【東京五輪後の地方経済を読み解く】(04) 「KPI(重要業績指標)が地方を殺す」――金井利之氏(東京大学大学院教授)インタビュー

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――政府の政策である『地方創生』の危険性を指摘されています。
「2014年9月、第2次安倍政権は“地方創生(まち・ひと・しごと創生)”を提唱しました。1990年代後半以降続く地方圏軽視政策を転換して、嘗ての“国土の均衡ある発展”体制に戻ることができるかもしれないと、地方圏関係者は期待したかもしれません。しかし現実には、森喜朗政権以降続く、デフレ経済・無成長経済下で分配がゼロサム化した“構造改革”体制=“国土の均衡無き停滞”体制がそのままであり、地方圏は軽視されたままです。“国土の均衡無き停滞”では弱肉強食の搾取が続きます。マクロ的に大都市圏の利益の為に地方圏への配分は減らされる形で、ミクロ的に地域間・自治体間のゼロサム競争という形で現れます。地方創生は、構造改革体制で現れてきた地域間の弱肉強食競争を、悪い意味で促進します。具体的に言えば、地方創生では地方分権に相応しい地方への一般財源総額を確保する意思がありません。僅かな金額の地方創生関連の交付金が付与されるだけです。しかも、“交付金”という名称ではありますが、実態は国が事業企画内容を検討して採否を決定する紐付き補助金に過ぎません。更に、バラマキにはならないようにと、計画・申請の段階からKPI(重要業績指標)の設定を求められ、PDCA(計画・実行・評価・対処)サイクルによる検証をやらされます。一見すると望ましいでしょう。しかし、短期で効果が上がるような地域活性化策はあり得ない。だから、KPIで効果の出るような近視眼的な事業は意味がなく、意味がある事業は短期的にはKPIで無駄遣いと批判される。抑々、自治体は以前から地域活性化策を行っています。成功する自治体は、国が政策を進めるか否かに拘わらず、成功しています。国に言われて取り組むような自治体が、成功する筈がありません。更に言えば、国は地域活性化のノウハウがある訳ではありません。国が今回の地方創生で弱内強食の競争を行わせ、求めているのは、地方圏における“成功”事例です。地方圏の大多数の地域・自治体が衰退・停滞しても、『“成功”した地域がある以上、国は役割を果たしている。衰退・停滞した地域・自治体は“自己責任”だ』という訳です」

――KPIについて、特に警鐘を鳴らしていますね。
「KPIには充分に警戒したほうがいいでしょう。不用意に数値目標を設定してしまうと、国は後になって数値目標を振り翳して、『お前のところは人口を増やすと言ったのに、減っているではないか』と詰め寄るかもしれません。そうなったら弁明の余地が無いのです。国の為政者は、そうやってKPIを使えます。国の役人が直接に言い難い場合には、マスコミに言わせます。或いは、コンサルタントや学者に言わせるのです。北海道夕張市では1980年代、炭鉱の閉山によって人口減少は避けられないと、“炭鉱から観光へ”とシフトする政策を打ちました。国の為政者は当時、タ張の政策を大絶賛したのですが、資金繰りが悪化して立ち行かなくなると、手のひらを返したように冷たくなりました。地方創生の行き着く先は危ないのです。頑張っている自治体でも、たとえ今褒められていても、後でハシゴを外される恐れがあるのです。最初から地方創生の土俵に上がらなければ、不必要に落とされることもないのです。自治体側がKPIを出すので、国側は『国が押し付けた訳ではない、自治体さんが自分で出したのです』と自治体に責任転嫁するでしょう。しかし実際には、自治体が自主的には決められません。自治体側が現実的で達成可能な“安全な低め”の数値目標を出すと、 国は『やる気が感じられない、頑張らないところは応援しない』等と言って突き返します。だから、喉から手が出るほどお金の欲しい自治体は、“大胆で高め”の数字を嫌々出させられるように追い込まれてしまうのです。国の為政者は、『自治体の人がやる気になって、大胆で高い目標を出した。やる気を大いに評価したい。だから、国も積極的に交付金で応援する。しかし、バラマキになってはいけないので、PDCAサイクルによってきっちり事後的に検証する』という訳です。中々難しいことですが、自治体の側は主体性を失わない範囲で、適当な“お付き合い”をするのが賢明でしょう」

20170619 05
――自治体側の問題は?
「“国土の均衡ある発展”体制時代の“国の政治家が責任を負う”という姿勢に、多くの自治体や国民も頼ってきました。しかし、国が地方を活性化できる訳がない。地域活性化には、地方が自分たちで行う内発的な発展が欠かせない。一部の自治体はそれに気付いたのですが、気付かない自治体もあった。そうした自治体は、“国土の均衡無き停滞”の“自己責任への転嫁”の時代に変わっても、『国が何とかしてくれる』と考えてしまった。心ある地方圏の市町村にとっては、平成の大合併(※2005~2006年にピークを迎えた市町村合併の動き)で大苦労をさせられ、今回の地方創生で、本音のところでは『またやるのかよ…』という感じだと思います。平成の大合併で、主に周辺部の町村が消滅しました。その次に、合併後自治体において、周辺町村から引き継いだ職員をリストラする集中改革プランをやらされました。周辺部の集落が疲弊しているところに、今度は地方創生と称する共食い競争です。地方創生事業は毒饅頭ですから、3~5年後には毒が回ります。しかし、饅頭を食べたいので、1億円でも100万円であっても交付金に飛び付く。自治体側の担当職員も、『3~5年後には、その場に自分たちはいない。今直ぐじゃないからお金だけ貰おう』と飛び付く。しかも、内発的発展をしてくることがなかった多くの地域では、自治体努力で成長が可能とは思えない。抑々、敢えて民間企業に就職をしなかった自治体の職員に、突然、ビジネスの才覚を求めるのは無理な話です。コンサルタントに丸投げです。結局、地方創生はコンサルタントの“仕事創生”に終わってしまう。コンサルタントは企業経営をしない人生を選んだ人々ですから、勿論、地域再生はできません」

――“国土の均衡無き停滞”体制の行きつく先は?
「政府は“成功”事例を地方に提供させ、それ以外の地域・自治体には“失敗”の烙印を押す。その上で、困っている地域・自治体に対して、財政移転と引き換えにアメリカ軍基地や廃棄物処分場等の迷惑施設の受け入れや、大都市圏の富裕層や若者にとって重荷と感じる日本版CCRC(生涯活躍のまち)と称する老人地方移住・収容施設の受け入れ等を促すようになる。そして、大いなる地域間不均衡のあるボロ切れのような国土空間になるでしょう。大半の放棄・放置され荒れ果てた国土に、一部の“成功・繁栄”しているムラが点在している。それも多くは、危険負担との引き替えの虚飾の“成功・繁栄”…。これが予想し得る帰結ですね。ゆるキャラブームの時に、石破茂氏(※前地方創生担当大臣)の地元で、鳥取城跡のPRキャラクターとして“かつ江さん”がいました。ツギハギだらけの着物を着た血色の悪い顔をした痩せ細った女性で、鳥取城で実際に起きた“鳥取の渇え殺し”をモチーフにしたキャラクターで、次点に選ばれて注目が集まりました。16世紀に豊臣秀吉が残虐な兵糧攻めを行った際を描いたものでしたが、苦情が殺到。僅か3日で公開停止となったものですが、地方の現状を表しているキャラクターだと思いますね。本来、国の政策のあるべき姿は、セーフティーネットを整備することです。一国の経済では、好調な地域とそうでない地域が必ずある。悪いところなりの住民生活を続けられるように、公共サービスの在り方を工夫するということでしょう。今後の日本の場合、成長が限られている中で次々と問題が出てくる。何とか国の税金を少なくても公平に配分していくのが政治ではないか? ところが、『滅びるのは、地方創生で頑張れなかったからだ。お前が悪かったからだ』という自己責任への転嫁をする。これは政治ではない。これは、突き詰めれば政治家の心と想像力が貧しいからです。嘗ては地方にきちんと根を持って、地域住民を思いやる政治家が沢山いた。今は彼らの2世・3世の時代です。選挙区地盤は地方にありながら、実際には東京育ち・東京暮らしの政治家も多い。官僚も地方出身は減った。政治行政の国の為政者は、地方圏を代弁しているとは言い難いのです」 (聞き手/本誌編集部)


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