【天下の暴論2017】(08) 経済学者よ、間違えたら腹を切れ!

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安倍晋三政権の内閣参与を務める経済学者・浜田宏一氏の“宗旨替え”ショックは意外と大きく、憤りを隠せない関係者も多い。政権が生まれてからずっと金融緩和を推奨してきたのに、効果があまりないとわかると、今度は「財政出動だ」と言い出したのは、あまりに節操がないという訳だ。批判が向かっているのは浜田氏だけではない。例えば、アべノミクスの1本の柱であった“インフレターゲット政策”が経済学の到達点のように煽っていたある経済学史学者は、いつの間にか“知らぬ顔の半兵衛”を決め込んでマスコミから姿を消している。こうした状況を鑑みれば、「経済学者たちの責任感はどうなっているんだ!」と糾弾したくなるのも無理はない。私のような経済政策を論じてきた人間などは、「経済学者よ腹を切れ!」と叫びたいくらいなのだ。しかし、ちょっと踏み止まってあれこれ考えてみれば、抑々“腹を切る”というのは一体、何が目的なのだろうか? 幾つか説があるが、有力な説によれば、「私の腹の中には邪悪なものは無い」と天下、或いは主君に向かって示すのであるという。だとすれば、経済学者の誰かが何かの拍子に切腹してくれる前に、その腹から何が出てくるのか考えておいたほうがいい。エイリアンみたいな黒い化け物だった時、腰を抜かさない為にも準備が必要なのである。序でだから、この際、最も根本的なことから始めることにしよう。

抑々、経済学とは一体何なのか? 現実の社会にとって、経済学は何ができるのだろうか? 先ずは、当事者たちに聞いてみよう。若者に人気のある経済学者のポール・クルーグマンは、ノーべル賞を貰った約半年後の講演で、「現代経済学は、よく言って驚くべき無能を晒し、悪く言えば事実上の加害者であり続けてきた」と述べて衝撃を与えた。「自分を棚に上げてよく言うよ」と思うが、この経済学者の本音でもあるだろう。また、イギリスのノーベル経済学賞受賞候補のジョーン・ロビンソンは、「経済学を勉強する目的は、どうしたら経済学者に騙されないかを学ぶことにある」と言っていた。何故なら、「経済学説というものは、常にプロパガンダとして提示される」からだというのだ。“無能”で“加害者”である経済学者たちが言い出す経済政策は、“騙す”為の“プロパガンダ”なんだという訳である。この点、クルーグマンが尊敬措くあたわざる人物と考え、ロビンソンが教祖のように崇拝したあのJ・M・ケインズこそ、実は、こうした現代経済学者の原型であると言ってよい。2008年のリーマンショック以降、急速にケインズ経済学が再評価され、ケインズ自身も聖人のように扱われ始めたが、それ以前の30年間、ケインズは“忘れられた歴史上の人物”だった。彼は大学の研究室棟の隅っこにある経済学史教室の中で、「こういう人もいたよねぇ」という感じで扱われるマイナーな存在にまで落ちていた。そうした扱いも仕方なかった面がある。経済学の中心地であるアメリカ合衆国で1970年代に生じたスタグフレーション(不景気とインフレの複合現象)を前にして、当時のケインズ経済学派のボスであったポール・サミュエルソンは何ら有効な手を打てなかった。しかも、ケインズという人は、何かと問題含みの言動が多かった。国際経済学者のチャールズ・キンドルバーガーは、ある著作で「通貨と貿易に関するケインズの見解は時期によって少なくとも3つあった」と言っているし、ケインズに批判された政治家のウィンストン・チャーチルは、「5人の経済学者に意見を聞いた。大きく異なる6つの説があった。その内の1つはケインズ氏のものだった」と皮肉った。今や経済学史に燦然と輝く『雇用、利子および貨幣の一般理論』を1936年に発表して、“熱病のように”自説を世界中の経済学者に感染させてからも、ケインズは状況次第で平然と別の経済政策を語った。大戦中にアメリカを訪れた際、戦時経済におけるインフレ対策を語って、『一般理論』信奉者のアメリカ高官に反論されると、「おや、君は僕以上にケインジアンなんだね」とからかった。若きフォン・ハイエクが「一般理論は誤解を招きますよ」というと、ケインズは「なぁに、その時には馬鹿を説得する本を書いて、こんな風に世論を」と言って指をパチンと鳴らし、「変えてやるさ」と嘯いた。こんなケインズの『一般理論』にある欠陥を指摘して登場したミルトン・フリードマンは、1960年代に“マネタリズム”を掲げ、1970年代からは新自由主義の祖としてアメリカ経済学界に君臨した。

