“空飛ぶクルマ”は夢じゃない、投資殺到する理由――『ウーバー』が目論む世界制覇、タイで産声上げる水陸両用車

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子供の頃、夢中になって読んだSF小説によく登場した“空飛ぶクルマ”。ボストン郊外に本社を置くベンチャー企業の『トップフライトテクノロジーズ』は、この実現に“最も近い企業”として世界から注目を集めている。特に熱い視線を送るのが、シリコンバレー等で活躍するベンチャー投資家たちだ。2015年11月には、サンフランシスコに拠点を置く『スクラムベンチャーズ』等が、計175万ドル(約1億9500万円)の資金を同社に投入。日本の大手企業からも資金を預かるカリフォルニア州パロアルトの『トランスリンクキャピタル』も出資した。「今、空飛ぶクルマは最も有望な投資対象領域の1つだ」(スクラムベンチャーズの宮田拓弥氏)。このトップフライトを2014年に創業したのが、1990年代からマサチューセッツ工科大学(MIT)で自動運転ヘリコプターの開発に携わってきたロン・ファン氏だ。「自動で空を飛べるようになると、専門知識が必要なパイロットが必要なくなり、モビリティーの用途が一気に広がる。“空飛ぶタクシー”として渋滞を飛び越えることもできるし、災害で寸断された地域に物資を運んだり、離島の怪我人を街の病院に運んだりすることも簡単にできるようになる」。同社は今年4月、空飛ぶクルマを想定した小型の試作機『エアボーグ H810K』の飛行実験を成功させた。機体の大きさは、全長195㎝・全幅160㎝・全高150㎝。現時点で既に15㎏の物資を1時間運べる能力を持つが、ファン氏は「4~5年後には最大8人を乗せ、3時間飛ばせるようにする」と自信を見せる。空飛ぶクルマとドローンの最大の違いは、“人や重い物資を運べるかどうか”にある。空飛ぶタクシーのように使うなら、自動運転か、手動であっても誰でも簡単に操縦できなければならない。更に、航空機のように滑走路が必要では使い勝手が悪い。市街地等、建物や道路が密集した場所から容易に飛び立てることも重要な条件だ。

多くのベンチャーは自動運転を想定している為、操縦を制御し易い“電動”を前提とする。だが、現存するバッテリーではパワーが足りず、大きな物資を運ぶことはできない。ここに技術開発の余地があるのだ。ファン氏のトップフライトが“実現に近い”と言われるのは、駆動源にエンジンとバッテリーの双方を積む『トヨタ自動車』の『プリウス』のようなハイブリッド方式を採用していることが大きい。エンジンで発電した電力で飛行しつつ、余った電力はバッテリーに溜める。「予備の電力は不測の事態に対応する為でもある」(ファン氏)という。空飛ぶクルマを誰が最初に実用化できるのか──。この“空中戦”に強い興味を示しているとされるのが、『Google』共同創業者のラリー・ペイジ氏だ。ペイジ氏が出資する『キティホーク』は、カリフォルニア州マウンテンビューのGoogle本社近くに開発拠点を構える。同じくペイジ氏が出資する『ジーエアロ』も同様の開発を進めるベンチャーだが、何れもメディアの取材を受けないことで知られる。本誌が先月、両社に取材を申し込むと、別々に送った筈のメールに対して、1人の女性広報からこんな返事が戻ってきた。「キティホークもジーエアロも、今はメディアの取材を一切受けていない。でも、製品発表の時には必ず誘う。是非来てほしい」。どうやら、両社は別会社でありながら、人材を共有しているようだ。メールと一緒に送られてきたのが、“試作機”とされる機体の写真(※左上画像)だ。今年4月にテスト飛行をした時の様子だという。空飛ぶクルマというより、“水面から少し浮く水上バイク”といった様相。キティホーク自身も、“パーソナルエアクラフト(個人向け飛行機)”と位置付けている。空飛ぶクルマの開発に情熱を傾けているのは、アメリカに限った話ではない。ヨーロッパでも数々のベンチャーが登場し、テスト飛行を成功させている。スロバキアのベンチャー『エアロモービル』は今年4月、2020年にも市販する予定の2人乗り空飛ぶクルマの先行予約を始めた。小型飛行機のような見た目で、地上走行時は翼を折り畳む。全長5.9m・全幅2.2m・全高1.5m。自動運転ではなく、乗員が操縦するタイプで、飛び立つ際は滑走が要る。価格は120万~150万ユーロ(約1億4000万~約1億7500万円)を予定しているという。ドイツの西部・カールスルーエを拠点にする『イーボロ』が開発を進めるのは、大型ドローン『ボロコプター2X』だ。機体はヘリコプターに近く、電動モーターで動く18個の回転翼で飛行する。2013年に初めて無人飛行に成功した後、改良を重ね、今年4月、新デザインのバージョン2を発表した。同じく、ドイツで2015年に創業したのが『リリウムアビエーション』。5人乗り電動小型飛行機で、“空のライドシェアサービス”の提供を目指している。今年4月に初の飛行実験に成功した。注目すべきは、この熾烈な開発競争に“空の専門家”も参戦している点だ。航空大手の『エアバス』は、空飛ぶタクシーを開発するプロジェクト『ヴァーハナ』を昨年、立ち上げた。シリコンバレーに設置した同社ベンチャー投資部門が、1億5000万ドル(約160億円)を投じ、サンノゼ国際空港近くの開発拠点で機体を設計している。全長約6m・全幅約6mで、「自動車2台分の駐車スペースがあれば止められる」(開発リーダーのザック・ラバリング氏)。2020年までにテスト飛行をし、2021年までの実用化を目指す。

