人は何故“陰謀論”にハマるのか?――“都市伝説”と区別が付かず何でもありの状況に

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今年4月、アメリカ軍によるシリア空爆に続き、北朝鮮への攻撃が取り沙汰された。そんな緊迫した国際情勢の中で、奇妙なことが起きている。メディアのニュースより、“陰謀論”に耳を傾ける人が増えているのだ。実際、今年3月17日に発生した金正男暗殺事件で最も盛り上がっていた話題は“偽物”説だった。『森友学園』問題でも“CIA関与説”が飛び交った。森友“100万円発言”が炸裂したのは、今年3月半ば、アメリカのレックス・ティラーソン国務長官来日前後のこと。そこでアメリカから揺さぶりをかけられてブルった安倍晋三は、その後のシリア空爆も真っ先に容認。北朝鮮攻撃にも自衛隊の全面協力を申し出た――という説である。こうした陰謀論は表立って話題にするものではないし、事実、これまでは無視される傾向があった。それが突如、大手を振って乱れ飛ぶようになっているのだ。理由ははっきりしている。昨年の“トランプショック”だ。周知の通り、大手メディアは「ヒラリー・クリントンの大統領当選は確実」と散々垂れ流してきた。それが一転、ドナルド・トランプの劇的勝利である。世界で最も関心の高いアメリカ大統領選挙で、あれほどの醜態を見せた以上、メディアへの信用は地に堕ちる。代わって株を上げたのが陰謀論であった。実際、トランプの勝利を予想する陰謀論系の論客は多かった。副島隆彦は大統領選最中の去年6月、『トランプ大統領とアメリカの真実』(日本文芸社)で自らの予想を的中。ベンジャミン・フルフォードも去年の選挙中から自身のブログやインタビュー等で「ヒラリーの当選は0%、トランプ政権は50%の確率」と断言。単に逆張りしただけだとしても、大手メディアが一切取り上げなかったアメリカ保守層のトランプ人気を紹介し、それなりの根拠も示していた。大手メディアより遥かにマシな分析であったのだ。

驚天動地な出来事に、既存のメディアは説明する“文脈”を持っていないのだ。こうして、多くの人々はその理由を陰謀論へと求めるようになった。如何わしい・胡散臭いとされてきた陰謀論が、トランプ政権樹立を期に“市民権”を得てしまったのだ。「確かに、都市伝説は今年に入ってから空前の広がりを見せています」。そう語るのは、都市伝説のオーソリティーこと山口敏太郎氏(※左上画像)である。1990年代から都市伝説研究をしてきた山口氏をして、現在のブームは異常だという。「うちの事務所に“都市ボーイズ”という若手芸人のコンビがいるんですが、彼らが都市伝説のライブをすると若い女性が殺到してキャーキャー騒いでいる。“フリーメイソン公認”のバッグを付けた宝島社の女性ファッション誌がバカ売れするなんて、一昔前じゃ考えられませんよ。完全に市民権を得たと言っていいでしょう」。その一方で山口氏は、現在の都市伝説ブームに危惧を抱いている。「今の都市伝説ブームの中心は明らかに陰謀論です。本来、都市伝説と陰謀論は別のジャンルなんですが、それが融合した挙げ句、今や主流となってしまった。これは非常に怖いことだと思っています」。一体、どういうことなのか? 山口氏は「ちょっと下品ですが」と言いながら、1980年代に流行った有名な都市伝説をサンプルに挙げた。“柏原芳恵の大人の玩具”伝説である。当時、人気絶頂のアイドルだった柏原芳恵が、空港の手荷物検査に引っかかり、荷物を改めると“大人の玩具”が見つかったという内容で、彼女のウィキペディアにも紹介されているほど広まった都市伝説だ。「ここでポイントなのは、元々、このネタは色んなバージョンがあって、複数のアイドルや女優の名前が挙がっては消えて、最後に彼女へと集約している点なんです。不特定多数が噂話をしていくことで、最もウケのいい“面白い”バージョンが取捨選択される。これが都市伝説の正しい在り方で、実際、柏原芳恵のチョイスは、彼女の雰囲気や当時のポジションからして実に絶妙でしょ? ある意味、面白過ぎるからネタっぽくなり、簡単に嘘とわかる。このネタで、彼女のイメージダウンにはならないんです」。謂わば、本来の都市伝説は、完成度が上がるほど“毒”が抜けていくというのだ。ところが、陰謀論は違う。完成度が上がるほど“毒”が高まり、憎しみが増していく。「それは、陰謀論が“事実”をベースにしているからです」と山口氏は説明する。「例えば、宇宙人のアブダクション(誘拐)は、宇宙人が実在するかどうかは別にして、誘拐された人の証言自体は“事実”として扱います。世の中には、こうした裏付けの取れない“証言”をベースにした情報群があって、とんでもない証言内容だろうが、そう証言したのは“事実”と扱うのが陰謀論なのです。“事実は小説よりも奇なり”と言いますか、たとえ荒唐無稽な内容になろうが、実在の証言をベースにしているから、“何でもあり”で成立しちゃう訳です」。先の柏原芳恵の都市伝説なら笑えるが、これを皇族の誰かに当てはめれば洒落になるまい。だが陰謀論では、「それを見た」という実在の証言があれば成立する。とはいえ、いくら陰謀論だろうが、そんな“証言”をすれば名誉毀損で訴えられる。実際、“ユダヤの陰謀”や“フリーメイソンの陰謀”と記せば、これらの組織が実在する以上、やはり名誉毀損なり損害賠償なりの対象となる。それが、陰謀論を語る上での一定の歯止めになってきた訳だ。

