【オトナの形を語ろう】(30) 快楽ほど厄介で、人間の本能を動かすものはない

先週は、「自分本位のセックスはダメだ。そういうのは止めておけ」と書いた。その理由は、私たち人間がすることには、特に男がすることは、自分だけがイイ思いをすればそれでイイというのはあり得ないからだ。こう書くと、何人かの読者は、それも若い時から女というものと人並み以上に接し、何人もの女と肌を触れ合ってきた者なら、「男と女がヤルのに理屈なんぞいるものか」と言う者もいるだろう。私もそういう類いの男どもの何人かと付き合ったし、実際、彼らの女との接し方、果てはどんなセックスをするのかを覗かせてもらったこともある。そんな男の中で真面に生き抜いた男の、本音と思われる言葉を紹介すると、こうだった。「女は可愛いもんだ。そりゃ凄いのもいたが、詰まるところは“女は可愛い”、かけがえのないもんだよ」。赤ん坊がセックスができないように、老いさらばえば、性器なんぞは只の身体の部位として、萎びたまま垂れ下がるものだ。その男たちの話は後で話すとして、これを読んでいる君が、童貞であろうと、自分1人が男女の事情に手練れと思っていようと、童貞と手練者の間でも、セックスに大した差異は無いということだ。肝心は、相手のことを考え、思ってセックスができるということが、如何に大事かということだ。

先週も話した通り、相手を悦ばすことを私は言っているのではない。そんなもんは“女衒”か“竿師”に聞けばいいし、彼らが毎日毎夜、天国にいるようなセックスをしている訳ではないというのはわかり切っている。童貞は別に恥じることでも何もない。童貞でなかった男は、この世の中に1人もいないんだから。セックスが上手いってことを自分の長所だと思っている輩がいたら、そいつは最低で、男と女から言う“クズ”でしかない。セックスは怖れることでもないし、自慢するようなものでも、勿論ない。男と女が出逢って、そこで「ずっと同じ時間、同じ場所にいたい」と思ったとしよう。男には凸の部位があり、女には凹の部位がある訳だが、「相手が欲しい」という感情によって血が凸に集まり、凹のほうも同じく、「相手を欲しい」という感情が働けば、凸を受け入れ易いものに自然となるように、人間の身体はできているんだ。何も、男の顔・かたちがイイからとか、甘い言葉を言ってくれたから、凹がそうなるんじゃないんだ。私たち男に生き様や、「こう生きたい」という精神があるように、女たちにも同様に、「こう生きたい」「こうしなくては」という精神があるのは当然だ。それに反してまで、セックスはやるほどのものではないということだ。そういうことを踏まえて、相手に向かって行けば、きちんとした悦び・快楽が来るのがセックスというものだ。

「それってでも伊集院さん、建前というか、上辺だけの話でしかないんじゃないですか?」「そりゃそうだ。そういうことがセックスの肝心と俺は思っているからさ」「でも快楽って、建前や上辺のこととは別のものじゃないんですか? そういう話をよく聞きますし、快楽はもっと別の場所にあるもんじゃないんでしょうか?」。快楽か…。じゃ少し、快楽のことについて話そう。快楽ほど圧介で、人間の本能を平然と動かすものは、確かに他には無いだろう。「“快楽”に一番近い言葉は何なのだろうか?」と以前、“快楽”をテーマにした小説を執筆している時に考えたことがあった。快楽に最も近い言葉があるとすれば、私は“全てのものから解き放たれること”だと思う。全てのものとは何だろうか? それは、1人の人間が、そいつが何者かという証のようなもの、社会的な存在の証明と言ってもいいが、出処も、家族も、大人であれば身内も、会社、仕事も、若しかして善人を演じてきたかもしれないものも…その全てを放り出し、只々解放に向かって突き進んで行く状態を、快楽に向かって進むことと言えるんだろう。ところがそれは、できる・できないじゃあないんだ。そうすることが全てだと思って、いや思ったりもせず、只々快楽に向かって進むことで得る快楽が、この世に存在しない訳じゃない。実際、そうやって生きている人間は存在するし、私も見てきた。都合の良いことに、同じような考えをする相手(※女でも男でも構わないが)がいるのも事実である。ただ、それは特別な連中だ。何故なら、快楽の連続は、死の、減亡の連続でもあるからだ。フランス人は昔から、快楽を特別と考えた。来週は、その快楽の話をしよう。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺』(集英社)。


キャプチャ  2017年7月3日号掲載
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