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これだけ多くの企業が空飛ぶクルマの開発に傾倒するのは、それが「未来の公共交通インフラになる」と見ているから。空を飛べば、クルマよりも早く目的地に辿り着ける為、「都市部でも利用が広がる」と考えている。公共インフラとしての具体的なサービスも見えてきた。『ウーバーテクノロジーズ』が今年4月下旬に発表した空飛ぶタクシー『電動VTOL』の開発計画。機体はウーバーが、ブラジルの小型航空機大手『エンブラエル』やバージニア州の無人航空機メーカー『オーロラフライトサイエンシズ』等と共同で開発する。VTOLの開発で実現しようとしているのが、右図のようなサービスだ。これまで同社は、A地点からB地点まで移動したい顧客に対して、一般の人が運転する自動車をスマートフォン(スマホ)のアプリケーションを使って配車するサービスを展開してきた。VTOLを活用することで、ウーバーは、顧客をA地点からB地点まで、ほぼ直線に近い最短ルートで運ぶ“空と陸の交通インフラ”になることを目指す。A地点にいる顧客を自動運転車で迎えに行き、近くのヘリポートまで届け、そこからB地点近くのヘリポートまでVTOLで飛び、再び自動運転車でB地点まで届ける。将来、陸も空も境目なく移動できる機体を開発できれば、ヘリポートへ行く必要もなくなる。2020年にはテキサス州ダラスとアラブ首長国連邦のドバイでテスト飛行を実施する。同年にドバイで開催される『世界博覧会』でデモンストレーションをするのが狙い。既に、ダラスとドバイの自治体や不動産会社、EV(電気自動車)向けバッテリーメーカー等との提携を発表している。「渋滞も無いし、駐車場も必要ない。いつでも行きたい場所に早く行くことのできる、全く新しい都市型交通手段にきっとなるだろう」(ウーバーのアンドリュー・サルツバーグ氏)。陸と空の次世代インフラを誰が提供し、そこで使用する空飛ぶクルマを誰が開発するのか? 大手もベンチャーも、この戦いに乗り遅れまいと必死だ。

