【Deep Insight】(23) 反グローバルに克つ経営

シンガポールの自宅で、著名投資家のジム・ロジャーズ氏(74)が怯えていた。「世界が至るところで遮断し始めている。ここまで酷いのは生まれて初めてだ」。同氏はオートバイで世界を旅した投資家で、世界を見渡す視野の広さに定評がある人物だ。経済グローバル化の信奉者でもある。ブレグジットの衝撃が世界を襲った昨年6月にも、「経済は常に政治の壁を越える」と楽観的だった。見方は正反対に変わった。そこまで強まった反グローバル化の逆風を突破する企業はどこか? 同氏は語る。「歴史を勝ち抜いてきた会社にヒントはある。1896年にダウ工業株平均ができて以来、構成銘柄を続けている会社が1社だけあるだろう?」。そう、『ゼネラルエレクトリック(GE)』である。GEのジェフリー・イメルトCEOは、奇しくも昨年5月、高まる保護主義を躱す“地産地消”の経営を打ち上げて話題を攫った。輸出に頼るのではなく、顧客の近くでモノを作る戦略に転じる。目指すのは、外国に嫌われない経営だ。同社の主力は発電を始めとするインフラ事業で、特にインフラが不足している新興国では展開すること自体が歓迎され易い。単なる雇用だけでなく、技術の移転や人材の育成も進めていく。そんな会社に嫌がらせをする国は考え難い。アメリカの利益にもなる。ソフトパワーは強まろう。また、中枢神経であるインフラの詳細を握り、メンテナンスにも欠かせない企業の母国を敵にしたくない筈だ。「我々が世界で勝てばアメリカにも貢献できる」。イメルトCEOは今年2月、株主への手紙で訴えた。「人々がグローバル化に失望した背景には、企業によるエゴ丸出しのグローバル戦略がある」と筆者は思っている。バングラデシュの首都・ダッカ近郊の街・サバールは、企業の進出先の暗部を象徴する場所だ。2013年、外国メーカーの下請け等の縫製工場が入居していた8階建ての『ラナプラザ』が崩壊し、1100人以上が犠牲になった。コストを惜しんで無理な増築を重ね、脅迫までして働かせていた劣悪な労働環境が表面化した。母国の暗部は、アメリカの5大湖に近い『ラストベルト(錆びた工業地帯)』と呼ばれる地域が象徴する。自動車等の企業は、工場を低賃金のメキシコに移転した。人々の不満は、豊かな西海岸にも向いた。インターネットが元はアメリカ軍の技術だったように、国民の税金を投じた研究開発の成果は大きい。ハイテク企業はその果実で稼いでいるのに、利益を還元せずに税率が低い海外に移している――と。

社会的な共感を呼ばない経営は、短期的な株主を喜ばせても長続きするとは思えない。だからこそ、GEがその目論見通り、進出先にも母国にも歓迎されるかどうかは注目に値する。追い風は、あらゆるモノがインターネットに繋がる“IoT”やロボットの普及だ。イメルトCEOの地産地消論には、「現実離れだ」という批判が付き纏った。筆者も、世界的な経営学者から「本気で考えているのなら彼は愚かだ」と解説されたことがある。「市場毎に工場を作ればコスト倒れになる」。発電向けのタービンを始め、巨額の初期投資が必要な事業がGEには多い。だが、この学者の考え方は古くなり始めている。ロボットの普及は、生産コストを大幅に低減する。IoTで売れ行きに合わせて生産量を調整したり、世界に散らばる設備を外国から一括して操作したりできればもっと下がる。これまでのように、賃金の安い国で大量に生産して世界に輸出する方法でなくても、収益を確保できる時代はもう来ている。低コストを目指してアジアを転々としてきたドイツの『アディダス』は、母国を筆頭に、消費者のいる先進国へと生産拠点を移し始めた。自前でなくとも、進出先の企業と組んで反グローバル化に克つ企業も増えるに違いない。筆者がこの点で最も注目している企業は、アメリカの『マクドナルド』だ。同社は今夏、中国事業を中国最大の国有複合企業である『中国中信集団(CITICグループ)』に売却する。しかし、2400に及ぶ店舗を運営する新会社の株式の20%を保有する他、フランチャイズ契約による収入もある。中国での事業がCITIC傘下で拡大するほど、マクドナルドも潤う。マクドナルドは、中国市場に精通するCITICの力を借りて、出店等で素早い決定を下せる。が、公式には表明していないメリットもある。反米感情を躱すのだ。南シナ海問題で米中の緊張が高まった昨年、中国の店舗は抗議活動の対象となり、売り上げが落ち込んだ。だが、オーナーが国有企業なら事情は変わる。尖閣諸島の問題で日本企業への抗議が盛り上がった際、CITICが出資した日本メーカーの工場は“CITIC系企業”と門に掲げて難を逃れた。「我々はグローバル企業だ」。CITICの投資部門を率い、新会社の会長に就任する張懿宸氏は、新会社の国籍を敢えて曖昧にする。「経営は国境を越えるのか?」。グローバル化全盛、つまり世界がフラット化すると言われた2006年頃まででさえ、この問いは世界の経営者を悩ませ続けた。グローバル化に急ブレーキがかかったことをきっかけに始まった企業の試行錯誤が、皮肉にも解答を生み出そうとしている。 (本社コメンテーター 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2017年5月24日付掲載⦿
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