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問題はここからだ。2000年以降の都市伝説ブームは、この陰謀論を都市伝説に融合させることによって引き起こされる。それが、『やり過ぎコージー』(テレビ東京系)でブレイクしたお笑い芸人の関暁夫(※右画像)であろう。『Mr.都市伝説 関暁夫の都市伝説』(竹書房)のシリーズは、累計で100万部のベストセラーとなった。ブームの第一人者と言っていい。関は、これまで散々語られてきた陰謀論を都市伝説に置き換えた。先に説明したように、都市伝説は“嘘”が前提となる。“嘘話として陰謀論を語ることで訴訟のリスクを避ける”というビジネスモデルを編み出したのだ。これがどれほど効果的か。2012年11月、関は同番組のコーナー“やり過ぎ都市伝説”において、ビル・ゲイツの陰謀を採り上げた。『ビル・メリンダ財団』が推進する子宮頸癌ワクチンに“不妊化”させる成分が入っており、ビル・ゲイツが『フリーメイソン』の一味であり、人類を家畜化する為の陰謀を行っている――と、ゴールデンタイムの地上波人気番組で扱ったのだ。下手すれば億単位の訴訟事案だろうが、“信じるか信じないかは貴方次第”と嘘を前提にした都市伝説を強調しておけば、お咎め無しとなる。事実、『マイクロソフト』日本法人はすぐさま抗議したものの、放送したテレビ東京は「DVD化はしない」というだけで一切の謝罪や訂正もせず、お茶を濁している。繰り返すが、陰謀論は“事実”を前提に実在の組織や人物を扱う為、それなりの注意が必要であった。それが、嘘を前提にした都市伝説と融合させることで、いくらでも“ネタ”を扱えるようになったのだ。メディアとしては、これほど美味しいネタはないので、2010年代にかけて空前の都市伝説ブームが起こったのも当然であろう。

扨て、いくら都市伝説というパッケージに包んだところで、陰謀論は“隠された真実”というスタンスを持っている。何より、陰謀論は「誰が悪いのか?」「誰の仕業なのか?」をテーマにしている。当然、その陰謀論の出来が良ければ良いほど、“事実”として受け止める人も増え、それを信じた人にすれば当然、悪の対象を憎むことになる。陰謀論は“ヘイト”装置という側面があるのだ。更に、都市伝説がブームになったことで、陰謀論のスタイルにも変化が起こる。従来の陰謀論は、裏付けの取れない証言を基にした情報群から、辻棲が合う“ストーリー”を構築してきた。ユダヤ金融やフリーメイソン、昨今では『ダビンチコード』で有名となった秘密結社の『イルミナティ』といった漠然とした集団を“悪の組織”にしてきたのは、無関係な情報を繋ぎ合わせ易いからでもある。ところが、都市伝説と融合し、嘘が前提となれば、そんな面倒なことをせずとも、ターゲットとなる“悪者”を決めて、実在の事件や騒動を絡めて不確定情報を盛り込めばいい。今はインターネット社会だ。そうした情報を検索すれば、いくらでも“疑惑”は転がっている。都市伝説なので、裏付けを取る必要もない。そして、面白ければインターネットを通じて拡散し、その拡散の過程で更に枝葉が付き、より信憑性が高まる方向へと進化する。こうして、適当にでっち上げた陰謀論は、次第に完成度を高めていく。完成度が高まれば、対象への憎しみもまた強まる。完成度が高まることで“毒”が抜けていく本来の都市伝説と違い、“毒”がどんどん強まっていくのだ。それがどれほど危険なのか。「何れ、第2・第3のオウム事件が起こりますよ」。そう断言したのは上祐史浩氏であった。別件の取材(※『本当にヤバい!! 昭和の“都市伝説”大全集』・宝島社)で、“オウム事件とオカルト”について元幹部の上祐氏を取材した。本人は子供の頃からUFOが好きで、「オカルト雑誌の“ムー”(学研)を愛するマニアだった」と笑いながら語っていた。その彼が、『オウム真理教』におけるオカルトについて問うと、表情が一変、強い口調でこう切り出した。「麻原彰晃は、“ノストラダムスの大予言”を信じていた生粋のオカルトマニアだった。そして、“悪の秘密結社”であるフリーメイソンの存在を疑わず、『このフリーメイソンと戦う超能力戦士こそオウムの信者である』と位置付けていた。それがハルマゲドンであり、麻原の言葉を信じてロシアから武器を買い漁り、フリーメイソンに加担する(と信じた)人々を暗殺し、挙げ句、ハルマゲドンを起こすべくサリンテロを行った」。超能力戦士と信じ込ませる為にLSDを密造し、その幻覚で超能力戦士と煽ってきたらしい。更に、「オウムのような閉鎖された世界だと、麻原彰晃の“妄想”に皆が取り憑かれて、その“妄想”はどんどん強くなり、それを疑う信者はいなくなっていた」と、当時の教団内部の状況を説明する。

