【Global Economy】(42) アメリカ経済占う3つの謎…景気後退、長期金利は“警告”する

アメリカの景気拡大はいつまで続くのだろうか? 上がらない長期金利・伸び悩む物価・読めないトランプ――。アメリカ経済を占うには、3つの“謎”の行方を見ておく必要がある。 (本紙経済部長 天野真志)

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アメリカの『連邦準備制度理事会(FRB)』が、政策金利の引き上げに踏み切った。景気過熱を防ぐ狙いがあり、ジャネット・イエレン議長は「アメリカ経済は好調で底堅い」と成長持続に自信を示した。だが市場からは、こんな囁きも聞かれる。「コナンドラム(conundrum=謎)の再来に要注意だ」。FRBは2015年末以降、4回の利上げをした。ただ、政策金利に連動して上がる筈の長期金利は上向かず、2%台前半の低水準で推移する(※グラフ①)。過去には、2004年から2006年にかけて計17回の利上げをしたが、長期金利は上昇しなかったことがある。当時のアラン・グリーンスパン議長が“コナンドラム”と呼び、有名になった現象だ。この時は、「経済が好調なアメリカに新興国から資金が流れ込み、アメリカ国債が大量に買われ、金利が低く抑えられた」との謎解きがされた。低金利が住宅バブルを生み、2008年以降の金融危機に繋がったとして、グリーンスパン氏は退任後、厳しい批判に曝された。では、現在の“上がらない長期金利”は何故起きたのか? 海外からの資金流入は今も見られる現象だが、それよりも「経済の先行き懸念が影響している」との見方が市場では有力だ。将来への不安が、家計や企業の資金需要を減退させ、“経済の体温計”とされる長期金利の上昇を阻んでいるというのだ。アメリカの景気拡大期は8年に及ぶ。第2次世界大戦後では、既に3番目に長い拡大期となっている。「息切れは近い」――。そんな不安が消費や投資の意欲を削ぎ、金利を抑える。兆候はもう表れている。先月の新車販売台数は、5ヵ月連続の前年割れだった。小売り売上高は1年4ヵ月ぶりの大きな落ち込みとなった。住宅着工件数も3ヵ月連続で減少している。

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この背景には、アメリカの家計の借金が膨らんだことが窺える。今年3月末に、家計の債務残高は12.7兆ドル(約1410兆円)と、リーマンショック直後の2008年9月末に記録した過去最高額を上回った(※グラフ②)。個人消費は、アメリカの国内総生産(GDP)の約7割を占める。不安は深刻だ。「このまま利上げを続けていくと、短期金利が長期金利より高くなる逆転現象が起きる」との指摘もある。お金を長く貸せば、一般的に貸し倒れの危険が高まる。この為、金利は通常、短期より長期のほうが高い。問題は、“長短逆転”が起きると、1~2年後に景気が後退する歴史をアメリカが繰り返していることだ(※グラフ③)。最近も、2000年と2006年に金利が逆転した後、何れも景気が悪化している。金融機関は、低い短期金利で調達したお金を高い長期金利で貸し、利鞘を稼ぐ。「長短逆転で金融機関が利鞘を得られないと、お金の流れが滞り、軈て景気が冷える」と考えられる。最近の市場では、寧ろ低金利を好感して株高が続くが、“上がらない長期金利”の謎が、アメリカ経済の今後への警告を秘めている点に留意せねばならない。2つ目の謎は、雇用が改善しているのに物価は伸び悩んでいる現象だ。アメリカの失業率は、16年ぶりの低水準の4.3%に下がった。だが、最新の個人消費支出物価指数は、前年同月比1.7%の上昇に留まる。FRBは2%の物価上昇を目指すが、2月に約5年ぶりに2%台をつけた後は1%台のままだ(※グラフ④)。普通は、失業率が下がると、働き手を確保したい企業が賃上げに動き、消費が活発になって物価が上がる。ところが、平均時給の伸びは、良好な数値の目安とされる“3%”を約8年間も割り込んだままだ。謎の理由に未だ定説はないが、「低成長の長期化で経営者心理が冷え、業績が改善しても賃上げに踏み出し難い」との見方がある。「雇用が増える年齢や職種は、比較的賃金の安い若年層やサービス産業が多く、賃上げ規模が小さくなる傾向がある」との指摘もある。失業率の低下を理由に、賃金が上がらないまま利上げを続けると、景気を冷やし過ぎかねない。FRBには、より慎重な“市場との対話”が求められる。

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3つ目の謎は、ドナルド・トランプ大統領のイエレン議長に対する姿勢が読めないという問題だ。トランプ氏は大統領選中、イエレン議長の金融政策を激しく批判した。輸出産業に有利なドル安を好み、低金利政策を志向するトランプ大統領と、利上げを進めるイエレン議長の衝突が懸念れている。ただ、トランプ大統領は就任後、一転して「議長を尊敬している」と語った。今は「来年2月の任期切れでイエレン議長が退任し、トランプ大統領の意に沿う人物が後任に就く」との観測が根強いが、続投説も消えてはいない。FRB議長と大統領の確執は過去にもあった。1980年代には、ロナルド・レーガン大統領が高金利政策を進めるポール・ボルカー議長と対立。反対派の理事を次々とFRBに送り込み、議長を辞任に追い込んでいる。今回も両者の対立が表面化し、FRBの独立性への信頼が揺らげば、市場の波乱要因になりかねない。日本は現在、5四半期運続のプラス成長を遂げ、企業収益も過去最高水準にある。だが、これは円安と輸出に支えられた回復だ。アメリカの長期金利が上昇しないままだと、日米の金利差は開かず、円安は進み難くなる。経済の推進力を海外に頼り続けては危うい。内需主導の自律的な成長の実現が愈々急務だ。“謎”に悩んだグリーンスパン元議長は嘗て、「未来を予測する能力に対し、我々は慎重で謙虚でなければならない」と語った。現在でも、“3つの謎”がより深まり、好調とされるアメリカ経済が暗転するリスクを軽視するのは禁物だ。アメリカ主導の世界的な景気回復に安堵し、経済政策の手を緩めてはならない。


⦿読売新聞 2017年6月23日付掲載⦿




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テーマ : 経済
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