【有機EL&半導体バブル】(01) スマホ画面の主役が交代…投資ブームに火が点いた

20170626 14
「有機EL投資ブームに火が点いた。工程上、有機ELは液晶よりパネル製造装置を数倍多く使う。装置メーカーは関連投資で恩恵を受け、活況だ」――。『野村証券』マネージングディレクターの和田木哲哉氏は、こう指摘する。『ローツェ』(※証券番号6323)・『アルバック』(※同6728)・『ブイテクノロジー』(※同7717)といったディスプレイパネル製造装置株が、今年に入って相次いで上場来高値を更新した(※株式分割を考慮したベース)。株高を支えるのは、相次ぐ装置受注や好調な業績だ。各社は、受注案件の納入先や装置の種類等詳細を開示していないが、市場では「有機ELパネルメーカーからの旺盛な受注」というのが一致した見方だ。有機ELパネルメーカーは昨年来、巨額の設備投資に動いている。特に、量産体制を確立している韓国2強は驚異的な額を注ぎ込む。『サムスンディスプレイ』の今年の有機EL投資は、10兆ウォン(約1兆円)に上ると囁かれる。『LGディスプレイ』も、坡州工場での有機ELライン増設に約2兆ウォン(約2000億円)を投じることを発表する等、こちらも総額10兆ウォンの設備投資が囁かれる。新産業育成を国策とする中国でも、パネル工場新設が相次ぐ。有機ELの活況を演出しているのは、『Apple』のスマートフォン『iPhone』だ。今秋発売の新型iPhoneの内、高級モデルへの採用が決まっている。今年4月、「サムスンディスプレイに7000万枚を注文した」というニュースが世界を駆け巡った。『みずほ銀行産業調査部』の調べでは、今年の有機ELディスプレイ出荷見込み額は、前年比26%増の210億7500万ドル(約2兆3400億円)に達する。その87%を占めるのはスマートフォン向けだ。

『サムスン電子』や『オッポ』(中国)等、有機ELを採用したスマホは既に存在する。しかし、Appleが採用すれば、一気に他機種へ波及する。調査会社『IHSグローバル』上席アナリストの早瀬宏氏は、「今年はスマホデイスプレイの主役交代期。ハイエンド(※高級品)機種で、液晶から有機ELへの転換が加速する」と指摘する。現在、スマホ用有機ELパネルを量産できるのは、サムスンディスプレイとLGディスプレイのみだ。この内、サムスンディスプレイは世界で逸早く量産に成功した先駆者で、グループ内のサムスン電子のスマートフォンにもパネルを供給してきた。サムスンディスプレイが新型iPhoneに独占供給できるのは、LGの量産技術が、発売時期である今秋までに間に合わなかったた為とみられる。但し、Appleにすれば部品は複数社から調達するのが基本路線だ。更に、スマホ端末でライバル関係にあるサムスンディスプレイのみにパネル生産を委託したくないのが本音だろう。そこで来年以降は、量産技術が確立しつつあるLGディスプレイにも発注するとみられる。両社は巨額投資によって、Appleと追随する他スマホメーカーの需要に応える。こうしたスマホ需要急増を見越して、『ジャパンディスプレイ(JDI)』・『BOE』(中国)・『天馬微電子』(同)・『AUO』(台湾)等も研究・開発には着手しているが、量産には至っていない。『みずほ銀行』産業調査部の益子博行調査役は、「有機ELは標準的な量産方法が確立していない。試行錯誤と努力で量産ラインを築いた韓国2強は、秘伝とも言える量産方法を門外不出としている。他社が巨額投資しても、安易に追い付けるものではない」と指摘する。技術が汎用品化した液晶の場合、製造装置を設置すれば、ラインである程度の品質の完成品ができる。装置の鍵を捻れば直ぐに商用に量産できる“フルターンキー”状態だ。これに対して、有機ELは材料同士の相性、材料と装置の相性があり、組み合わせや温湿度な等をラインに乗せて調整しなければならない。新規参入組は、謂わば手焼き煎餅を焼いている状態で、今後、如何に煎餅の品質を揃えて大量生産できるかがカギになる。この点が、10年以上前から『ソニー』・『パナソニック』・『JDI』が取り組んでも達成できなかったことだ。一方でサムスンディスプレイは、装置メーカーの『キヤノントッキ』と組んでこつこつと量産体制を築き、2007年から量産を開始した。JDI、中国勢、台湾勢は、韓国の世界2強に追いつこうと猛烈に研究・開発を進めている。

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パネルでは“先行する韓国2強と追う中国・台湾・日本勢”という構図だが、存在感を示すのは日本の装置・部材・材料メーカーだ。有機EL材料を吹き付ける蒸着装置(※詳細は次回)は、信頼できる製品・サービスを提供できるのは、世界でキヤノントッキとアルバックの日本勢2社ぐらいと言われる。両社の製品は引く手数多で入手困難だ。特にキヤノントッキは、サムスンディスプレイの量産体制を築いた功労者として人気が高い。部材・材料では、旺盛な需要を見込んで増産傾向が相次ぐ。『住友化学』は来年1月から、タッチセンサーの需用増を見越して、韓国の拠点を3倍強増強することを決めた。『出光興産』も、韓国の発光材料の製造拠点を増強して、生産能力を年間5トンから8トンに引き上げる。今年度上期の完工を目指す。この投資ブームは、いつまで続くのか? 『ディスプレイサプライチェーンコンサルタンツ』の田村喜男氏は、「未だ技術開発の余地があり、2025年まで投資ブームは続くのではないか?」と予想する。有機ELは現在、低消費電力・薄さ・高画質を売り物にしているが、今後も“折りたたみ式スマホ”を見込んだ技術開発が進むというのが理由だ。技術開発の過程では、材料・部材・装置・パネルメーカー等あらゆるメーカーが関わる。ディスプレイ業界には、液晶で2010年代前半、中国勢の相次ぐ参入で価格競争に陥った苦い経験がある。材料からパネルメーカーまでのサプライチェーン全体が利益の取れなくなった後遺症は、今も日本勢に残る。有機ELの投資ブームで“バブルの宴”を謳歌し続けようとするならば、不断の技術革新とコスト管理が求められている。 (取材・文/本誌 種市房子)


キャプチャ  2017年6月13日号掲載




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