【東京五輪後の地方経済を読み解く】(05) 出生率20%超のV字回復ビジョン、コンサルタントに丸投げの総合戦略

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安倍内閣が最重要課題の1つに掲げる“地方創生”の実現に向け、全国47の都道府県と殆どの市区町村が、地方版の人口ビジョンと総合戦略を2015年度中に纏めた。地方が目標人口を定め、達成に向けた事業を計画するのは本来意義がある筈だが、中身を見ると寒い実態が浮かび上がってくる。「人口減少に対する県の認識がずれており、捉え方が甘い」。2015年9月の岡山県議会一般質問で、自民党の青野高陽議員が声を張り上げた。青野氏が追及したのは、岡山県が纏めた人口ビジョン案の将来目標人口だ。人口ビジョン案は、「2010年国勢調査で195万人いた県人口が、2060年に155万人となり、その後、長期的に110万人前後で推移する」と予測している。『国立社会保障・人口問題研究所の推計』は、2040年で161万人。民間の『日本創成会議』が試算したデータでも、「新見市や真庭市等、県内14市町村が2040年に消滅の可能性がある」と指摘されている。人口ビジョンの予測が希望的観測過ぎるという訳だ。これに対して伊原木隆太知事は、「出生率の向上を図る等、人口減少に歯止めをかけることを前提にシミュレーションしたもので、決して実現可能な数字ではない」と答弁したが、他の会派に所属する県議からも「見通しが甘い」との声が上がった。人口ビジョンを纏めた岡山県政策推進課に改めて問い合わせても、「これだけ厳しい数字を達成しなければ、人口減少を食い止められない」という苦しい回答が返ってきた。人口ビジョンの予測に疑問の声が上がったのは、岡山県だけではない。静岡県議会では、2015年7月の常任委員会で、人口ビジョン案の合計特殊出生率(※1人の女性が一生に産む子供の平均数)設定に疑問の声が相次いだ。

静岡県は2014年で1.50なのに、2020年時点で2.07に設定されていたからだ。総務委員会では、『ふじのくに県民クラブ』の中沢通訓議員が「かなり大変な数字。絵に描いた餅になってしまう」と批判した。企画くらし環境委員会でも、『自民改革会議』の和田篤夫議員が「希望的観測ではないのか?」と追及している。新潟県湯沢町では、2015年8月の第2回総合戦略推進会議で、委員の林敏幸氏(同町商工会会長)が「合計特殊出生率が甘過ぎる。この数字の達成は絶対に無理ではないか?」と注文を付けた。湯沢町も、「2040年に2.07に合計特殊出生率が上昇する」としている。林委員の指摘に対し、湯沢町企画政策課は「非常に厳しい数値であることは承知している」としながらも、見直しをしなかった。内閣府の少子化社会対策白書によると、国内の年間出生数は、終戦直後の第1次ベビーブームで約270万人、1970年代前半の第2次ベビーブームで約210万人を記録したが、1975年に200万人を割り込んだ後は減少の一途を辿っている。2015年は約101万人まで減り、早ければ2~3年のうちに100万人を割り込むとみられている。合計特殊出生率は、第1次ベビーブームで4.3を超えていたが、1950年代以降に急激に低下した。1975年に2.0を下回り、2005年に過去最低の1.26を記録している。2014年は1.42と少し持ち直しているものの、欧米諸国と比べると未だ低い水準だ。静岡県や湯沢町が示した2.07は、現在の人口を維持できる数字で、日本でいえば高度経済成長期の水準に当たる。果たして、この数字の達成は可能なのだろうか? 全国47都道府県の人口ビジョンを見ると、人口見通しを数値で示していない東京都を除き、沖縄県が2050年、その他の道府県が2060年の目標人口を公表している。内、人口増加を予測したのは、16.3%伸びるとした沖縄県だけ。人口減少率10%未満は6県で、内訳は首都圏の埼玉・千葉・神奈川3県と、新潟・愛知・滋賀の3県。新潟県は全て三大都市国に入る。減少率10~20%は10府県あり、この中には関西の京都・大阪・兵庫3府県や福岡県が含まれる。予測人口で最も減少率が高かったのは、秋田県の43.7%。40%以上の減少率を示したのは秋田県だけで、青森・岩手・山形・島根・山口・鹿児島の6県が30~40%の減少率としている。この内、徳島県は2010年の人口79万人が、最大値で推移したケースだと、2060年に66万人になると予測した。何も対策を取らなかった場合の42万人に比べ、24万人も多い計算になる。減少率は16.4%。四国では飛び抜けて低く、政令指定都市を持つ静岡県や広島県並みの数字だ。四国は、全国で最も人口減少が深刻な地域の1つに数えられる。それなのに、こうした数字が出たのにはちょっとしたカラクリがある。徳島県は、合計特殊出生率を2025年から1.80、2030年から2.07とした上、「2020年で転入者と転出者が均衡し、2025年から年1500人、2030年から3000人の転入者増になる」と設定している。以前から出生率向上の目標を定めており、それに合わせた結果、高い目標人口になったという。徳島県地方創生推進課は、「県の計画で違う目標値を設定することはできない」と理由を説明する。

