【Deep Insight】(24) 好況のG7、迫る真の試練

筆者にも中々実感が湧かないが、世界の景気は目下、着実な追い風を受けて巡航中のようだ。国際政治を巡る混乱を乗り越え、企業や市場の心理にも強気が窺える。先進国と新興国の成長が共鳴し、程よい環境にある。『国際通貨基金(IMF)』は、2017年の世界経済の成長率が年3.5%、2018年は3.6%に上向くとみる。ITを軸とする製造業で、グローバルに堅調な動きがある。新興国の不振組だったロシアやブラジルが、2017年にマイナスからプラス成長に転じ、同時好況の様相になっている。「世界経済は絶好調に近い」と『みずほ総合研究所』チーフエエコノミストの高田創氏は表現する。無論、手放しの楽観ではない。2016年の世界は、中国発の市場混乱に始まり、低成長・低金利・低インフレの3つに悩まされた。その後遺症で下がった経済の実力からみれば、“出来過ぎ”にみえるという訳だ。今まで低成長の代表格だった日本とヨーロッパが堅調。今年1~3月期の日本の国内総生産(GDP)は、年率換算で前期を2.2%上回る。同じ時期、ユーロを使うヨーロッパ19ヵ国の成長も年率1.8%だ。一方のアメリカは0.7%成長に留まるが、“ソフトパッチ”と呼ばれる一時的な減速との見方が多い。居心地の悪くない経済状況の下で、26・27日の主要国首脳会議(タオルミナサミット)に、イギリス、アメリカ、フランスの新しい首脳が勢揃いする。ベテラン組のアンゲラ・メルケル首相(ドイツ)や安倍晋三首相(日本)ら首脳にとって、今回は目先の問題だけでなく、5年・10年先を見渡した課題に踏み込んで議論する時だ。経済や市場が安定路線を外れて困難を抱えると、どうしても短期の対応に追われてしまいがちだ。第1の試練は貿易問題だ。今回のサミットで最大の焦点になる。自国優先主義を掲げたアメリカのドナルド・トランプ政権は、中国・日本・ドイツ等に対する貿易赤字の削減に強い関心を示すだろう。『環太平洋経済連携協定(TPP)』と決別し、『北米自由貿易協定(NAFTA)』を自らの都合の良いように書き換えようとするアメリカの一方的な動きは、世界の貿易を収縮させる方向に働く。アメリカの独走を牽制する場は、互いに価値観を共有する西側諸国の主要7ヵ国(G7)という枠組みをおいて、他に中々見つからない。先ずは日欧が協力して、貿易戦争とも呼べる事態を食い止めるのが大切になる。2番目に重要なのが、国境や地域を超えて拡散する大規模な危機への備えだ。1997年には、タイ・韓国・インドネシアといったアジアの金融危機が起きた。2008年には、『リーマンブラザーズ』の破綻に伴う世界金融危機が大恐慌以来の混乱を招いた。

経済や市場の大きな混乱が、約10年の間隔で繰り返し発生している。“10”という数字自体に確たる根拠は無いとしても、リーマン破綻に代わる地球規模のショックがそろそろ起きないかどうか、前兆に注意を向ける必要がある。最たるものは、やはり中国経済だ。今月6日付の本紙が伝えるように、人民元相場の急落を防ぐ為の中国政府の資本規制で、閉じこもったマネーが中国内にだぶついている。アメリカの『連邦準備理事会(FRB)』が政策金利の引き上げを進めており、中国からアメリカへの資金流出、そして元安が起き易い地合いがある。その圧力を資本規制を敷いて押さえ込もうとすると、不動産や株式等資産価格の上昇や、民間債務の積み上がりといったバブル現象が中国内で過熱する。『中国人民銀行』が沈静に動く一方、秋に最高幹部の人事刷新が予想される中国共産党大会を控え、景気の冷やし過ぎもいけない。微妙な舵取りが宿命付けられた。“ブラックボックス状態”となった中国経済への疑念も浮上する。景気回復による建設需要増等を見越して、一時は上がった中国の鉄鉱石の輸入価格は、先月急落した。港湾での鉄鉱石在庫は、過去最高の水準を更新し続けている。1980年代後半のバブル崩壊を知る日本の有力エコノミストは、今の中国と当時の日本を重ね、懸念を募らせている。第3の試練は、日本を始め、各国自身の経済の強化だ。世界の同時好況に慢心せずに、経済や財政の体質を今良くしておかないと、苦境に対処する手段を失う。アメリカの景気回復局面は、来月で丸8年・96ヵ月となり、1980年代以来の平均95ヵ月を上回る。トランプ政権の減税や積極財政が効いて更に長引いたとしても、どこかで循環的な回復は頭打ちになる。アメリカで景気後退となれば、日本もヨーロッパも自国経済への悪影響を防ごうと動く筈だが、対策は限られる。日本の金融政策は、物価上昇率2%という目標の達成に苦戦し、マイナス金利や長期金利を0%前後に抑える超金融緩和の手仕舞いは今も見通せない。次の苦境の局面で金融緩和を追加するのは、一段と狭い道となる。財政出動の大盤振る舞いで景気を刺激する余裕も乏しい。今回のG7サミットには、“グローバル化に取り残された人々との格差を直す”という新しい役割が加わる。並行して、生産性の向上や大胆なイノベーション(技術革新)を後押しする規制改革や構造改革も、国の経済を形作る重要な課題だ。景気持ち直しで条件が有利な時こそ、進められる改革がある。ここをサボると後が苦しい。 (本社コメンテーター 菅野幹雄)


⦿日本経済新聞 2017年5月26日付掲載⦿
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