【誰の味方でもありません】(06) チェコの枯木灘

チェコのモラヴィア大草原に行ってきた。今、手元にスマホやパソコンがある人は是非、“モラヴィア大草原”と検索してほしい。見渡す限り新緑が波打つ大草原の写真が見られる筈だ。僕もガイドブックでその写真を見かけ、はるばるチェコまで出かけてきた訳だ。先ず、11時間のフライトでフランクフルト国際空港へ。そこでチェコの首都・プラハ行きの飛行機に乗り換える。プラハからはブルノという街へ高速列車で2時間半。更に普通列車に乗り換え、キヨフという田舎町に行く。約2日かけて辿り着いたキヨフ。駅から数㎞の場所に大草原が広がっている筈だった。しかし、いくら歩いてもガイドブックで見たような新緑は現れない。見渡す限り広がるのは、ささくれた荒野だ。ちょっとはマシな場所も、大草原というより、日本で見慣れた田圃のよう。更に、天候が追い打ちをかけた。空には厚い雲が広がり、小雨まで降り出す。新潮社の編集者に写真を送ると、“枯木灘”と言われる始末。確かに、草原に点在する枯れた木が、殺伐とした雰囲気に一役買っている。抑々、モラヴィア大草原はチェコ人からすれば観光地でも何でもないらしい。あるインターネット掲示板で、もの好きの外国人が「この写真のような美しい草原はどこで見られるのか?」と聞いていた。それに対して現地人らしき人が、「こんなの、チェコではどこでも見られる草原だけど」と呆れながら回答していた。

確かに日本でも、富良野のラベンダー畑等、外国人によって“再発見”された観光地がある。尤も、枯木灘には僕以外、誰もいませんでしたけどね…。「何でこんな場所に来てしまったのだろう?」と、インターネット上の草原写真をよくよく見返す。すると、多くの写真に加工が施されていることに気付く。今の時代、光線や色調を加工するのは非常に簡単だ。仕方なく、僕もアプリを使って、目の前の枯木灘をガイドブックで見たような“モラヴィア大草原”風にしてみる。すると! 驚くほどメルヘンチックな写真が完成してしまった。勿論、インスタには加工後の写真をアップする。これまで世界中の様々な観光地を訪れてきたが、事前に見た写真よりも現物が勝っていたことは、実は未だ一度もない。『モン・サン=ミッシェル』は只の田舎の城だったし、超高層ビルを見慣れた現代人は『サグラダファミリア』に行っても素朴には驚けない。考えてみれば当たり前だ。プロが時間をかけて撮影し、加工までした奇跡の1枚に、偶々訪れた観光客の肉眼が敵う訳がない。「ガイドブック以上の光景を簡単に見られる」なんて思うこと自体が間違いなのだ。だから、モラヴィア大草原に行ったことに後悔は無い。時間が経てば記憶は薄れ、写真という記録だけが残る。上手く記憶を改変する為に、加工前の写真は全て削除しておこうと思う。


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。


キャプチャ  2017年6月15日号掲載
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