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では、彼が提示した政策が成功したかというと、意外に思う人もいるかもしれないが、殆どが駄目だったのだ。「経済の成長に沿って通貨供給を調整するだけでいい」というマネタリズムは、イギリスのマーガレット・サッチャー政権が採用したが、程なく現実的でないことがわかって放棄された。彼が「貿易不均衡が解消する」と言って提示した変動相場制は、実際には全く貿易不均衡を解消しなかった。フリードマンの市場信仰は、ウォール街に都合のいい金融界の教義として持て囃されてきただけなのである。現象だけをみれば、新しい経済学説というものは、それが正しいから広がるというよりも、その時々の不幸を救済してくれそうなので流布するようなところがある。「それでは、経済学というのは新興宗教じゃないか?」と思った人がいるかもしれないが、その通りで、アメリカのロバート・ネルソンという経済学者は、『宗教としての経済学』という分厚い本を書いているほどだ。ネルソンは内務省のエコノミストだったが、経済政策を国民に説明しているうちに、経済学というより宗教による救済を説いているような気持ちになったという。そこで、経済学史を振り返ってみれば、「私の言うことを聞けば貴方がたは幸福になれる」という宗教的な論理構造が、マルクス経済学に留まらないことに気が付いた。「信じよ、さらば救われん」は、ケインズ経済学でもフリードマン学説でも同じだったという訳である。ネルソンの説は、一定の条件を付ければ正しいと思う。抑々、最先端の経済学説を国民に完璧に理解させるということは不可能だ。いや、それどころか、最新の経済学説ほどわかり難いものはないと言っていい。それでも国民に受け入れさせようとすれば、それは殆どスネークオイルを売る(※偽物を騙して売る)行為に限りなく近付く。そうした意味で、アベノミクスの金融政策を支持した浜田氏について私は、寧ろ弁護したいほどなのである。『日本銀行』の黒田東彦総裁は、科学哲学者のカール・ポパーの翻訳者としても知られ、新学説に対しては慎重な筈なのだが、どういう訳か検証が不十分だったクルーグマンのインフレターゲット政策に“帰依”してしまった。

1998年に登場したクルーグマンによるこの説は、日本経済は金利をゼロにしても景気を刺激できなくなったから、日銀総裁が金融緩和をしながら、「これから日本をインフレにします」と宣言して、国民に“インフレ期待”を醸成するというものだった。但し、クルーグマンも馬鹿ではないので、「こんなことをするのは、中央銀行が制御できるお金(マネタリーべース)を増やしても、世の中を巡るお金(マネーストック)が増えないことがわかっているからだ」と断っていた。しかも、「『インフレにする』と宣言して、それを15年も続ければデフレから脱却できるかもしれない」と述べ、「財政出動も放棄しない」という留保を付けていたのである。従って、安倍政権が浜田氏を金融政策についての内閣参与にしたという話を聞いた時、私は首を捻った。何故なら、浜田宏一教授は、クルーグマンのインフレターゲット説にはかなり否定的だったからである。浜田教授は次のように言っていたのだ。「人々がインフレ期待を持ってしまうと、名目金利が上がり、実質金利も下げ止まって刺激効果が失われる。このような錯覚を利用した政策でクルーグマンの言うように人々を15年間もだまし続けることが可能だとは、私には全く思えない」(『週刊東洋経済』1999年11月13日号)。この時、浜田教授は正しかった。そしてまた、経済政策には“騙し続ける”という要素があることもちゃんとわかっていた。当然だろう。泣く子も黙るアメリカ経済学界において地位を確立した稀有な日本人だったのだから。従って、日銀副総裁となった岩田規久男氏が、「15年ではなく2年で」と言い、あてにならないマネタリーべースを「指標にする」と論してもじっと我慢をして、「2年なら国民を騙してもいい」と自分に言い聞かせたのだろう。こんな人格者に対して、安倍首相の待遇は酷いものだった。インフレターゲット政策があんまり効かないことがわかり、『伊勢志摩サミット』を機に財政出動に切り替えようとのプランが浮上した時、アメリカから有名経済学者のクルーグマンやジョセフ・ステイグリッツを呼んで、意見聴取している。「浜田氏はもうお払い箱だ」と国民に宣言したようなものだった。浜田氏は前出の論文を書いて以後、インフレターゲット政策について「ことによるとやむをえないのかな」と揺らいだこともあり、安倍内閣の参与となってからは“信者”のふりをしてきた。しかし、それまでの輝ける経歴に恥じない為には、日銀の岩田副総裁や原田泰審議委員のように、“トゥルービリーバー”にはなれなかったのだろう。ここにきて、アメリカのドナルド・トランプ大統領が「大規模な財政出動をやる」と言い出した。インフレターゲット政策の片棒を担いできた経済学者や経済評論家は、空気の変化を察知して「日本には巨額の国有財産がある」と叫び出している。だから、財政出動がいくらでもできるという訳だ。しかし、この議論も20年前からのもので、埋蔵金と言われるものを一般会計に入れるのは1回きり、土地・建物は精々賃貸料くらいしか期待できない。こうしてみれば、私も多少の反省をしながら書いているのだが、経済学者に切腹させても意味が無いのである。というのも、もうおわかりだろうが、日本の経済学者の腹の中には、実は何にも入っていないからだ。入っているとしても、小狡い偽信者という奇形的な虫か、学説の買弁商人という気持ち悪い蚯蚓が這い出てくるだけなのである。 (フリージャーナリスト 東谷暁)


キャプチャ  2017年4月号掲載


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