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こうしたカラクリは、他の都道府県でも見られる。多くの都道府県が人口予測に使った合計特殊出生率は、2030年から1.80、2040年以降2.07。これは、国の長期ビジョンの想定通りだ。各都道府県は、国が配布したワークシートに数値を入れて人口ビジョンを作成した。計算方法も国の指示通り。地域事情を勘案し、独自に捻り出した数値ではない。2004年からの10年間で、国内の合計特殊出生率は0.13ポイント上昇している。しかし、2040年に2.07まで引き上げるには、この10年の2倍のペースで上昇させなければならない。静岡県や徳島県のように、2.07の到達時期を前倒しすると、更にスピードアップが必要だ。非正規雇用の拡大で貧困に陥る若者が増え、保育所の待機児童がいつまで経っても解決しない状況の中、出生率のV字回復に疑問の声は多い。奈良女子大学大学院の中山徹教授(都市計画学)は、「高い目標を掲げるのは良いとしても、人口ビジョンの数値はあまりにも高過ぎる。出生率、転出入の均衡とも簡単に実現できるものではない」と厳しい見方を示した。高知県から徳島県へ東西に流れる四国一の大河・吉野川。源流部に近い高知県大豊町では、山肌にへばり付くように集落が広がる。出会う人は殆どが65歳以上の高齢者。若者や子育て世代の姿は中々見つからない。全人口の過半数を65歳以上の高齢者が占める集落を限界集落といい、自治体人口の半数を上回ると限界自治体と呼ぶ。大豊町は、20世紀中に限界自治体になった日本で唯一の自治体だ。1950年には2万4000人が暮らしていたが、過疎により人口が年々減少した。2010年の人口4700人の内、65歳以上の高齢者は2500人余り。高齢化率は54%、町民の平均年齢も61.9歳に達する。

