【Global Economy】(40) 起業家は深圳を目指す…技術や資金支援、混沌の産業集積地

中国南部の主要都市・深圳で、製造業を中心に新興企業が次々と生まれている。多くの製造業者が犇めき、試行錯誤の中でヒット商品ができ、模倣されるという混沌とした状況にある。そのエネルギーは、中国政府が目指す産業高度化をリードできるか。 (本紙広州支局長 幸内康)

20170612 15
壁に、手のひらより少し大きい六角形のパネルが50個余り並ぶ。1つに触ると、他のパネルが波打つように動き出す。王建偉氏(25)ら3人で作る『白墨工作室』が、不動産会社の注文を受け、制作中のオブジェだ。王氏は、北京の有名大学で電子工学を専攻。卒業後、2015年、起業の為に深圳に来た。この地を運んだのは、「工場が多く、電子部品の調達時間が短い」からだ。王氏らは、既製品の電子基板や電子部品を買って改良を重ね、自社専用の基板の原型を作る。プラスチックのカバーや基板を少量生産してくれる工場を、インターネット上で提供されている検索サービスで探し、委託する。360度撮影できるカメラのメーカー『アラシビジョン』。劉靖康CEO(26)は、超高精細の8Kカメラを1年半で開発。先月発売した。2014年9月に南京で創業したが、半年後に深圳に移転してから、「開発時間は半分から3分の1になった」という。深圳は、1980年に経済特区の1つに指定されて以来、安価な労働力をテコに製造業が発展し、日米や台湾の投資により、電子関連の企業が集積してきた。『華為技術(ファーウェイ)』や『中興通訊(ZTE)』の通信機器大手2社や、スマートフォン向けアプリ『ウィーチャット』の『騰訊(テンセント)』といった中国を代表する企業が本拠を置く。『シャープ』の親会社である台湾の『鴻海精密工業』も、主力工場を持つ。中小企業も集まり、周辺市を含めた一大産業集積地となっている。これまで、小型無人機のドローンで世界トップの『DJI』や、世界140以上の国で販売されている教育用ロボットのメーカー『メイクブロック』等の企業が育ち、昨年も約39万の新企業が生まれた。人口では中国の1%未満だが、新企業数では約7%を占める。

深圳に独特なのが、『山寨』と呼ばれ、電子製品の模倣品を作る製造業者の存在だ。嘗ては知的財産権を侵害して、安い製品を作るだけというイメージが強かったが、社内の別の部門で正規品も受託生産しているという。起業家同士の交流を促進する企業『スタートアップグラインド』のヤン・スメイカル氏(26)は、「同じような性能の製品を、劇的に安く、速く生産することができる技術力を持っている」と評価する。ただ、山寨が厄介な存在であることに変わりはない。人気商品が生まれると直ぐにコピー商品を作り、開発した企業に損害を与える。アラシビジョンの360度カメラを模倣する業者も数十社あるという。劉CEOは、「司法的な対策を取れば時間も費用もかかる」と嘆く。同社は、模倣される心配が少ない日本を始めとする海外市場での売り上げが7割を占める。深圳の東側の市街地に、“華麗北”と呼ばれる地区がある。電子部品の店舗が集中する東京の秋葉原のような街だ。起業家を支援する施設や組織が集まる場でもある。一角に、メイクブロックを育てたアメリカ系の支援会社『HAX』が拠点を構える。製造業で起業しようとする人たちに、9%の株式と引き換えに10万ドル(約1100万円)を提供し、製造販売のノウハウを学ぶ4ヵ月間のプログラムを実施している。HAXは2011年に創業。130社以上が“卒業”したが、約75%が欧米、約15%が中国からの参加だ。日本人は僅かだが、現在、16社で数十人が活動する。藤本剛一さん(48)は、カナダの大学院の同級生2人と一緒に、子供の創造性を伸ばす為のウェアラブル(身に付けられる)玩具を開発中だ。中国メディアによると、2014年末で創業支援施設は市内に67ヵ所あったが、市政府は2017年に200ヵ所に増やす計画を進めている。中国にとっては、人件費の上昇で成長が停滞する“中進国の罠”から抜け出す為、産業の高度化は不可欠だ。大企業は研究開発費の割合を増やし、日米欧の技術力がある企業を買収する等している。中国政府も2015年、“大衆創業、万衆創新(大衆の創業、万人のイノベーション)”という政策を打ち出し、起業を後押ししている。研究機関『清科研究センター』によると、2016年の中国全体のベンチャー投資額は1312億元(約2兆1200億円)に達し、深圳は1割弱の約113億元が注ぎ込まれた。「到底見込みがあると思えない事業にも資金がつく」(日本の半導体業界関係者)といい、バブルの様相も垣間見える。『日本貿易振興機構(JETRO)』アジア経済研究所の木村公一朗氏は、「世界市場で展開する一部の企業と、国内市場に格安品を提供する企業に二極化する可能性がある」と指摘する。深圳は、世界を変えるような本物の技術革新は生み出せておらず、アメリカのシリコンバレーのような存在になれるかどうかは見通せない。

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■挑戦の価値認めて  ベンジャミン・ジョフ氏(『HAX』運営)
日本には技術やデザインで才能ある人材がいるのに、何故世界レベルの製造企業が新たに生まれないのか? 抑々、起業しようとする人が少ない。背景にあるのは、“起業家が信用されていない”という文化上の特徴だ。同じような欠陥でも、大企業に比べ新興企業は批判され易い。欧米や中国では、リスクを取って挑戦した人を社会は評価し、失敗しても再挑戦できる。改善するには、起業に価値があることを世の中に示すことが大切だ。具体策として、大企業が起業経験者を採用してはどうか? 大企業は、起業家のアイデアやエネルギーを社内に吸収することができる。失敗しても企業で働けるのであれば、一種の社会的な安全網が構築され、人々は起業に積極的になれる。人材育成には、就業体験の充実や、海外から日本を見ることも大切だ。日本は、(あらゆるモノをインターネットで繋ぐ)IoTや健康分野でチャンスがある。アメリカや中国等、海外の優秀な人材と連携し、持てる資源を活用しなくてはならない。


⦿読売新聞 2017年6月9日付掲載⦿



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