「私もインターネットとかを見て、今、陰謀論が溢れているでしょ? 本当に危険だと思いますよ。インターネットで自分が“信じたい情報”ばかり接していれば、教団末期のようにどっぷりとハマる。そうなれば、麻原のように一定方向に煽る人物が出てくれば、どうなるのか? 第2・第3のオウム事件ですよ」。そして最後には、「陰謀論なんて法規制したほうがいい」とさえ言っていたのだ。この上祐氏の“警告”は、取材から4ヵ月後の昨年7月27日、予言の如く証明されることになる。津久井やまゆり園事件だ。植松聖被告は、陰謀論にどっぷりとハマっていた。イルミナティの陰謀を信じて、自らの勝手な正義を振り翳し、障害者福祉施設の入居者45人を殺傷。実に19名を殺害する。彼の論理は、「日本に巣くう悪魔のナチス勢力によって、障がい者は間引きされ、人体実験に利用される。施設の入居者がそんな非道な行為を受けるぐらいなら、僕自身が一思いに安楽死させてやるのが慈悲」というものだった。毎日の夜勤でボロボロになった状況で陰謀論へとハマれば、それを是正することは容易ではない。今のインターネット社会は、オウムのような教団でなくとも、教団の信者が陥った状況に簡単にハマり込んでいくのだ。本当に怖いのは“今後”にある。陰謀論の問題は、メディアがきちんと機能していれば、それほど危険ではない筈なのだ。抑々、陰謀論は報道の“裏読み”という側面がある。報道に信頼性があれば真に受ける人も減る。それだけの話であろう。ところが、トランプショックの後、この報道に深刻な不信感が出てしまった。ここが問題なのだ。「大手メディアは嘘を吐いている」「真実を報道しない」…そう考える人が急増。その穴埋めで、“隠された真実を伝える”という形で陰謀論の需要が高まっている。しかも昨今、急増している貧困層が、やはり陰謀論へとハマるようになった。陰謀論が都市伝説と融合したように、今度はメディア不信と貧困層が結び付こうとしているのだ。「その兆候は既に出ています」と前出の山口氏が言う。「確かに、この2~3年、ちょっとヤバい感じのファンが明らかに増えてました。例えば、『次にここで大地震が来る』みたいなネタに、皆が凄く喰い付くんです。書き込みを見ると、『来てほしくない』とか『対策を練ろう』じゃなくて、『絶対に来てほしい』と必死に願っている。『自分が不幸だから他人も不幸になれ』『いっそのこと、日本がぶっ壊れてほしい』。そう願うような人が急増している。これは、数年前にはなかった傾向です」。話を整理しよう。今の都市伝説は陰謀論が主流となっている。嘘を前提とした都市伝説というパッケージによって、特定の好象を徹底的に“悪”に仕立てることが可能となった。こうして、陰謀論を信じる人が増えれば増えるほど、憎しみは増していくことになった。その歯止めとなるべき大手メディアは、過去に例が無いほど信用されなくなった。寧ろ、陰謀論の“正しさ”をアシストしているぐらいであろう。そこに、急増した貧困層が飛び付く。自らの不幸を呪い、それを陰謀論によって特定の対象へと憎しみを募らせ、攻撃欲求を満たそうとすることだろう。メディア不信と貧困層の急増――。この決して融合させてはならなかった組み合わせによって、今、都市伝説は危険水域に突入した。“混ぜるな危険”。混ぜてはならないものを混ぜてきた結果、“都市伝説が日本社会を崩壊に導く”、そんな都市伝説が生まれようとしている。 (取材・文/フリーライター 西本頑司)


キャプチャ  2017年6月号掲載




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