航空自衛隊vs中国空軍、封印された一触即発の事態――有事や覇権拡大に向けた諜報戦争、日本語で“侮蔑的な言葉”も

日本の周辺空域では今、領空侵犯の恐れがある外国機に航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)する回数が急増し、昨年度は過去最多の1168回に及んだ。この内、対中国が7割を占める。防衛省が公表しているのは、この乾いた数字だけで、その裏側に潜む日本のトップガンたちの暗闘と苦闘は全く知らされていない。国民の目に触れることもない天空で一体、如何なる攻防が繰り広げられているのだろうか? 雲の幕間から見えたのは、命を賭したパイロット同士の一触即発の危機、そして24時間365日絶え間なく続く熾烈な情報戦争だった――。

20170615 01
トム・クルーズ主演のハリウッド映画『トップガン』(パラマウント映画)が一世を風靡したのは、冷戦末期の1986年のことだった。彼の扮する戦闘機パイロットのマーヴェリックは、その高度な技術を認められて、アメリカ海軍戦闘機兵器学校『トップガン』に入り、孤高の操縦士として宙を舞い、国家の盾となる。時は流れて30年余り。マッハの音速で緊迫の大空へ誘う前に、スクランブルとは何か、改めておさらいしたい。端的に言えば“空の警察活動”、謂わば取り締まりであり、スクランブル=有事ではない。領土は警察、領海は海上保安庁が警察の役割を担っている。しかし、日本の領空には、警察に相当する組織は存在しない。そこで、空自がスクランブルで警察活動を兼務している訳だ。具体的には、地上レーダーや情報収集機が日本領空の周辺を警戒して、領空侵犯の恐れのある航空機を発見した際、戦闘機を発進させる。対象の航空機に接近して状況を確認し、行動を監視する。領空侵犯になれば退去を警告したり、近くの空港への強制着陸を促したりする。日本の領空は、領土から12海里(約22.2㎞)までの領海の上空だ。日本の防空識別圏(ADIZ)は中国寄りで、中国のADIZは日本に寄っている。つまり、双方のADIZは重なり合っており、日中は暗黙の了解で互いのADIZの中間ライン付近で牽制し合う。そこから、中国軍機が日本の領空の方向へ向かう動きを察知した場合に緊急発進するのだ。航空機は高速で飛行するが故に、この12海里に侵入する直前に対処していてはとても間に合わない。そこで、領空侵犯に備える為、領空の外側にADIZを設定している。これは国際法で確立された概念ではなく、日本のADIZは占領期のアメリカ軍による線引きをほぼそのまま準用している。この為、北方領土が含まれていなかったり、竹島が韓国のADIZに含まれていたりする等、不整合も残る。逆に、日本と中国の間にある東シナ海上空は、長らく中国軍の航空勢力が無きに等しい状態だった為、日本のADIZは中国側に接近している。