エアバスが巨額の資金を投じてヴァーハナプロジェクトを進める理由も、ここにある。自社開発の格安機体を武器に、手頃な価格で移動サービスを提供しようとしている。「サンフランシスコからサンノゼまでタクシーやウーバーで100ドル以上かかるが、当社は同じ区間の移動を約80ドルで提供する。所要時間は自動車の半分以下。魅力的なサービスになる」(エアバス)。一方――。「トヨタさんのような大手が動かないと、日本は先ず変わらないんじゃないかな? 残念だけどね、これが現実」。日本のメーカーから新規事業開拓を任されてシリコンバレーにやってきたある駐在員。渡米して3年目。母国に向けられる目は、どこか冷めている。シリコンバレーにいると見えてくる現実も、日本の本社で口にすれば「何、バカなこと言っているんだ」で一蹴される。「世界から日本は取り残されている。安穏としていてはダメだ!」。そう訴えても、シリコンバレーの空気に触れていない日本の幹部には伝わらない。『トヨタ自動車』・『ゼネラル・モーターズ(GM)』・『フォルクスワーゲン(VW)』等、世界の自動車メーカーが急速なEVシフトや自動運転等の新技術の波に曝されているのは周知の事実だ。だが、この駐在員が指摘しているのは、自動車メーカーが既に直面している新技術の波の先にある、もっと過酷な現実だ。想定されるシナリオはこうだ。自動車(モビリティー)の電動化が進むと先ず、進展が予想されるのが自動運転。周囲の状況をセンサーで把握し、AI(人工知能)がどう車体を動かすべきかを判断し、その結果に基づいて車輪やブレーキを制御する。電気信号によって、この一連の流れを実現するのにEVは適している。同時にクルマは、陸(※2次元)から空(※3次元)へと飛び立つ。すると、製品開発に必要な技術が、従来の自動車関連だけでは足らなくなる。航空力学や空中での機体制御等、全く分野の異なる技術が必要になるのだ。もう1つ、電動化で進む事象として見逃してはならないのが、“ものづくりの簡素化”だ。電気駆動になると、内燃機関に比べて製品を作るのに必要な部品点数が減り、製造工程も簡素になる。すると、これまで日本が強みとしてきた“ものづくり力”がそれほど価値を持たなくなる。製造業への参入障壁は低くなり、GoogleのようなIT企業やウーバーのようなサービス会社も、比較的容易にものを作れるようになる。この結果、起きるのは、従来型産業ピラミッドの崩壊だ。ピラミッドのトップに自動車メーカーが君臨し、そのものづくりをティア1の部品メーカー、更にはその下のティア2や3の部品メーカーが支える。数万点の部品点数を要し、製造するのが難しかったからこそ存在していたピラミッドが、空飛ぶクルマの世界では通用しなくなる可能性が高い。自動車メーカーもIT企業もサービス会社も、ものづくりという点での差異は殆ど無くなる。そこにあるのは、「顧客が好む移動サービスを提供できるかどうか?」という視点だけだ。

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「どれだけの自動車メーカーが、ウーバーのように具体的に、未来の顧客が望む移動サービスを想像できているか? 俺が問いたいのはそこだよ」。先の駐在員は、こう言って溜め息を吐く。薄い雲が空を覆った先月のある土曜日の昼下がり。愛知県豊田市の山林にある廃校の裏に、数台の自動車が次々と滑り込んでいく。降り立ったドライバーたちは軽く挨拶を交わすと、荷台から工具箱を取り出し校内へ。廊下に無造作に置かれていたのは、解体された空飛ぶ自動車の部品だ。トヨタの若手有志が中心となり、2012年に立ち上げた空飛ぶ自動車開発プロジェクト『CARTIVATOR』(※開発活動代表は中村翼氏)。参加者を『デンソー』等徐々に社外にも広げながら、「週末に手弁当で活動」(元トヨタ社員で現在は経営コンサルタントの福澤知浩代表理事)を続けてきた。手弁当なので、兎に角カネが無い。作業場は、豊田市からほぼ無料で借りている廃校。電源は、唯一生きている屋外のコンセントから長い電源コードで引っ張ってこなければ使えない。これまで校庭で飛行試験を繰り返した機体は、活動をする中で出会った人物が、自身の退職金数百万円を叩いて手作りした“空飛ぶクルマ”の部品がベースとなっている。プロペラは大型ラジコンのものを転用。テスト飛行では、地上約1.5mの場所で約1分、浮かばせることができた。この日は、その試験飛行で欠けてしまったプロペラの欠損部分をプラモデル用の樹脂で盛り、表面を削り取って修復する作業に、5人が半日を費やした。どんどん資金が注ぎ込まれるシリコンバレーのベンチャーに比べると、何とも過酷な状況だ。だが、参加者たちの表情は明るく、その目はキラキラと輝いていた(※左画像)。「目標は、2020年の東京オリンピックの開会式で飛ばすこと。本当に飛ばすことができたら…感動して泣くと思う」。自動車メーカーに入社して7年目の三品和広氏(25歳)は、こう言ってはにかんだ。

