局は臨時株主総会を開けなかった。「こんな統合を認めたら、公取委の存在意義が無くなってしまう。それほど県内の独占率が高いということ。時間はかかっても公取委は統合を認めるかもしれないが、その際には十八銀行の店舗を長崎銀行に譲渡する等、かなりのリストラ策を条件に出してくるだろう」(浜崎氏)。こうした背景もあり、2016年12月7日付の西日本新聞は、統合が2017年10月まで半年間ずれ込む可能性を報じた。FFGは即座に否定したが、何れにせよ、統合のカギは公取委が握っているのだ。「森前専務は、その調整の心労が祟ったのではないか?」というのが一般的な見方だが、審査が厳しいことは織り込み済みの筈。

これが直接死に繋がったのか?――そんな思考を巡らせていると、浜崎氏は「実は公取委だけでなく、日本銀行や金融庁まで敵に回してしまったことが、森前専務の心を押し潰したのではないか」と語りかけてきた。一体、どういうことか? 「その問題を紐解くには、60年前まで歴史を遡る必要がある」と浜崎氏は語る。凡そ60年前、石炭から石油へエネルギーチェンジが起こった時代、FFGの母体である福岡銀行は石炭に投資していた為、多額の不良債権を抱えた。「そこで、日本銀行から頭取が送り込まれ、以来50年以上、日銀出身の頭取がずっとトップを務めてきた」(同)。その後、最後の日銀出身の寺本清頭取が交代するのに伴い、2005年に久方ぶりのプロパー頭取が誕生した。FFG構築の立役者にもなった谷正明氏(現在の福岡銀行会長)だ。FFGを日本一の総資産を誇るグループに押し上げ、自身は九州の地銀からは初となる『全国地方銀行協会』会長の座を射止めた。その後を継ぎ、同じくプロパーの柴戸隆成氏が2014年に頭取に就いて、今に至る。一方の十八銀行も、60年前から大蔵省(※現在の金融庁)出身の頭取が続いていた。第7代頭取に、旧大蔵省出身で北九州財務局長を歴任した清島省三氏が就任。在任期間は1956年3月~1983年10月と27年7ヵ月の長期政権で、最後が第10代の藤原和人氏。その後を2007年に継いだのが、プロパーの宮脇雅俊氏だ。こちらも、行員が熱望していた生え抜き頭取が、実に51年ぶりに誕生したのだ。2014年、7年間頭取の座にあった宮脇氏は会長となり、注目された後任にプロパーの森拓二郎氏が選ばれた。つまり、福岡銀行も十八銀行も、日銀と旧大蔵省という違いはあれど、嘗て中央から人材を送り込まれ、経営の舵取りをコントロールされていたのだ。「こういう銀行では、数十年努力して、あと少しでポストに手が届く地位に上り詰めても、ある日突然、銀行の現場を経験したこともない官出身者がトップに居座り、権威を振り翳すことになる」(浜崎氏)。そんな軛から解放され、大きな経営判断でも、日銀や旧大蔵省の流れを組む金融庁に一々相談しないで済む。独自判断を下せたのが、ある意味で九州の地銀再編の加速化に繋がった面がある。だが、「それが日銀や金融庁の思惑とは違ったものだったのではないか。まさに金融当局と、彼らから一線を画したFFG、及び十八銀行が対峙する構図の様相を呈している」と浜崎氏は分析する。こうして森前専務は、日銀・金融庁・公取委の三者の間に挟まれた。しかも、今回の統合が成功すれば、1位の座を奪ったコンコルディアFGにFFGが一矢報いて、1位に返り咲ける絶好のチャンスだ。九大の先輩の顔に泥を塗る訳にもいかない――。そんな引くに引けない関係性の中で、森前専務の心は押し潰されてしまったのではないか? (取材・文/『週刊ダイヤモンド』委嘱記者 大根田康介)


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