ところが、中国は近年、海洋進出の後を追うように東シナ海での飛行を活発化。そして2013年11月、遂に中国も朝鮮半島の南側から台湾の北側まで、日本の南西諸島に沿うようにADIZの設定に踏み切った。沖縄県の尖閣諸島付近が含まれ、日本のADIZと重なる。その事件は、今も日本政府は公式に認めていない。昨年6月17日、 航空自衛隊のF15戦闘機がスクランブル(緊急)発進して、尖閣諸島周辺の東シナ海上空で、中国軍機と不測の事態の寸前となった出来事である。「中国軍機が空自機に対し攻撃動作を仕掛けてきた。仕掛けられた空自戦闘機は、いったんは防御機動でこれを回避したが、このままではドッグファイト(格闘戦)に巻き込まれ、不測の事態が生起しかねないと判断し、自己防御装置を使用しながら中国軍機によるミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱したという」。事件から11日後、空自OBの元航空支援集団司令官・織田邦男がウェブニュースで概要を公開した。そして、「中国は間違いなく、一歩踏み出した」「上空での熾烈な戦いは今もなお続いている。もはや空自による戦術レベルの対応だけでは限界かもしれない。上空での中国軍の危険な挑発行動は、いち早くこれを公表し、国際社会に訴え『世論戦』に持ち込むことが必要である。【中略】今のまま放置すれば、軍による実効支配が進むだけでなく、悲劇が起きる可能性がある」と警鐘を鳴らした。ところが、日本政府は「中国軍機から攻撃動作をかけられた、ミサイル攻撃を受けたという事実はない」(当時の萩生田光一官房副長官)と否定。記者の質問に「ロックオンの事実もない」と答え、「今回のことは特別な行動ではないと判断している」と結んだ。どちらの言い分が正しいのか? 事件の真相は奈辺にあるのか? 当時の関係者は、織田氏の指摘をより具体化して明らかにした。中国軍機がその機首をF15へ向け、ミサイル攻撃の動作を仕掛けてきた。一触即発の事態を憂慮したF15のパイロットは回避行動を取り、赤外線ミサイルの追尾を躱す為に、囮として強い赤外線を放出する“フレア”を撒いて、那覇基地へ帰還した――。戦闘機が機首を相手機に向ける飛行(ロックオン)は、極めて重大な挑発行為であることは論を俟たない。フレアを撤く行為は通常の手順とはいえ、その段階は交戦の一歩手前であり、別の空自パイロットは「間一髪だった」と、当時の緊張度合いに自らの憂いを重ねる。何故、日本政府は織田氏の指摘を認めなかったのか? その理由は「日本側から詳細な事実を公表したり、認めたりすれば、こちらの手の内が中国サイドにわかってしまう恐れがあった」(政府当局者)からだ。そこで防衛省は、「中国軍機が自衛隊機に接近する事案が起きた」とざっくりと抽象的な内容を発表しようと検討していたところ、「織田氏が暴露してしまい、否定的なトーンの公式発表になってしまった」(同)という。実は、中国軍の挑発的な危険行為は、この事案だけではない。複数の自衛隊関係者は、「同じような事態は、その前後に数件は起きている」と言明した。自衛隊OBは、「織田氏の指摘を否定してしまったことで、中国軍機の挑発的な行為を積極的に公表し難い悪しき前例を残してしまった」と危惧する。このような危険を内包したスクランブルとは、どのように展開されているのだろうか?

20170615 02
「緊急発進!」――。先月某日、空自の那覇基地。滑走路の端にあるアラート待機所で、地上のレーダーサイト管制官から有線で報告を受けた連絡員が叫んだ。その一声と同時に、待機所の出入り口上部に設置された赤色のランプが発光しながら、目まぐるしく回転する。「フォアン、フォアン…」。けたたましい警告音が鳴り響く。その瞬間、待機所に控えるパイロット2人が、整備要員と一緒に、隣接の通称“かまぼこ”と呼ばれる格納庫へダッシュする。其々梯子を上り、F15戦闘機の操縦席に滑り込む。下肢を被うズボン状の耐Gスーツにホースを装塡して空気を送り込み、下半身を圧迫する。戦闘機の操縦は高い加速度(G)を伴うため、下半身を締め付けることで血流を抑え、脳の虚血状態を防止しなければならない。エンジンのスターターを回すと、操縦席はコンプレッサーの甲高い金属音に包まれる。衛星利用測位システム(GPS)を再設定し、10ヵ所以上の作動を瞬時に点検する。コックピット上部を覆うキャノピーが閉まり、整備要員は装塡されたミサイルの安全装置のピンを抜く。即座に滑走路に移動してテイクオフ。有線で連絡を受けてから離陸まで5分以内。F15は、“リーダー”と呼ばれる主力の1番機、“ウィングマン”と称される2番機で編隊を組み、滑空する。待機所には他に2人のパイロットが控え、格納庫にも2機のF15が待機している。これはバックアップする為の態勢で、必要に応じて後続として先陣の航跡を追う。