町内には、消滅した1集落を除き、85集落がある。うち、限界集落が65集落、55歳以上が過半数を占める準限界集落が19集落を数える。限界集落や準限界集落に該当しないのは、たった1集落。11集落は世帯数10戸を割っている。町民の多くが農林業で生計を立てているが、独り暮らしの高齢者の孤独死や老々介護は最早当たり前。無医地区は3ヵ所もある。役場がある町の中心部を除けば、買い物をする場所が殆ど無く、町と町商工会が進める宅配サービスが住民の暮らしを支えている。まるで高齢化社会の行き着く先を凝縮したような場所だ。そんな大豊町の総合戦略には、林業の担い手として70人の育成、木質バイオマス発電所の誘致、柚子加工品の販売促進、薬草栽培の推進等、具体的な施策が次々に並ぶ。だが、これらの施策は、これまで町が推進してきたことばかり。殆どが過去の実績から目標を上方修正している。大豊町プロジェクト推進室は、「町の総合計画と整合性を持たせる必要があり、過去の施策から逸脱した方向は打ち出せない」と打ち明ける。総合戦略は、人口ビジョンで打ち出した目標人口を達成する為、具体的な方策を纏めるのと規定されている。しかし、都道府県の総合戦略を見ても、大豊町と大きな変化は無い。殆どが従来から続けられてきた施策の延長で、最近の流行とも言えるサテライトハウスの誘致やインバウンド観光の推進、Uターン・Iターンの促進、婚活パーティーの開催、農業の6次産業化等が盛り込まれている。少子高齢化対策や東京一極集中の是正は、以前から各自治体の課題になってきた。これらの問題は従来の政策で解決できなかったにも拘わらず、独自の視点から対処しようとする事例はあまり目につかない。その結果、自治体の規模や地域性に関係なく、大差無い内容になっている。「国の支援メニューの範囲内で、自治体の担当者が思いつく事業を総花で並べただけ」という見方もできる。国の総合戦略に準拠している点も、人口ビジョンと同様だ。国の総合戦略で設定した政策分野は、①安定した雇用を創出する②地方への人の流れを作る③若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える④時代に合った地域を作り、安全な暮らしを守ると共に、地域と地域を連携する――の4項目。国が手引書を配布して参考にするよう指示したこともあり、国の4項目を踏襲して計画が策定されたところが多い。この内、宮城県・茨城県・佐賀県等11県は、政策分野だけでなく、記述の順番も同じになっている。中山教授の分析によると、政策分野の分け方は同じだが、順番を入れ替えたもの、国が1つにした分野を2つに分割する等、少し手を加えたものを含めると、34県は国と同じ構成で総合戦略を纏めているという。国が交付金を餌に計画策定を迫ったこともあり、新交付金の施行に合わせた急ごしらえの感も否めない。

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各自治体が人口ビジョンと総合戦略策定に動き出す2014年度後半に、コンサルタント業界はバブル景気に沸いた。各自治体から計画策定に向け、様々な依頼が殺到したからだ。何かあればコンサルタント会社に丸投げする自治体の姿は、過去に何度も見られたが、地方が危機的な状況を迎えても体質は大きく変わっていないように見える。中山教授は、「国の枠組みを超え、独創性を持つ総合戦略は非常に少ない。厳しい見方をすれば、交付金目当てに策定したとも言える。この計画で目標人口を達成できるとは、とても思えない」と指摘する。国は常々、「知恵は現場にある」として、地方の自立を促してきた。地方が“お任せ民主主義”から脱却しなければ地方創生の成功が覚束無いからだが、国の意向や財政支援の枠組みに従って自治体が計画を立てる構図は、以前と変わらない。第1次安倍内閣の2007年に成立した企業立地促進法でも、国の支援を希望する自治体は地域産業の活性化を目指す基本計画を策定するとされた。交付金や補助金をちらつかせながら、自治体の競争心を煽る手法が、また繰り返されたことになる。人口減少対策が自治体にとって生き残りをかけた戦いであると同時に、国政の最重要課題であることは言うまでもない。しかも、地方の消滅を防ぐ為には、今回が最後のチャンスになるかもしれない。それなのに、霞が関で画一的な構想を立案し、それに見合う形の対策を自治体が考える旧態依然のやり方を踏襲している。絵に描いた餅を幾つ並べても、地方が元気になることはない。国に求められるのは、地方交付税等の地方予算を適正に配分し、地方が自由に工夫できる環境を作ることだ。単に危機感と競争心を煽るだけでは、平成の大合併にも似た自治体の淘汰が進むだけになりかねない。 (取材・文/政治ジャーナリスト 高川泰)


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