【Deep Insight】(25) それでも挑むデータ立国

昨日(30日)、改正個人情報保護法が全面施行された。企業等に安全な情報管理を求めつつ、個人の行動や状況に関するビッグデータの利用を促し、産業創出で国の活力を高める狙いがある。個人を特定できないよう手を加えれば、本人の同意を取らなくても情報を使える“匿名加工”という仕組みも取り入れた。日本も愈々、データ活用に本腰を入れる。そんな矢先の今月半ば、大規模なサイバー攻撃が世界を襲った。パソコンやサーバーのデータに暗号をかけて使用不能にし、解除の見返りに身代金を要求するランサムウエアが使われた。被害は150ヵ国・地域に及び、イギリスでは病院の機能が麻痺した。日本への影響は軽微だったが、デジタル社会の危うさを示した。サイバー攻撃の手法は日々巧妙化し、完全に防御するのは難しい。「2020年の東京オリンピックに向け、人と情報が集まる日本への攻撃が今後激しくなる」との見方は多い。ならば、データ活用にブレーキをかけるべきなのか? 結論から言えば、その選択肢は無い。攻撃への備えに努力しながら、寧ろデータ活用のアクセルを踏み込む時だ。それだけの価値はある。例えば医療だ。国民が病院や診療所で受けた医療の情報を網羅するデータベースを作る国家プロジェクトが動き出した。内閣官房は2年後に5000万人規模を目指し、企業や大学等は匿名加工された情報を買うことができる。データを使いこなすことで見込める利点は多い。効果の高い治療法や薬、異なる病気同士の意外な相関等がわかる可能性がある。診断を支援する人工知能(AI)の学習にも役立つ筈だ。新しいヘルスケア産業を編み出せれば、国民の健康寿命が延び、社会保障費の膨張に歯止めをかけられるかもしれない。企業人・研究者・医師等にとって、相当やり甲斐のある仕事ではないか。データは“21世紀の石油”と呼ばれ、経済を動かす燃料になる。とりわけ、個人に纏わるデータは巨大な力を秘める。それをわかり易い形で実証したのは、ライドシェア(相乗り)サービスの『ウーバーテクノロジーズ』だろう。人の居場所という情報を用いて、乗客とドライバーをリアルタイムに繋ぐ。新たな交通手段として各国に伝わり、自動車産業やタクシー業界を揺さぶる。企業価値は凡そ7兆5000億円。『ホンダ』の株式時価総額を3割以上上回る。1月には、サービスを通じて集めた個々人の移動データを匿名化して公開し、地方政府等が都市の交通インフラ整備に役立てられるようにした。中東のドバイ等と組み、“空飛ぶタクシー”の実用化にも乗り出した。データ経済の豊かな潜在力を示した同社の功績は大きい。

改正個人情報保護法の施行は、日本にとって一歩前進ではある。だが、ウーバーの例が示すように、肝心なのはデータを駆使して世の中を変えようとする起業家精神だ。日本にもその芽は育ちつつある。AIベンチャーの『ABEJA』(東京都港区)は、来店客の顔画像をカメラで撮って解析し、性別や年齢を推定したり、店内での動きを把握したりできる技術を手掛けている。来店客の属性や行動のデータから、合理的な品揃えや店員の配置を割り出す。勘や経験では得られない知見を求め、既に百貨店等300店以上が導入した。国内のサービス産業は予て、生産性の低さが指摘され、人手不足の逆風も吹く。「技術でできることは多い」。データによる業務革新を訴える岡田陽介CEOは、アメリカの半導体大手『エヌビディア』からも出資を受けた。2013年設立の『スマートドライブ』(東京都品川区)は、人がいつ、どこを、どう運転したかというデータを車から集め、様々なサービスに応用する会社だ。企業の車両を管理する他、安全運転すると安くなる自動車保険、高齢ドライバーの見守り等も思い描く。両社は、社会課題の解決にデータを生かす“攻め”だけでなく、“守り”も怠らない。ABEJAは、撮影した顔画像を直ぐ破棄し、個人情報を残さない。スマートドライブは情報セキュリティーの国際認証を取得し、北川烈CEOは「個人情報・データを無闇には集めない」と言う。4年前、『JR東日本』がIC乗車券のデータを『日立製作所』に提供した時は、説明不足が乗客の不安を招き、批判を浴びた。プライバシーや個人の気持ちに鈍感では、データ経済の担い手として失格だ。データ立国に挑むべきなのは、産業創出だけが理由ではない。インターネットが一般化したこの20年余り、世界はアメリカ発のITに大きく依存してきた。データ分析力でもアメリカ勢は突出する。「データ活用の為の日本の技術基盤が心配だ」。『ヤフー』の別所直哉執行役員は危機感を隠さない。『ヨーロッパ連合(EU)』のヨーロッパ委員会は今月18日、『Facebook』が対話アプリ大手『ワッツアップ』の買収時に示した情報が不正確だったとして、約140億円の罰金を科した。大量の個人情報を握り、広告事業等で影響力を強めるアメリカ企業への警戒が背景にある。あらゆるモノがインターネットに繋がるIoT時代に入り、アメリカ勢はAI家電やウェアラブル機器を通じ、私たちの身の回りのデータも集め出した。国民の思考や健康状態までわかるとなれば、安全保障にも関わる問題だ。ハードルは高いが、日本もデータを扱う技量の底上げを諦める訳にはいかない。 (本社コメンテーター 村山恵一)


⦿日本経済新聞 2017年5月31日付掲載⦿
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