【Korea Risk】(04) 生き残りを賭けた金正恩のロジック

20170620 10
「北朝鮮は狂った国だ」と誰もが決め付けたがる。最高指導者の金正恩国務委員長は「アメリカ本土への核攻撃も辞さない」と脅しをかける一方で、軍高官を次々に処刑。異母兄まで暗殺し、残忍さを見せつけた。しかも、破綻した経済モデルにしがみ付きつつ、核開発には湯水のように資金を注ぎ込むありさま。このところ、アメリカのメディアは連日、北朝鮮の“狂った暴走”を伝えている。問題は、アメリカの政策立案者まで北朝鮮と金正恩を“狂った国”・“狂った指導者”と決め付けたがることだ。それでは北朝鮮という国を理解できないばかりか、そうした見方に基づいて北朝鮮政策を立案すれば、破滅的な事態を招きかねない。確かに、外から見れば、金日成・金正日・金正恩と3代続く金王朝の支配体制は異様としか言い様がない。だが金一族は、政治的な生き残りにかけては究極の巧者だ。“権力の座に留まる”――ただその目的の為に、冷徹且つ合理的に判断を下す。彼らを狂人と見做すのは過ちであるばかりか、危険でもある。スターリン主義の愚かしさを絵に描いたような金一族は、1980年代には社会主義諸国にもバカにされていた。時代遅れの個人崇拝と計画経済にしがみ付く彼らは、「東欧の改革派の指導者を見習え」と言われたものだ。それが今では、当の改革派指導者は忘れ去られているが、金一族は依然として権力をほしいままにしている。

ここ25年ほど、彼らが苦境に曝されたのは確かだ。大規模な飢饉で国民が食糧難に喘ぐ一方、国際的にはほぼ孤立状態に陥り、唯一の同盟国である中国にも次第に見放され、超大国のアメリカと自力で対峙しなければならなかった。そんな窮地を乗り切ってきたのも、彼らが体制維持の為に合理的に考え、あらゆる手段を講じてきたからだ。金正恩も、父や祖父と同様、自分と自分の血を引く後継者が支配する北朝鮮の現体制を維持していく為に知恵を絞っている。体制維持を脅かす要因は3つある。彼はこの3つを認識し、それらを無害化する為に着々と手を打っている。第1の脅威は外国の攻撃。父と同様、金はこれを恐れて眠れぬ夜を過ごしている筈だ。只のパラノイアではない。イラクのサダム・フセインや、アフガニスタンの嘗てのタリバン政権の運命を見るといい。何れも北朝鮮と同様、アメリカ政府に“ならず者”と呼ばれた国々だ。中でも金一族が肝に銘じたのは、リビアの独裁者であったムアマル・カダフィの悲惨な最期だ。金正恩にとって、核開発は彼らの二の舞にならない為の手段だ。韓国を制圧できるなら勿論したいだろうが、どう考えてもそれは不可能だ。アメリカ軍が韓国を支援するからだが、経済でも技術水準でも今の北朝鮮は韓国に到底敵わない。それでも核があれば、大国に攻撃されたり、国内で反乱が起きた時に介入されたりする心配はない。核を保有するだけでなく、核があることを世界に度々思い出させ、リチャード・ニクソン元大統領の“狂人理論”――この国は予測不可能だから、迂闊に手を出せないと相手国に思わせる戦略を使うことも有効だ。その他の金の如何にも狂人じみた政策も、本質的には保身の為とみるべきだ。核兵器だけでは体制を維持できない。外国の攻撃は抑止できても、第2の脅威、つまり国内の軍事クーデターを防ぐ手段にはならない。金正恩が疑心暗鬼になるのも無理はない。若くて未熟な彼の支配に、軍高官が不満を募らせている可能性は大いにある。「クーデターを防ぐ最も確実な手段は恐怖支配だ」と金は考えている。彼の指導下で、軍と警察幹部の処刑は史上最多を記録した。著名な将軍が次々に消され、軍参謀長や人民武力部長(※国防大臣)まで粛清の対象になった。だが、金を倒すのは軍高官とは限らない。第3の脅威は国民の蜂起だ。北朝鮮の抱える最大の間題は、経済の停滞に他ならない。1940年代には、北朝鮮は東アジアでは日本に次ぐ工業国だったが、その後のお粗末な経済運営で今や見る影も無い。中国を見習って経済改革を進めようにも、韓国との圧倒的な所得格差が大きな障害になる。中国の場合は恵まれていた。台湾は小さ過ぎて、体制転覆の脅威にはならないからだ。北朝鮮が中国の“改革・開放”政策を踏襲すれば、これまで情報を遮断されていた国民が、信じ難いほど豊かで、政治的にもより自由な韓国の人々の暮らしぶりを知ることになる。人々はあらゆる問題を一夜にして解決する方法として、韓国主導での南北統一を求めるだろう。つまり、北朝鮮が改革・開放に踏み切れば、中国のような高度成長は齎されず、嘗ての東ドイツのように体制崩壊に繋がる可能性が高いということだ。

20170621 07
金正恩の亡父・金正日は、このリスクをよく理解しており、改革を慎重に避けていた。それでも、金正日時代の末期には、個人事業は表向き違法でも概ね黙認されるようになり、GDPの推定25~40%を占めるまでになった。“下からの資本主義”が現体制を揺さぶることを警戒してか、金正恩は2012年から2014年にかけて中国式の経済改革を少しずつ導入し始めた。農家は現物での納税(※35%以下)をすれば、残りの収穫を自分たちのものにできるようになった。工場の管理責任者にも、市場価格での仕入れと出荷人事等でのより大きな経営権限が与えられた。民間企業や闇市場の事業者も当局の嫌がらせを受けなくなり、投資を奨励されるようになった。こうした政策のおかげで、経済は再生した。大半の専門家は、「近年では北朝鮮経済は3%、或いはそれ以上の成長を遂げている」とみている。飢饉の時代は終わり、人々の生活は目に見えて良くなった。民間投資が建設ブームを呼び、商店やレストランは新興成り金で賑わっている。しかし、金の改革は政治的な開放を伴っていない。文化・思想面では今もスターリン主義が幅を利かせ、人口2500万人に対し、収監中の政治犯はざっと8万人と、世界でもずば抜けて政治犯の拘束率が高い。金正恩は、「経済成長と政治的な統制の組み合わせで国民を手懐けられる」と考えているようだ。これは誤った政策かもしれないが、彼の立場からすれば理に適った判断だ。金正恩の政策は、現体制の安定に繋がるだろうか? 彼の政策の大半には本質的なリスクがある。核開発はアメリカの先制攻撃を招きかねないし、粛清の嵐は軍高官を謀反に駆り立てかねない。だが、リスクがあっても不合理とは言えないし、他の選択肢はそれ以上に危うい。しぶとく生き延びてきた王朝は、そう簡単には滅びそうにない。 (北朝鮮問題専門家 アンドレイ・ランコフ)


キャプチャ  2017年5月16日号掲載




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テーマ : 北朝鮮問題
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