カーティベーターは、トヨタのビジネスとは全く関係のない非公式のプロジェクトだ。だが、先月14日、トヨタを始めとするグループ会社15社から、今後3年間で総額4250万円の支援金を出してもらえることが決まった。「奇跡のような出来事」(福澤代表理事)だが、この金額では到底足らない。「あと何回か奇跡が起きないと、オリンピックには間に合わない」(同氏)。池に浮かんだEVが、ボートのようにすいすいと水面を自在に動き回る──。昨年11月、EVベンチャーの『FOMM』(神奈川県川崎市)がバンコクで実施した小型EVのデモンストレーションは、現地メディアで大きく報道された。EVの名は『FOMM Concept One』。普段は小型EVとして道路を走行するが、洪水な等の緊急時には水に浮かんで移動もできる。全長約2.5m・全幅約1.3m・全高約1.6mと小型だが、大人4人が搭乗できる。アンダーボディーは樹脂製で、バスタブのような構造になっており、水面に浮かぶ。タイヤのホイール内部にあるタービンの羽根のような部分が水かきの役割を果たし、推進力を得られる仕組みだ。2018年1月に量産試作車を完成させて、同年6月からはタイにある工場で量産を開始する計画。「先ず、タイ国内向けに年間1万台規模で量産して、その後、3万台に増やして、マレーシアやインドネシアやフィリピン等に輸出したい」。FOMMの鶴巻日出夫社長は意欲的だ。鶴巻社長は元々、『スズキ』で2輪車を開発していた技術者。その後はトヨタグループに転じて、小型EVの『コムス』を開発。2013年にFOMMを設立して、小型EVの開発を進めてきた。水に浮かぶEVを考えたきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災。福島県出身の鶴巻社長は、津波で多くの人命が失われたことに強い衝撃を受けた。「水に浮かぶクルマがあれば、命を失わずに済んだ人が少しはいたかもしれない。『津波でひっくり返っても絶対に水が入らないEVを造ろう』と考えた」(鶴巻社長)。勿論、アイデアがユニークでも、事業化は簡単ではない。国内で小型EVの販売が苦戦していた上、いつ起きるかわからない地震と津波の発生時に役立つといっても、市場は限られる。そこで鶴巻社長が目を向けたのが、洪水が頻繁に起きる東南アジアだった。マレーシア、タイ、フィリピン等に自ら足を運び、市場を調査した。2013年に起業して、その9ヵ月後には最初の試作車を開発。バンコクのモーターショーで展示すると、「絶対に買いたい」と218人が会場で記帳してくれた。高い関心を呼んだとはいえ、資金を提供してくれるパートナーは中々現れない。そんな昨年春、支援者のタイ人の大学教授の紹介で、タイのプラユット・ジャンオーチャー首相の試乗が決まった。国のトップによるEV試乗は現地で大きく報道され、それから1ヵ月半でパートナーが見つかった。今年3月には、タイでEVの普及を後押しする法案も通過。FOMMはタイでのEV量産に向けて動き出した。 (取材・文/本誌 池松由香・寺岡篤志・山崎良兵・ロンドン支局 蛯谷敏)


キャプチャ  2017年6月12日号掲載




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