【補助線】 “加計ありき”で進んだか

学校法人『加計学園』が愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画が、国家戦略特区に認定された経緯を巡って騒動となっている。「安倍首相が規制改革に名を借りて、長年の友人である加計学園理事長に利益誘導したのではないか?」と野党が追及しているのだ。先月17日の衆議院文部科学委員会で、民進党の玉木雄一郎氏が「文科省の作成した内部文書に、特区を担当する内閣府から“総理の意向”と伝えられたとの記述がある」と指摘し、問題が広がった。松野文科相は19日、「文書の存在は確認できない」との調査結果を公表する。前文科次官の前川喜平氏が「あったものをなかったことにはできない」と記者会見に打って出たのが、25日だった。前川氏は、“総理の意向”等とする文科省の文書を「本物だ」と断定し、昨年11月の『国家戦略特区諮問会議』での獣医学部新設の選定過程について、「行政の在り方が歪められた」と述べ、“前次官の乱”という様相を呈している。前川氏は、「昨年9月に和泉洋人首相補佐官から、『総理は自分の口からは言えないから、私が代わりに言う』と獣医学部設置の推進を求められた」とも説明した。だが、今回の再調査で出てきた文科省の文書を含めて、文書の存在が内閣府から伝えられたとされる“総理の意向”を裏付けるものではない。そこに書かれた内容が事実かどうかは別問題だ。内閣府は、“総理の意向”との発言や首相の圧力を否定する。首相も今月5日の参議院決算委員会で、「私が一々官邸スタッフに指示を与えることは、抑々あり得ない。政治レベルで私が指示する場合は文科相に指示をする」と反論した。1日のラジオ番組の収録では、「前川氏は、私の意向かどうか確かめようと思えば、文科相と一緒に私のところに来ればいいではないか」と疑問を投げかける。この点、前川氏は3日の日本経済新聞のインタビューで、「首相の意向かどうかは政策に関係がないので、首相に確かめる必要はない」と答えたが、会見の発言との整合性は保たれているのか?

“総理の意向”は所詮、伝聞の伝聞に過ぎない。それによって、行政の在り方はどう歪められたというのだろう? 国家戦略特区には、地域を限定して岩盤規制を穿つ狙いがある。獣医学部は1966年を最後に、「獣医師過剰の恐れがある」として新設が認められていない。大学設置の許認可権を持つ文科省が、首を縦に振らなかったからだ。前川氏は記者会見で、今回の獣医学部の認定について、「極めて薄弱な根拠の下で規制緩和が行われた」と批判した。獣医師の需給見通し等が十分に示されず、内閣府に押し切られたという。規制を正当化する側に、その立証責任がある。規制緩和で新規参入を認めたい内閣府に対し、規制を維持したい支科省が政府内の議論で敗れただけではないのか? 政府は、2015年に閣議決定した『日本再興戦略』で、“獣医学部新設の検討”を明記した。「獣医師の新たな具体的需要がある」「既存の大学・学部では対応が困難だ」等の開設4条件も示した。獣医師は、産業獣医師や公務員獣医師が不足し、地域の偏りもある。近年は鳥インフルエンザや口蹄疫等への対応も急がれる。今治市は、2007年に始めた特区指定申請を計15回も却下された。民主党政権の2010年に、それまでの“対応不可”から“実現に向けて検討”に格上げされ、昨年1月に漸く指定が認められた。昨年11月の特区諮問会議は、4条件にも留意し、獣医学部を特区のメニューに決定した。“広域的に獣医師養成大学の存在しない地域に限る”との要件も加えた。その後、“1校に限る”とされた。野党は“加計ありき”と批判するが、獣医学部ゼロの四国への誘導は不合理ではない。1校限定は、『日本獣医師会』の要請を受け入れざるを得なかったからだ。加計学園が今年3月に設置認可を申請した獣医学部は、文科省の『大学設置・学校法人審議会』で審査中だ。文科相がそれを受け、8月に設置の可否を決定して初めて、来年の開学へ準備が本格化する。政府は、こうした選定理由や経緯を丁寧に説明し、公正性への疑念を払わねばならない。民進党は今月7日、特区の新規適用停止法案を参議院に提出した。官僚主導の行政に戻したいのか? 加計学園に不満だからといって、特区を悪者にしてはいけない。 (論説主幹 小田尚)


⦿読売新聞 2017年6月17日付掲載⦿
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