【70回目のカンヌ映画祭】(中) 欧州の危機、不安は世界に

20170615 06
パリ、ニース、ロンドン…。相次ぐテロを警戒し、今年のカンヌは物々しかった。会場の全ての入り口に金属探知機が設置され、自動小銃を抱えた警官が沢山いた。マンチェスターのコンサート会場爆破テロが発生した翌5月23日には、映画祭が声明を発表。「これは文化・若者・喜び・自由・寛容・忍耐等、映画祭と映画祭を作り上げる人々が大切にする全てのものに対する攻撃だ」とし、黙祷を呼びかけた。政治危機や経済危機の影は、出品作にも落ちていた。とりわけ、東欧・北欧・南欧の作品に色濃かった。ハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督『木星の月』は、不法入国しようとして撃たれた難民の青年が空中を浮遊できるようになる物語。その超能力を知った酒飲みの医師は、青年を騙してお金を稼ぐ。難民が命がけで辿り着いた夢の土地、ヨーロッパの退廃とモラルの危機が浮かぶ。ウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督『やさしい女』は、獄中の夫に送った小包が返送された為、遠隔の地の刑務所を訪ねる女の物語。何故差し入れできないのか? 官憲は「国家機密だから」と教えてくれない。

「アレンジしてやる」と申し出る民間人たちも怪しい。女が身分を明かした人々や社会機構は信頼できるのか? 現代のヨーロッパに忍び寄る全体主義の寓話だ。ドイツのファティ・アキン監督『イン・ザ・フェイド』は、ネオナチによるテロで息子と夫を失った母の闘いを力強く描く。トルコ系のアキンは、公権力の移民への偏見やネオナチの国際連携等、ヨーロッパの闇も抉る。より内面の危機に迫ったのが、『パルムドール』を受賞したスウェーデンのリューベン・オストルンド監督『スクエア』。人々に“利他主義”を促す広場を作ろうとした美術館キュレーターが、その為に窮地に陥るという不条理劇だ。人間の悪意を隠蔽する現代社会の欺瞞に、“政治的正しさ”だけで判断するエリートの思考停止…。オストルンドは、政治危機の根源にある現代人の意識を撃つ。ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督『ラブレス』は、離婚する夫婦の無邪気で無責任な行動を冷徹にリアルに描くことで、息子の疎外感を浮き彫りにする。ギリシャのヨルゴス・ランティモス監督『キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』は、負い目を抱えた医師が、患者の少年の呪いの為に家庭崩壊へと追い詰められる。共に現代人の孤立が痛々しい。危機にあるのはヨーロッパだけではない。不安は世界に広がっている。韓国のポン・ジュノ監督『オクジャ』は、山奥で飼われている巨大な豚と世話をしてきた少女の愛の物語だが、同時にグローバル資本主義の行き過ぎを告発する。人口爆発と食糧危機の克服の為、南米で発見された新種の巨大豚を世界の農家に肥育してもらうという多国籍企業のプロジェクトには、隠された秘密があった。ソウルのビル街を逃走する豚、ニューヨークの暗闇に蠢く豚、故郷の山の優しく賢い豚…。世界の不安と悲しみを巨大豚に形象化する、ポン・ジュノの傑作だった。


⦿日本経済新聞 2017年6月2日付掲載⦿
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