那覇基地を離陸してから10分余り。F15の画面は、日本のADIZの外周近くを飛行する中国軍の偵察機の機影を映し出す。対象の偵察機まで約600mに迫ると、左横に随伴して飛行。目視で中国軍機と確認すると、無線を使って英語と中国語で通告する。“You are approaching Japanese airspace territory. Follow my guidance!(貴機は日本領空に接近しつつある。速やかに針路を変更せよ!)”。中国軍機は“We are training!”等と英語で反応しながら、そのままADIZの外周辺から南シナ海方向へ飛翔。F15は中国軍機がADIZから離れていくのを見届けて、那覇基地へ帰還した。これが日常的な光景である。中国軍機の場合、偵察機や情報収集機が8割、戦闘機は2割ほど。戦闘機のケースでは、危険回避の為に数十㎞離れて監視・警告する。空自那覇基地からのスクランブルが昨年度だけで803回で、全体の7割。平均すると、毎日2回以上も緊急発進している計算だ。那覇基地の対象は、その殆どが中国機である。このようなスクランブルは、北海道の千歳基地や石川県の小松基地等、全国の管轄エリア毎に日夜繰り広げられている。対象機との具体的な交信記録は“高度の防衛機密”だ。従って、その詳細が世の中に知れ渡ることはないものの、日米軍事筋は「中国軍機のパイロットの中には、日本語で侮蔑的な言葉を放つ輩も存在するようだ」と漏らす。これまで、領空侵犯は累計で38回を数える。この内、中国の領空侵犯は、2012年12月に尖閣諸島の魚釣島の上空で起きた1回だけで、機種は中国国家海洋局所属の航空機。その他は台湾機の1回を除いて、全て旧ソ連・ロシア機だった。スクランブルの回数に比べて、実際に領空侵犯に至るケースは極めて少ない。にも拘わらず、何故中国軍は東シナ海での動きを活発化させているのか? それは、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略の一環だ。尖閣諸島-沖縄-台湾-フィリピンに至る“第一列島線”の内側にアメリカの戦力進入を許容しない接近阻止、小笠原諸島-グアム-パプアニューギニアを結ぶ“第二列島線”内でアメリカ軍の自由な移動を制約する領域拒否を目指す。中国海軍は2000年頃から、中国空軍は2010年代からこの戦略を具現化してきた。逆に、アメリカ軍は沖縄県の嘉手納基地から偵察機や早期警戒管制機を飛ばし、中国沿岸部の領空近くまで接近して、情報を恒常的に収集している。自衛隊関係者は、「中国から見れば、『アメリカ軍は中国の玄関先まで来てスパイ行為を働いている』ということだろう。空自機のスクランブルはそこまで飛行していないので、一義的にはアメリカ軍への対抗措置と言えるかもしれない」と解説する。

20170615 03
とはいえ、空自機も中国軍機も、単に牽制し合うだけが目的ではない。秘められた狙いは双方とも、いざ有事や覇権拡大に向けた諜報戦争なのだ。どちらも、動画や静止画で相手を撮影するのは基本動作。相手の機番を記録して交信内容も録音し、声紋を集積する。それで何がわかるのか? 相手のパイロットが誰か、どんな技量なのか、短気な性格なのか…。どんな航空機であれ、それを操縦するのは生身の人間である。当然のことながら、操縦士によって飛び方も対応も微妙に異なり、その違いが不測の事態で決定的な影響を及ぼす。実際、中国の海南島近くの上空で2001年に起きた米中軍用機接触事故で、アメリカ軍の偵察機と接触して墜落した中国戦闘機を操縦していたパイロットの王偉は、アメリカ軍側が“挑発的”と断じる札付きのパイロットで、この情報は空自も共有していた。それほど、パイロットの技量や性格はつぶさに調べ上げているのだ。中国側もアメリカ軍と自衛隊のパイロットの癖をデータで集積しているのは、想像に難くない。スクランブルの国際標準を熟知していなかった中国軍も近年、アメリカ軍や自衛隊機との駆け引きを通じて、「日米と同じような作法で対処する節度が出てきた」(空自幹部)との指摘の一方で、「スクランブル対象の機数の急増に応じて、不逞の輩も後を絶たない」(アメリカ軍筋)。前出の王偉は、祖国防衛に命を捧げた人民解放軍の英雄として、中国では今以て崇められている。無法者どころか、尊敬の的なのだ。空自のトップガンたちは、そんな国家のパイロットを相手に今、この瞬間も人知れず命懸けの“空中戦”を繰り広げている――。


キャプチャ  2017年6月号掲載

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

自衛隊グッズ プルバックマシーン イーグル 戦闘機
価格:1000円(税込、送料別) (2017/6/14時点)




スポンサーサイト

テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR