【Global Economy】(41) TPP漂流、強かなオーストラリア…対日輸出、EPAで優位に

オーストラリアが、牛肉や果物等の対日輸出で攻勢をかけている。2015年1月に日豪の『経済連携協定(EPA)』が発効して関税削減が進んだことで、ライバルとなるアメリカやニュージーランドより有利になった。世界の自由貿易体制が揺らぐ中、オーストラリアは強かさを見せている。 (本紙ジャカルタ支局 一言剛之)

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オーストラリア南西部の地方都市・アルバニー。地平線まで広がる牧場で、約1600頭の黒毛牛が牧草を食んでいた。主に子牛を育てている畜産農家の牧場で、大半の牛は嘗てアメリカに輸出された和牛の子孫だ。経営するピーター・ギルモアさん(57)は、「日本の農家を何度も訪問し、ノウハウを学んできた。関税が引き下げられた今こそ、子牛の出荷を増やしたい」と意気込む。母牛が妊娠した時から綿密な栄養管理を行う。子牛に与える穀物を細かく砕いて消化し易くする等、手間をかけている。日豪EPAの発効で、300㎏以下の子牛1頭当たり3万8250円かかっていた関税は、現在は3万600円となった。輸送費はかかるが、日本に出荷すればオーストラリアの国内価格の5倍近い値段で売れるという。スティーブン・チオボー貿易観光投資大臣は今年4月、「オーストラリア産品の競争力は際立っている」との声明を発表した。昨年の対日輸出額は、発効前の2014年と比べ、牛肉は22.5%増、ニンジンが約6倍になった。5183.5%増(約53倍)になった生食用葡萄は、“タイプミスではない”との注釈を加え、成果を誇った。背景には、アメリカのドナルド・トランプ政権の『環太平洋経済連携協定(TPP)』離脱表明で、アジア太平洋地域の貿易の構図が様変わりしたことがある。TPP発効が見通せなくなったことで、既に日豪EPAを結んでいるオーストラリアは、関税引き下げの恩恵を最大限生かす戦略だ。日豪EPAにより、スーパーマーケット等に並ぶオーストラリア産冷蔵牛肉の関税は、発効前の38.5%から現在29.9%に下がった。毎年少しずつ引き下げられ、15年目に23.5%になる。

一方、アメリカ産やニュージーランド産の牛肉の関税も、TPP発効時に27.5%、16年目以降に9%に下がる筈だったが、TPPが頓挫し、38.5%のままだ。昨年のオーストラリア産牛肉の輸出は、干ばつ等で価格が上昇して苦戦したものの、今後は日本市場で攻勢をかける考えだ。葡萄や胡桃等の業界団体が次々と来日し、日本の小売店やレストランにアピールしている。先月下旬に訪日したオーストラリアの『全国柑橘類産業協会』のジュディス・ダミアーニCEOは、「先行して日本市場への浸透を図る」と上機嫌だった。尤も、オーストラリアにとっても、TPPの漂流は望ましいことではない。TPPが発効すれば、巨大市場であるアメリカへの砂糖の輸出増が期待できる他、各国へのオーストラリア産ワイン等の輸出拡大に弾みがつく筈だった。『国際通貨基金(IMF)』によると、オーストラリアの今年の実質国内総生産(GDP)成長率見通しは3.1%と堅調だが、鉄鉱石や石炭等の資源価格に左右され易い。人口約2400万人の国内市場も、それほど拡大が望めない。近隣のアジア各国と比べて人件費は大幅に高く、『トヨタ自動車』は今年10月にオーストラリアでの生産から撤退する予定だ。オーストラリア政府が成長産業の1つとみているのが、広大な主地と豊かな四季という環境に恵まれた農業等の1次産業だ。アジアとの距離の近さを生かし、高品質・高付加価値の食品輸出を拡大する計画を描いている。在日本オーストラリア大使館のブレット・クーパー公使は、「品質への拘りの強い日本は、チャンスが大きい。EPAの関税メリットを最大限生かし、シェアを伸ばしたい」と意気込む。オーストラリアは戦後、イギリスの後押しを受けて発展し、1960~1970年代は日本、現在は中国と、経済大国への輸出で成長してきた。オーストラリアにとって最大の貿易相手は中国だ。昨年は、物品・サービスの輸出額全体の28.2%を占め、2位の日本(11.7%)と3位のアメリカ(6.3%)の合計を上回った。オーストラリア国内では、中国人による土地の買い占め等を警戒する声が強まっている。昨年には、中国企業によるオーストラリアの大型牧場の買収計画に対し、オーストラリア政府が「国益に反する可能性がある」として計画を見直させた。また、中国人バイヤーによる買い占めで、オーストラリア国内の粉ミルク不足が社会問題化した事例もあった。独協大学の永野隆行教授(オーストラリア外交)は、「近年は中国依存が強まり過ぎることへの懸念が広がり、日本や(中国以外の)アジアとの経済関係を再強化しようとしている」との見方を示している。

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■自由貿易戦略、各国練り直し
TPP発効が見通せなくなったことで、各国が戦略の練り直しを迫られている。日米等への乳製品の輸出拡大を見込んでいたニュージーランドは今年4月末、中国と『自由貿易協定(FTA)』の改定交渉を開始した。2008年に結んだ現協定を大幅に見直し、農畜産業・観光・電子商取引等の分野で経済関係を深める考えだ。ニュージーランド政府は、2030年までに貿易の90%以上をFTAでカバーする方針を掲げ、中国の他、『ヨーロッパ連合(EU)』・東アジア諸国・湾岸諸国等と交渉を進めている。TPP参加国であるメキシコ、チリ、ペルーにコロンビアを加えた4ヵ国で作る『太平洋同盟』は、日中韓等のアジア各国との経済関係の強化を模索している。チリやペルーはオーストラリアと同じ南半球で、農産物の出荷時期が重なる。太平洋同盟には日本もオブザーバーとして加わり、動きを注視している。日本にとっては、日豪EPA発効で、5%かかっていた自動車関税が撤廃され、オーストラリアへ輸出し易くなる利点が大きかった。農業大国であるオーストラリアとEPAを結んだのは、TPP交渉でアメリカの譲歩を引き出す狙いもあった。「2015年1月の日豪EPA発効、同10月のTPP大筋合意という流れで、日本経済の活性化に繋がる」との期待が広がった。アメリカのTPP離脱は、自由貿易戦略を進める日本政府にとって誤算だった。この為、アメリカを除く11ヵ国でTPPを発効させる道を探っている他、EUとのEPA交渉に本腰を入れている。一方、『アメリカ食肉輸出連合会』は「日本市場で取り残されてしまう」(フィリップ・セング会長)と危機感を強める。日本の牛肉市場で、アメリカとオーストラリアはライバルだからだ。今年4月に始まった『日米経済対話』では、日本側は「TPPを上回る農業市場開放は絶対にしない」(農水族議員)との立場だが、今後、アメリカ側の圧力に苦慮する場面も出てきそうだ。


⦿読売新聞 2017年6月16日付掲載⦿




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