【中外時評】 中国ネット統制、波紋広がる

「インターネットの安全を保障し、インターネット空間の主権・国家の安全・社会の公共利益を擁護し、公民や法人、その他の組織の合法的な利益を守り、社会と社会の情報化が健全に発展するのを促す」――。中国で今月1日に施行された『インターネット安全法』は、こんな文章で始まる。個人の権利や経済・社会秩序、そして国家の安全保障まで、幅広い課題に対する法律であることが伝わってくる。ユニークなのは、“インターネット空間の主権”を守ると明記した点だ。国内法で敢えて“主権”を主張したのは、サイバーセキュリティーの問題を国際的な視点から捉えていることの表れだろう。実際、中国のインターネット統制の波紋は世界的な広がりを見せている。同法については、中国に進出した外資が早くから懸念の声を上げてきた。例えば、「“大切な情報インフラの運営者”は個人情報や重要なデータを中国国内に保存しなくてはならず、海外に持ち出すには関係当局の定めに従わなくてはならない」との条項だ。「ビッグデータの持ち出しが禁じられるのでは?」。こんな声が聞こえてくる。実際にどんな影響が出るか、現時点では未知数と言える。“大切な情報インフラの運営者”が何を指すのか、はっきりしないからだ。そうした不透明感こそが、外資の不安を増幅している印象もある。国際的な人権団体等からは、「情報統制が一段と強まるのでは?」といった声が出ている。中国では最近、政権に批判的な発言で知られる北京大学の賀衛方教授が、自分の公式アカウントを閉鎖されたことへの抗議として、ソーシャルメディアでの“断筆”を宣言し、話題になった。習近平国家主席率いる共産党政権は、異論を封殺しようとする姿勢を益々強めている。インターネット安全法の施行は、賀教授への圧迫のような活動に対する法的根拠を改めて用意したことになろう。

波紋が及ぶのは中国の内側に限られない。アメリカで生まれ広がってきたサイバー空間のありようそのものが、影響を免れない。情報が国境をも軽々と飛び越えて自由に流通できる世界的なインフラとしてのインターネットに、共産党政権は早くから警戒感を抱いてきた。1998年には、公安省が『金盾工程』というプロジェクトに乗り出した。これは、国民の海外サイト閲覧を制限する『グレートファイアウォール(防火長城)』を含むインターネット統制の事業で、2006年に第1期の完了を宣言した。“自由”を核心とするインターネットを、中国は“統制”しつつ利用する道を選んだ訳である。今年初めに防火長城の迂回が困難になる等、インターネット統制は“進化”している。そこに改めて明確な法的根拠を用意したのがインターネット安全法であり、同時に金盾工程等の成果が同法の実効性を高めているとも言える。中国の取り組みは一部の国々、とりわけ独裁的な国々の指導者にとって魅力的なようだ。ジャーナリストの国際的な非政府組織(NGO)『国境なき記者団』は、10年以上も前から、中国の技術がキューバ等に提供されている可能性を指摘してきた。法体系の整備も、今後は協力のテーマになるのかもしれない。日本等民主主義の国々にとって、体制の維持を最優先する中国流は論外ではある。ただ、参考にすべきことが無い訳ではない。例えば、インターネット安全法は、エネルギーや金融といった重要インフラを担う企業に厳しい安全管理を義務付けている。インターネットの安全に関する宣伝・教育の重視を明確に打ち出している。サイバー空間の自由な情報の流通は、民主主義にとっても脅威となり得る。アメリカ大統領選を揺さぶったフェイクニュース、インターネットを利用したテロ組織の宣伝活動、個人攻撃やヘイトスピーチの拡散等を思い浮かべればいい。その対策は、中国のような独裁国家であれば寧ろ簡単と言える。情報の自由な流通を妨げず、それに伴う弊害を抑え込むにはどうしたらいいか? 民主主義世界は、共産党政権よりも真剣に取り組む必要がある筈だ。 (上級論説委員 飯野克彦)


⦿日本経済新聞 2017年6月22日付掲載⦿
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テーマ : 中国問題
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